30歳代後半男性、デイサービスの介護職の求人を持参。

前職もデイサービスの介護施設で働いていたが半年で退職していた。

「実は右上腕部に刺青(タトゥー)があり、前職ではそれを隠して仕事をしていたが、うっかり入浴介助の際に利用者に見られてしまい、施設内の高齢の利用者に話が拡がってしまい、退職を勧奨されて辞めたとのこと。

 今回は、見えないところだけれど刺青があるが応募は可能か、事前に確認して応募をしたいので聞いてほしい との相談をうけた。

 

●刺青は消すのも大変

 刺青は消せないのですか?との問いかけにも、刺青を消すのにも、時間もかかる上に、美容整形扱いなので保険がきかず費用がかかり、まず働いてお金を貯めないと消すことができないというジレンマに陥っているとのこと。

 話を聞いていると、外見も普通で温厚な話し方でコミュニケーションも問題なく、おそらく刺青さえなければそのまま就労できていたはずである。(引き続き介護職に応募しようとするくらい)介護の仕事がおもしろくなってきた矢先だったので残念だとも言っていた。

 

 

 

 この他、手の指に指輪のような刺青をいれた若者も相談に来たことがあった。中卒か高校中退の人が多く、家庭環境に恵まれなかったのではないかと思われる人や療育手帳(知的障碍者)を持っている人が多かった。

 

●若気の至り

 いずれも、反社会的組織に属していたわけではなく、「若気の至り」で刺青をしてしまい、今となっては後悔している様子がうかがい知れた。

 

 建設・土木現場、流れ作業の製造現場、美容師、夜の接客業なら人物に問題なければ採用してもらえることがあるし、見えないところなら歩合制の強い営業職などでも可能性があるが、それ以外の職種となるとかなり厳しいのが現実である。冒頭の相談者も残念ながら応募できなかった。

 

 衣服で見えない場所に彫っているのであれば黙って応募する手もあるが、社員の健康診断とか夏場の薄着の時にうっかり見られてしまい、後でばれた時ややこしい話になる。 

 刺青があるという理由だけで解雇することは日本の法律ではかなり厳しいが、現実的には退職勧奨という形で退職を迫られることが多い。

 

●厳しい視線

 日本では刺青に対する考え方はまだまだ否定的で、外国のようにファッションや個性として認められていない。今後、「刺青=反社会勢力あるいは凶状持ち」という考え方は少しずつ緩和されていくとは思うが、受容的な見方に変わるのは、特に今の高齢者の考え方を変えることはほぼ不可能に近いので、若い世代から受容する考え方を醸成するしかない。そうするとかなり時間がかかりそうだ。

 

 ただ、刺青があるというだけの理由で、就労や社会復帰を図る人たちを妨げるような社会であってはならない。「若気の至り」を許し、真面目に働こうとする人たちには寛容な社会であってほしい。

 

●事業所は「人」を見てほしい

 とは言え、雇用する側からすると刺青のある人を採用することに不安なのはよくわかる。

 ハローワークの求人でも、年齢や性別は限定することを禁止しているのに、温泉施設やパチンコ店の求人などでは、「刺青のある方は応募をご遠慮ください」と堂々と表記することを許している。

 確かに、とりわけ反社会組織との関わりを排除したい業界の仕事は難しいことは理解できるが、それ以外の業界では「若気の至り」にとらわれず、今後は真面目に働こうとしているかをしっかり見極め、最初はパートで働いてもらう、あるいは試用期間を長めにとって様子をみるなど、いろいろ手はあると思う。

 もし顧客から「お宅の会社に刺青を彫っている社員がいる」と言われても、

「この社員は、今は真面目に働いている。信頼できる人間であり安心してほしい。わが社はこうした人を応援している。どうかご理解いただきたい」と堂々と顧客を説得する気概をもってほしいところだ。嫌がる顧客もいて一時的に顧客離れにつながるかもしれないが、真面目に働いていれば必ず理解を得られる時がくる。冒頭の件も事業所でそういう対応をとってもらえなかったのか? 少し残念な気持ちになった。

 

●怖いデジタル・タトゥー

 それよりこれからの就職活動を考えると、体に彫られたタトゥーより、デジタル・タトゥーの方が怖い気がする。

 体に刻まれたタトゥーは自分の意志で隠したり消したりできるが、デジタル・タトゥーはSNSやエゴサーチで、過去の過ちや根も葉もないうわさがいつまでも残って、他人から簡単に検索されてしまう。

 そんな人は一生、応募の際に、会社が念のためにとエゴサーチで検索して身辺確認をされるのではないかという不安に付きまとわれるのである。

 再起を図りたい人たちや「若気の至り」を早く忘れて真面目に働きたい人たちの足かせになり、消えない過去に苦悩している人たちも多いと聞く。こちらの方が圧倒的に始末が悪い。体に彫られたタトゥーにとらわれ、それより怖いデジタル・タトゥーに無関心な現実に不安を感じてしまう。

 

 ネット社会になり、非難の応酬がSNS上で展開され、以前よりギスギスした感じがして仕方がない。

 自分自身に実害が及んでいない他人の「若気の至り」や「黒歴史」に関してはもっと

「許す心」

を持ってほしいところだ。