これまで、ハローワーク(以下:HWには一般の相談窓口以外にも◇高年齢者(生涯現役コーナー) ◇マザーズ・コーナー ◇障害者 ◇刑余者 ◇新卒(卒業3年以内) ◇長期療養者 ◇外国人 などの専門相談窓口があることを述べてきた。

 もちろん全てのHWに設置されているわけではないが、各HWではそれぞれの特徴を活かして、相談者の境遇や条件に応じてきめ細かく相談に応じられるように工夫している。

 実はこれ以外に、あまり知られていないが『生活困窮者支援窓口』を設置しているHWがある。

 

●生活困窮者とは?

 「生活困窮者」と聞くと普通は、単に経済的な理由で生活に困っている人たちの総称だと思う人が大半だと思うが、実はそれだけではない。

 平成27年に生活困窮者自立支援法が施行され(制定は平成25年)、それに併せて生活困窮者自立支援制度が設けられ、各地方自治体に相談窓口が置かれている。ただ、法律が施行されて10年も経ってない新しい法律と制度なので、あまり知られていないのが現状だ。

 

 

 生活困窮者とは、経済的困窮以外にも病気(ギャンブルやアルコール依存も含む)、障害、住まいの不安定、就労活動困難、就労定着困難、家庭問題(母子家庭、DV、ひきこもり等)、メンタルヘルス、家計管理の課題(浪費癖)、債務問題(借金) 等の問題や課題を抱える人たちで、

具体的な例としては・・・

・住込みで働いていたが不景気で解雇されたので住むところがない

・電気・ガス・水道代の支払いができず、止められそう、あるいは止められた

・所持金が少額(例えば千円以下)しかなく、ここ数日まともな食事をしていない

・仕事をさがして応募しているが、なかなか採用されず、貯金も少なくなってきた

・離婚調停中あるいはDVで別居、生活費をもらえず、子供をかかえ路頭に迷っている

・多重債務を抱え、返済の目途がたたない  などなど

 

 わかりやすく言うと、生活保護一歩手前の人や、今はなんとか生活しているがこのまま放置すると生活保護になってしまう恐れのある人たちのことである。そして、生活困窮者自立支援制度とは、なんとか貧困から抜け出し、生活保護にならないように早めに手をうって自立を支援する制度ということになる。

 

 地方自治体、あるいは地方自治体から委託をうけた地元の社会福祉協議会以下:地方自治体等という)に支援窓口がおかれ、生活に困窮して相談にこられた人に対して、(高齢や病気・障害等で「もう自立は無理」という人を除いて)生活保護にならないように様々な支援を実施している。

 

●生活困窮者の認定基準は

 ただし、生活保護と違い、明確な基準や条件(預金残高や不動産・自家用車保有状況、扶養照会(家族からの支援の可否の確認など))はなく、前述の要件(青字)に該当し、地方自治体等に本人が支援を希望すれば生活困窮者として認定される。

 

 そこには就労支援だけでなく、(厳しい条件はあるが)緊急小口資金、住居確保給付金などの金銭的な支援のほか、一時生活支援といって一時的な住居の提供なども含まれている。

 

●生活困窮者の認定メリットは?

 認定されると、こうした地方自治体等から相談支援員が割り当てられ、このうち就労意欲のある人たちに対し、就労支援としてHWの生活困窮者支援窓口相談支援員が同行して、窓口の職業相談員と一緒になって仕事を探し、採用になれば採用した事業所に助成金が支給される仕組みである。

 

 もし、前述の理由(青字)仕事が見つけづらい人がいたら、一人でHWに直接出向くのではなく、一旦、近くの地方自治体等の窓口で相談するのがお勧めである。そこで問題を整理し、就労する条件や意欲を確認して、生活困窮者の認定をうけてから、改めてHWを利用するのである。自分一人でHWで仕事を探すより、手厚い支援が受けられるメリットがある他、企業も採用すれば助成金対象にもなるので多少は就職に有利に働くかもしれない。

 もし、第41話で述べたように、応募しているが不採用が続き、貯金も減って生活が苦しくなってきたら、一度利用を検討してもらいたいところだ。

 ただし、生活困窮者支援の専門相談窓口はあっても障害者や刑余者と違い、生活困窮者専用の求人があるわけではないので、本人の希望を聞きながらこの人なら勤まるであろうと見込まれる求人を探しだし、情報提供しながら応募を促し採用までを、地方自治体等の相談支援員と協働して支援することになる。

 従って、本人の希望はできるだけ尊重するが、就職することを最優先にするため、自分が希望する就労条件の緩和・見直しが求められることもあるので、ある程度の覚悟はしてほしいところだ。

 

 この他にも、世の中にはあまり知られていない利用可能な公的支援制度がある。生活に困った時は、一人で抱え込まずに早め早めに、地方自治体の相談窓口に出向き、遠慮なく相談することをお勧めしたい。

 

●知らない世界  ここからは全くの余談だが・・・

 この仕事(職業相談員)をするようになって、この世の中には自分の知らないところで、厳しい境遇の下で暮らしている人たち(失礼な言い方をお許し頂けるなら、「社会の底辺で暮らしている人たち」)に出会うようになった。おそらく、サラリーマンとして民間の安定した企業に勤め、定年退職してそのまま隠居生活をしていたら、めぐり合うことがなかった人たちである。

 この仕事をするまでは、障害や病気・事故などのやむをえない事情を除き、こうした境遇に陥るのは、本人の自己責任、努力不足、資質・性格の問題、因果応報なのだから仕方がないと冷たい視線を送っていたが、そうした境遇の人に直接会ってさまざまな事情を聴くと、自業自得のような人も確かにいるが、「聞くも涙、語るも涙」、「子は親を選べない」のような本当に気の毒な人もいて、社会保障制度の果たす役割が大きいことを改めて認識した次第である。この歳になって人生の勉強をさせてもらった気がした。