前回までのあらすじ
気絶した人の横で煙草を吸ったらむせちゃったよ超ごめん。
「ミヅキが迷惑をかけたみたいだね、ごめんね」
「いや、迷惑とかじゃないけど大丈夫ですか」
落ち着いた雰囲気のある人だ。
事態を解決できるだけの余裕がある人格かもしれない。
助けて、とそう言った彼女に、もう手助けは必要ないかもしれない。
「うん、大丈夫。君は…無頼猫だよね。僕はトワ。10歳だよ」
10歳かよ!
動揺しているのを差っ引いても、
間違いなく私より落ち着いた佇まいの彼、10歳。
小学4,5年生。言い直しても10歳。
「トワ君か…無頼猫です、20歳(仮)です」
なんだか20歳なのが申し訳ない気がして来た。
しかし、こうやって同じ人間に何度も自己紹介を繰り返すのは、
相手が同じ病気、解離性同一性障害ならではだろう。(※1)
「ふーん。20歳か…大人だね。僕、大人は嫌いだよ」
この人大人気ない!Σ(´ロ`ill)
いや、10歳だから大人気なくてもいいんだ。
でも初対面でダメ出し。しかも理由が年齢。何ですかソレ。
「いや、でも。こんな時間に子供を放っておくわけにも」
体は少なくとも18歳以上、とはいえ10歳の状態で繁華街に放っておくわけには行かない。
「そうやって大人ぶるのが嫌だって言ってるんだ!」
突然声を張り上げるトワ君10歳。なんだ、キレやすい現代の若者か。
どう返していいものやらと言葉を探しあぐねていると、トワ君が目を伏せた。
「ごめん、言い過ぎた…」
うん、言いすぎだ。でもまぁ相手は子供だ。きっと反抗期だ。
「別にいいです。でも、状況は教えてくれない?わかるかな…」
さっきの電話の件が解決していない。物騒な、助けてという声。
「あぁ、あれは…ミヅキだよ。ごめんね、何でもないんだ」
そうか、何でもないのか。なら帰ろう。という訳にも行きません。
多少しつこく追求します。するとトワ君、不承不承話してくれました。
要約すると、大阪に遊びに来たチカ君。(Aの主人格)
男友達と飲みに行って、口説かれたらしい。
それが嫌で、ミヅキさんとやらに交代したところ、(※2)
押しの弱いミヅキさんは、ホテルに連れ込まれ以下省略。
そして朝の大阪に置き去りにされてしまいました。
で、大阪在住の私に助けを求めて来た。以上。
「それはかなり大変だったね。でも、よく上手く交代出来たね」
「あぁ、交代を管理する人格がいるんだ」
「それってISHみたいな感じ?トワくんたちって治療を始めて長いの?」 (※3)
「……うるさいな、関係ないだろ」
困ったことにどんどん機嫌が悪くなって行く。これは話題を変えた方がいい。
しかしトワくんとは初対面なので、ぶっちゃけ話題なんか見つからない。
「とりあえずさ、これからどうするの。行くあてとかあるの?」
「別に……そんなの僕には関係ないよ」
「そういう訳には行かないでしょ、君一人の体じゃないんだから」
「……何なんだよさっきから」
「え?」
「そんな風に僕たちに干渉するのはやめろよ!」
「……あぁうん、なんかごめん」
トワくんは胸の内に熱い思いを秘めているらしい。
声を荒げ、悲痛な表情で何かを訴えようとしている。
初対面の私にさえ何かしらぶつけたい程に思いつめていた様だ。
「悪かったよ、とりあえず何か飲みに行こうか」
朝も早いとは言え、待ち合わせた時から既に小一時間は経過している。
どこかしら開いている店で温かいものでも、と思い、私は彼を連れて歩き出した。
(※1)DIDの場合、人格が違えば相手は別人のようなもの。
よって身体的には知り合いでも初対面、ということが在り得る。
(※2)自由に人格交代が出来ると便利。けれどそうそう簡単に出来るものでもない。
(※3)後に聞いた話ではこの頃、彼女たちは治療も通院も行っていなかった。