AMNESTY (I) / CRYSTAL CASTLES | A Flood of Music

AMNESTY (I) / CRYSTAL CASTLES

 CRYSTAL CASTLES(クリスタル・キャッスルズ)の4thアルバム『AMNESTY (I)』のレビュー・感想です。アリスの脱退という衝撃の後、新たなボーカルとしてエディスを迎え入れ新体制となった彼らの初アルバムです。

アムネスティ(I)/クリスタル・キャッスルズ

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 オリジナルのリリースは先月ですが、ライナーノーツが読みたかったので今月リリースの日本盤を購入。収録曲目は変わらず、日本盤限定曲とかもないので、オリジナルと共通のレビューとします。


 今回は始めに全体の感想を述べてしまいます。先述の通り新体制となった彼らですが、今作の印象としては、あれ?今までとあまり変わってないなというものでした。これをポジティブに受け取るか否かは個々人で割れるところでしょうが、作曲が今まで通りイーサンであるということに、エディスの声質がアリスに似ているということを加味すれば、従来のサウンドに近いのも頷けます。

 というわけで、従来のファン、とりわけ前作『CRYSTAL CASTLES (Ⅲ)』(2012)が好きだったという方は、(過去アルバム3枚の中では)サウンドが似ているので今作も気に入ると思います。個人的には前作も好きだったので勿論今作も好きなのですが、ゲームミュージックっぽい1st→バラエティに富んだ2nd→自傷的な感じがする3rdと、アルバムを出す毎に異なる世界観を見せてくれていたので、4thもまたがらりと変えてくるかと思っていました。

 ここまでの文章を読むと、何だ進歩していないのかというような印象を受けるかもしれませんがそれは誤解で、今作は今作で独特の世界観がありますし、サウンドも進化していると感じたので、3rdの焼直しといったようなネガティブな印象は持ちませんでした。伝わるか微妙ですが、前作はホラーとかスプラッターなアングラ感だったのに対し、今作はストリートやスラムのアングラ感があるといった趣。そんな『AMNESTY (I)』、1曲ずつレビューしていきます。


01. FEMEN

 讃美歌を思わせるようなボーカルがフェードインして静かに幕開け…かと思いきや細かいビートが加わり、心が落ち着くんだかざわめくんだかわからない不思議な気持ちにさせてくれます。美しくゆっくりとしたサウンドをバックに細かいビートが刻まれる感じはAphex Twinっぽいなと思ったり。この曲は今までにないタイプだったので、今作は宗教色を取り入れたアルバムかな?と初聴のときに予想しました。その予想は中らずと雖も遠からずといったところでしょうか。

02. FLEECE

 やわらかそうなタイトルを裏切る攻撃的なサウンドの曲。ライナーノーツにはタイトルに関しての推察も載っていましたね。うねるような怪しげなシンセに乗せて、3rdで顕著だった遠くから叫んでいるような加工を施されたボーカルと、気だるげに歌いあげるパートが交互に出てきて、耳に刺激的な荒々しいシンセが間を繋ぐといった構成です。

03. CHAR


↑YouTubeの動画の説明に歌詞が載っています。

 割とキャッチーだと思う。ボーカルの旋律が比較的わかりやすく且つ綺麗な加工で歌われているので、アレンジが違えば普通の楽曲に成り得るのではと。ただ、それを普通の範囲に収めないのがCRYSTAL CASTLESで、野太く弄られた"All you do is cry"を含む1:07~のアレンジが凄くかっこいい。そこまでの切ない感じから急に振り回されるような感覚になるのが堪らない。ふわふわしていた身体に重みが加わったような、そんな感じです。

04. ENTH



 動画は短いバージョンですが、それでもこの曲の持つエネルギーは伝わると思います。こういうわかりやすくダークで激しい曲ってたまに無性に聴きたくなる。今風のサウンドという感じではありませんが、CRYSTAL CASTLESが再構築して現代に放つと新鮮な感じがしますね。特に1:23~は陶酔感が凄まじく美しいです。この曲のボーカルは特にアリスを彷彿とさせるので、ああCRYSTAL CASTLESだなぁという感じ。アリスへの懐古というより、イーサンのトラックへのエディスの親和性を褒めたい。

05. SADIST

 ここでちょっとクールダウンできる曲が登場。まぁ音としては激しいところもあるんですが、サディストという題からもっと凶悪な曲が来ると予想していたので、少し落ち着きました。曲全体で感じるイメージは怒りや悲しみで、静かに血が滴っている印象を受けた。0:53~の砂嵐みたいな音が刻むビートが曲調とギャップがあってツボです。

