高齢のため、自営していた鈑金塗装業を廃業。国民年金は保険料の未払期間があるため月4万円くらいしかもらえず。年金だけでは生活が苦しい。貯金も少ない上に、だんだん目減りしてきており、このままだと生活できなくなりそうなので少しでも働きたいと来窓。

 

●キリギリス人生の末路

 元気なころは年600万円以上の収入がありブイブイいわせていたらしいのだが、

「その間、老後のことを考えて、お金は貯めなかったのですか?」と聞くと、ニヤッと笑って

「まあ、そういうことや」と恥ずかしそうに返答。

 

 まさに「アリとキリギリス」のキリギリス人生である。

 この他にも、高齢のため飲食店や電気工事業などを廃業した元自営業の人が少ないが同じような理由で仕事探しに相談に来られていた。

(これらの人は個人事業主ですが、店舗を構えているのでフリーランスと呼ばず、ここでは自営業の人と呼ぶこととします)

 

 

●自営業廃業後の再就職は困難?

 現役世代の頃は自営業でそこそこ稼いでいたのだが、遊興費やギャンブルにお金を使ってしまい、国民年金の保険料もまともに支払わず、貯金や個人年金の積み立てもせず、「宵越しの金はもたないのが粋、明日は明日の風が吹く、何とかなるさ」という昭和の職人気質のおじいさん達に多いパターンである。

 

 残念ながら70歳に近い元自営業の人を雇用してくれる会社はほとんどない。特に雇う側は年齢以外にも、チームプレイが苦手、人に使われることに慣れていないことから使いづらいのではないかという懸念はぬぐい切れないところだ。

 この人は70歳を過ぎていることから、就労は難しいのでこのままいくと生活保護になる。持ち家や車は手放すことになり、預金残高の提示を求められたり、賃貸に住んでいる場合は、家賃の安い公営住宅などへの転居を求められたりする。子供や兄弟にも問い合わせが入るなど、本人にとっても不本意な対応を求められるので嫌がる人も多いが、本当に生活できなくなるのであれば、致し方ないところではある。

 

●生活保護へのやりきれない思い

 とはいえ、生活保護費の原資は税金である。若い頃から貧困でぎりぎりの生活を強いられた人や病気やけがで思うように働くことができず、障害年金ももらえない人達には、公助・共助の考え方で支援すればいいが、現役世代ではそこそこお金を稼いでいたのに、年金保険料を払わず遊びや贅沢をしてお金を使い切ってしまった人達まで、税金を使って生活保護費を支給するには正直、釈然とはしない。ただ、済んでしまったことなので今更どうしようもない。

 

 今でこそ、老後2千万円問題でマスコミにとりあげられ、老後に備えることについての具体的な数字を前に危機感を持つ人が増えてきたが、(ただし、あまりこの2千万円という数字には惑わされないほうがいい。実際にこの金額が全員必要になるわけでなく、マスコミや野党議員が政府批判に利用した側面があるので、冷静に自分なりの老後に必要な金額を算出して判断することをお勧めします)昭和から平成のころは、投資はバクチという考え方が主流で、ドル・コスト平均法による投資、積立てNISAやiDeCoなど安定して資産を増やすという仕組みもなく、安全性の高い継続した投資などの考え方が普及していない上に、なんとかなるだろうという安易な気持ちで、老後のためにお金を貯めておくという発想に乏しい自営業の人が多かったのは致し方ないのかもしれない。

 

今後の対策としては・・・

・年金は安心して老後を送るために、必要条件だが十分条件ではないこと。

・投資は一攫千金を目指すものではなく、安定した老後資金を確保するために長期にわたって継続的に実施するものであること。

・安易に生活保護に流れないように、厳しい生活実態と受給のための不本意なハードルがあること。

これらを中心に、時間はかかるかもしれないが、国を挙げて中学生や高校生などの若いうちからマネー教育を実施して、「キリギリス人生」を防いでほしいところだ。

 

●起業する時は老後に備えることを忘れずに

 今はフリーランスとしてパソコン1台あれば簡単に起業できる。うまく軌道に乗れば経済的に豊かな生活を送ることができる時代だ。

 ただ、どんなものには必ず賞味期限や寿命がある。フリーランスといえども、定年はないものの、いずれ「本当の人生」を終える前に「職業人生」を終える時が来る。加齢にともなう知力・体力の衰えや、病気などで仕事ができなくなるのが現実である。職業人生を終えてから本当の人生を終えるまでの期間の差が短ければ短いほどいいのだが、人生100年時代を迎え、これから益々広がる可能性が高い。自分だけは大丈夫、なんとかなるとは考えない方がいい。

 サラリーマンと違い、厚生年金が受給できない(あるいは少ない)フリーランスは(たっぷり稼いで資産形成ができた方を除いて)この期間に備える準備を現役世代のうちから着実に進めてほしいところだ。