65歳で定年退職、中規模の鉄工所を高卒で入社して定年まで勤め上げた。元気なので引き続き無理のない範囲で働きたいが、鉄工所で金属加工の現場経験しかないがこんな人間でもできる仕事はあるのだろうか? と相談をうけた。

 

●無事是名馬?

 「無事是名馬」という言葉がある。今風に言うと、中央競馬のGIや重賞レースに出走して活躍する馬だけではなく(ケガや種牡馬になるため早く引退する馬が多い)、地方競馬のダートコースで未勝利戦や障害レースを戦いながら、なかなか勝てないものの、ケガもせず長く走り続けている馬も名馬といえるという意味である。

 1つの会社に47年間勤めて、自分や家族のために一生懸命働いてきたのだからもっと自分を褒めてもいいし、自信を持ってくださいと励ました。

 今でこそ、自分のやりたいことを求めて条件のいい会社に抵抗なく転職することが当たり前の時代だが、昭和的な考え方で、特別な才能がなくても1つの仕事を長く続けることも立派な働き方であることを忘れないでほしい。

 

 

●採用されやすい高齢者

 実は、こういう謙虚で、(失礼な言い方だが)変に出世していなくて現場経験の豊富な高齢者の方が再就職しやすい傾向がある。会社が定年後の高年齢者を雇用する際に期待することはなにかを考えてみればわかる。採用する側は、退職前の会社のポジションや実績よりも、入社して自分の会社にどうように貢献してくれるかに一番の関心がある。

もちろん経験(テクニカルスキル)があればそれに越したことはないが、それ以外にも、 

 ・周りと協力しながら仕事に取り組むか・決められたルールや規則を守れるか・トラブルが発生したときも批判せず冷静に対応できるか・若手社員への指導や助言できるか・新しいことにも前向きに取り組もうとするか ・・・ などの本人の資質や仕事に対する姿勢や心がけを重視している。

 40年以上1つの会社に勤めているという事はこれらのヒューマンスキルがある程度備わっているという証明でもある。雇用する側もそれだけで安心感がある。自信をもって応募してほしいところだ。

 この相談者は、温厚で控えめで、車の運転が好きで、親の介護経験もあるというので、たまたま近所のデイサービスの送迎求人があったので紹介したところ、即採用になった。

 

●採用されにくい高齢者

 よく言われる笑い話で、上場企業の元部長経験者に面接で、「あなたはどんな仕事ができますか?」と聞いたら「部長ならできます」と言った というのがある。

 参考までに、こんな高年齢者を雇うのは嫌だ という例を挙げると・・・

 ・謙虚さがない・過去の成功体験を自慢する・これは私の仕事ではないと言う・自分の価値観を押し付ける・年下に教わることをいやがる・すぐ上から目線で話をする・これまでのやり方に固執する   などなど・・・

 60歳、65歳からの仕事探しは、それまでの勤め先やポジション・給与などは一切関係ない。再就職できるかどうかは、現役時代のチープなプライドを捨てられるかどうかで決まるといっても過言ではない。

 実際、大手企業を定年退職した人の中には、退職金や年金等でとくに経済的に困窮することはないことから、ハローワークでの高年齢者の求人の実態を知り、カルチャーショックを受けて就職活動を早々にあきらめる人がたくさんいる。

 

 

●時間をもてあます高齢者

 平日の開館前の図書館にいくと男性高齢者が閲覧コーナーの新聞や雑誌目当てで行列を作っている。平日の午前中のマクドナルドへいくと100円(今は120円)コーヒーを飲みながら数人の男性高齢者が持ち込んだ新聞か文庫本を一人で黙々と読んでいる。他方、女性高齢者は数人で楽しそうに井戸端会議をしている。同じく平日の午前中のスポーツジムへ行くと、まさに高齢者の運動会状態である。

 

 時間を持て余しており、いい仕事があれば無理のない範囲で働きたいと思っている高齢者が多いことは間違いないが、無理に働く必要もない人達なので、仕事探しに積極的に動くことはない。

 これからの労働力人口が減少していく中、こうした余裕のあるシニアの労働力を活かせないのはもったいない限りだ。これらの人は、お金よりも自分を必要としてくれる仕事に就くことにやりがいを感じることが多い。

 国も、まだ努力義務だが、70歳までの就労機会の確保(「雇用しろ」とは言っていないところがミソ)を奨励している。

 例えば、人件費がネックとなって高齢者を雇いづらいのなら、最低賃金法を改正し、65歳以上に例外規定を設ける。あるいは女性の場合はベビーシッター、男性の場合はスポットコンサルなど、高齢者でもできる登録型請負業の起業を支援し、マッチング機能を公的な機関に持たせるなど将来の労働力不足が懸念されている中、これらのシニア労働力をもっと活かせる方法をみんなで知恵を出しあえばいいと思う。

 

死ぬ前に感じる人生の充実感は、老後の暮らし方が大きな割合を占める。

 

 と言われている。現役世代の(特に50歳を過ぎた)人達には、経済的な基盤を確保した後の、定年後(老後)の過ごし方を今から真剣に考えておくことをお勧めしたい。