06. TEACH HER HOW TO HUNT

 1分台の不気味な曲。曲というより環境音といった感じ。ビートはなく、マイクに風があたる音なのか動物の鳴き声なのか人の呻き声なのか判然としない音(声)でガチャガチャしている。その他にも何だかわからない音が鳴っていますが、唯一曲たらしめているのは徐々に大きくなるパッドシンセ。これが更に不穏な空気と緊張感を生んでいます。うーん、怖い。今までにも怖い曲は何曲かありましたが、乗れるビートがないと逃げ場がない思いに駆られますね。

07. CHLOROFORM

 フィクションではよく見るクロロホルム。嗅いだらすぐに眠ってしまう(気を失う)イメージですが、この曲も眠りを誘発するようなゆったりとした曲です。しかし、時偶それを打ち破るような図太い音が入ってくるので完全に寝かせてくれません。ラストには耳を劈くシンセが入ってきていよいよ覚醒かといった感じに。何回も聴いていたら自律神経に不調を来しているような気がしてきました。乱用注意。笑

08. FRAIL

 エディスを迎えて始めて世に出された曲。新生CRYSTAL CASTLESのお披露目曲というだけあって、わかりやすくてかっこいいです。特にバックで鳴っているシンセ、イーサンだったらもっとひねってきそうと思ったのですが安心のコード進行で驚く。後半にかけて狂っていくのかと思いきや最後までキャッチーだった。この曲を含めて、ここからアルバムがダンサブルな流れに入ったように思います。

09. CONCRETE



 MVがあり先行シングルだったようです。この曲の感想は04.「ENTH」と共通する部分が多く、CRYSTAL CASTLESによって現代に再構築された、彼ららしいダークで激しい曲という印象は同じです。しかし、こちらの方が疾走感に満ちていて、ボーカルの加工の仕方もより好み。エコーのかけ方とか歌い出しが詰まるようなエフェクト処理にもセンスを感じます。そして2:29~ラストにかけてのアレンジが最高。

10. ORNAMENT

 今作でいちばん優しい曲。いちばん長い曲でもありますが、全編通して攻撃的な音は出てきません。オーナメントというとクリスマスを連想しますが、確かに冬っぽい空気感の曲だなと思いました。

11. KEPT

 今作で最も気に入りました。イーサンの遊び心が満載の曲で、短いフレーズをつなぎあわせてメインメロディーを構築するサンプリング的手法が光ります。その点で気になることがあって、これは制作途中の別の曲(フレーズ)の一部をシンセごと切り貼りしているのか、ボーカルだけを切り貼りしてあとからシンセの音を入れているのか、どっちなんだろう。ドラムとベースは後入れだとわかるんですが、シンセは音に統一性があるので後入れのような気がする一方で、元曲(フレーズ)のシンセをそのまま活かしているようなぶつ切り感もあって判別がつかない。どっちでも結果的に同じような仕上がりにはできるやり方だと思いますが、DTMやる身としては制作手法が気になります。笑
 基本的にはずっと同じノリノリのメロディーなんですが、1:01~で音数を減らして異なるビート感を生みだしたり、2:32~は切ない感じの旋律に切り替えたりと、飽きさせない工夫が嬉しい。

12. THEIR KINDNESS IS CHARADE

 ラストは01.「FEMEN」と同じく神聖な感じで始まり、それがしばらく続くので最後は穏やかに終わるのかなと思って聴いていたら、徐々にシンセによるビート感が生まれてきて、キックが入ってからはシンセもそれに連動して一気にアッパーに。そんな感じで静と動が繰り返されるメリハリのある曲です。動のパートはなぜかめちゃくちゃ宇宙を感じます。


 以上全12曲でした。全体の感想は最初に述べたので改めてここでは書きませんが、確かな進化を感じさせつつも、今までのファンもすっと入っていける作りになっているので、ボーカルが変わったからと渋っている方にもおすすめできます。

 そして初めて手を出そうとしている人にも4thはおすすめだと思います。1stはゲームサウンドで好みが分かれるだろうし、最初に3rdはハードルが高い気がする。2ndはバラエティ豊富でいちばん好きなんですが、悪く言えばアルバムとしての統一性に欠けると思うのでCRYSTAL CASTLESを掴むのには向いてないかなぁと。

 思えばCRYSTAL CASTLESを聴き始めたきっかけは、ブログのアメンバーさんに教えてもらったからでした。1stを僕好みじゃないかと薦めてくれた彼には感謝しています。もう彼は退会しているのでこの記事を見ることはないかもしれませんが、こうしてCRYSTAL CASTLESの単独記事をアップできるまで彼らが活動を続けてくれていてよかったです。