●オープンとクローズ

 ハローワークで障害者が応募する場合はオープン応募クローズ応募の2通りがある。オープン応募とは、本人の了解を得て障害者手帳をもっていることを、応募先に事前に通知するのだが、クローズ応募とはそのことを通知せず一般の健常者として応募する方法である。

 ハローワークには障害者専門の職業相談窓口があり、そこで障害者専用の求人情報を提供しており、オープン応募の場合は原則ここで紹介状を発行し、採用になった場合は事業所に助成金が支給される仕組みである。

 クローズの場合は、事業所に障害者手帳を保有していることは通知せずに、一般の求人に応募することになり、選考基準も健常者と同じレベルとなるので、正直、厳しい結果が予想される。

 また、採用された場合でも、後で障害者手帳を保有していたことが発覚した場合、仕事ぶりに問題なければ特におとがめなしのことが多いが、仕事でミスが多かったり職場でトラブルを起こしていた場合は、業務に支障のあること(すなわち障害)を隠して入社したということになり、身分詐称で減俸されたり、配置転換されたり、最悪解雇される危険性もある。

 

 

●職業紹介の実態

 身体障害者や知的障害者は比較的障害受容性が高い人が多く、通常はオープンで応募することになるのだが精神障害者はクローズで応募する人が散見された。

 私が担当していた一般相談窓口に統合失調症の精神障害者保健福祉手帳をもっている応募者が食品製造業の正社員求人にクローズで応募したいと来窓してきた。話していると、やはりコミュニケーションでやや違和感があり、正直、このままクローズで応募しても採用はむずかしいだろうと予想できたので、

「オープンで応募しないのですか?」と尋ねると「別に言わなくても自分は働けると思う」、「賃金が安くなる」などの理由を挙げてクローズ応募を希望していた。

 本人の意志を尊重し、そのまま紹介状を発行するのだが、残念ながら採用になることは稀である。たとえ採用になっても人間関係や仕事が覚えられないという理由から短期間で退職してしまうことになることが多い。

(この他にもてんかんを持つ人や発達障害の人も、クローズで応募したいと来窓されたこともあった。)

 

●グレーゾーンの人たち

 また、精神障害者保健福祉手帳は持たないが、素人目に見ても明らかに精神疾患を抱えているだろうと想像できる人も来窓してきた。いわゆるグレーゾーンの人達である。

 情緒不安定で、話す内容が一貫しなかったり、急に攻撃的になったり大声を発したりして会話が成り立たないなど、窓口での応対に苦労したことも多かった。

 専門医に診てもらえばはっきりするし治療法もあると思うのだが、認めたくないなどの理由からか、病院に行きたがらないようである。

 こういう人は障害者手帳をもたないため余計に就職は難しくなる。そのままだといずれ生活困窮者となり最悪、生活保護になってしまうことになる。

 家族の協力があれば、時間をかけてサポートグループに参加したり、本人に医者に診てもらうよう粘り強く説得することも出来るのだが、家族が消極的だったり、家族と疎遠になっている場合は、誰からも強く医者に診てもらえとは言われないことから、本人が行き詰まりその気になるまで待つしかない。

 一応、地方自治体内や地方自治体から委託を受けたNPO法人等で相談窓口はあるが、本人がまず障害を個性と考え受容することが就労の第一歩といえる。

 

●障害者法定雇用率が改訂されると・・・

 障害者の法定雇用率が、移行期間を経て令和8年には2.7になるため、計算上は従業員37名(※)以上の企業には1名以上の雇用が義務付けられる計算だ。(※業種により除外率が設定されているので一律ではない)

 企業は法定雇用率を下回るとペナルティ(障害者雇用納付金:1人あたり月5万円)を国に支払わなくてならないことから、中小企業も障害者雇用に真剣に取り組むことが求められるようになった。

 国も障害者雇用のノウハウが不足している障害者雇用ゼロの中小企業に対して支援強化に取り組もうとしており、障害者の雇用枠も拡がる期待がある。

 

 コロナ禍では、我々に多大な経済的な損失と精神的負担を強いられたが、一方でテレワークでの就業形態を広め、世間での認知度と理解度が高まったのは、障害者の就労にとっては朗報だったような気がする。

 また、これからロボットやICTの普及により、障害者ではこれまで難しいと言われていた接客業やサービス業もリモート操作での就労が可能になってくる。徐々にではあるが働けるフィールドが拡がっていくはずだ。

 現状の障害者の就労現場では、様々な問題や課題があることは漏れ伝わってくるが、こうした問題や課題を乗り越え、健常者と障害者が共生し、お互いを尊重しながら、自然体で働ける職場が実現していくことを願ってやまない。