架空の人々~なぜ彼らは多重人格になりたがるのか~ -2ページ目

架空の人々~なぜ彼らは多重人格になりたがるのか~

自分をDIDだと思い込むみ、多重人格を演じ続ける。そんなヤツラを検証したりツッコミ入れたり。

前回までのあらすじ

気絶した人の横で煙草を吸ったらむせちゃったよ超ごめん。


「ミヅキが迷惑をかけたみたいだね、ごめんね」
「いや、迷惑とかじゃないけど大丈夫ですか」


落ち着いた雰囲気のある人だ。
事態を解決できるだけの余裕がある人格かもしれない。
助けて、とそう言った彼女に、もう手助けは必要ないかもしれない。


「うん、大丈夫。君は…無頼猫だよね。僕はトワ。10歳だよ」

10歳かよ!
動揺しているのを差っ引いても、
間違いなく私より落ち着いた佇まいの彼、10歳。
小学4,5年生。言い直しても10歳。


「トワ君か…無頼猫です、20歳(仮)です」

なんだか20歳なのが申し訳ない気がして来た。


しかし、こうやって同じ人間に何度も自己紹介を繰り返すのは、
相手が同じ病気、解離性同一性障害ならではだろう。
(※1)


「ふーん。20歳か…大人だね。僕、大人は嫌いだよ」


この人大人気ない!Σ(´ロ`ill)
いや、10歳だから大人気なくてもいいんだ。
でも初対面でダメ出し。しかも理由が年齢。何ですかソレ。


「いや、でも。こんな時間に子供を放っておくわけにも」
体は少なくとも18歳以上、とはいえ10歳の状態で繁華街に放っておくわけには行かない。
「そうやって大人ぶるのが嫌だって言ってるんだ!」
突然声を張り上げるトワ君10歳。なんだ、キレやすい現代の若者か。
どう返していいものやらと言葉を探しあぐねていると、トワ君が目を伏せた。


「ごめん、言い過ぎた…」
うん、言いすぎだ。でもまぁ相手は子供だ。きっと反抗期だ。
「別にいいです。でも、状況は教えてくれない?わかるかな…」
さっきの電話の件が解決していない。物騒な、助けてという声。

「あぁ、あれは…ミヅキだよ。ごめんね、何でもないんだ」


そうか、何でもないのか。なら帰ろう。という訳にも行きません。

多少しつこく追求します。するとトワ君、不承不承話してくれました。


要約すると、大阪に遊びに来たチカ君。(Aの主人格)
男友達と飲みに行って、口説かれたらしい。
それが嫌で、ミヅキさんとやらに交代したところ、(※2)
押しの弱いミヅキさんは、ホテルに連れ込まれ以下省略。
そして朝の大阪に置き去りにされてしまいました。
で、大阪在住の私に助けを求めて来た。以上。


「それはかなり大変だったね。でも、よく上手く交代出来たね」

「あぁ、交代を管理する人格がいるんだ」

「それってISHみたいな感じ?トワくんたちって治療を始めて長いの?」 (※3)

「……うるさいな、関係ないだろ」

困ったことにどんどん機嫌が悪くなって行く。これは話題を変えた方がいい。

しかしトワくんとは初対面なので、ぶっちゃけ話題なんか見つからない。


「とりあえずさ、これからどうするの。行くあてとかあるの?」

「別に……そんなの僕には関係ないよ」

「そういう訳には行かないでしょ、君一人の体じゃないんだから」

「……何なんだよさっきから」

「え?」

「そんな風に僕たちに干渉するのはやめろよ!」

「……あぁうん、なんかごめん」


トワくんは胸の内に熱い思いを秘めているらしい。

声を荒げ、悲痛な表情で何かを訴えようとしている。

初対面の私にさえ何かしらぶつけたい程に思いつめていた様だ。


「悪かったよ、とりあえず何か飲みに行こうか」

朝も早いとは言え、待ち合わせた時から既に小一時間は経過している。

どこかしら開いている店で温かいものでも、と思い、私は彼を連れて歩き出した。


(※1)DIDの場合、人格が違えば相手は別人のようなもの。

    よって身体的には知り合いでも初対面、ということが在り得る。

(※2)自由に人格交代が出来ると便利。けれどそうそう簡単に出来るものでもない。

(※3)後に聞いた話ではこの頃、彼女たちは治療も通院も行っていなかった。

ごく簡潔に。


A→千華(チカ)
主人格、心の性別は男。
でもロリィタを着るのは平気らしい。


A1→咲夜(サクヤ)
耽美な人。迷惑メールの主。
色素の薄い砂糖菓子のような(以下略


A2→海月(ミヅキ)

おなご。気弱でトラブルに巻き込まれやすいらしい。


A3→永遠(トワ)
自称10歳。男の子らしいです。
クールで大人をバカにしているが、本当は愛情に飢えているらしい。


今のところこの3人。人格の名前も仮名です。
ちなみにAの見た目はぽっちゃりさんというかもっちりさん。
なぜか常にゴスロリやパンクを着用。

朝の列車に揺られながら待ち合わせ場所へと向かうワタシ。
とりあえず、最低限の身支度だけをして来た。
Aの中の誰かは、涙声だった。
何があったのかはわからないが、緊急事態なのは確かだ。
ほぼ小走りで、待ち合わせで有名な某広場に向かう。


そこにはAの姿があった。
アイスを食べながらメールをしてやがりました。


いや、別にいいんだけど。
朝早いからお腹空いてるんだろうな。うん。
でもなんかさっきとテンション違くない?


「A?」
Aは振り向いた。ものすごく気まずそうな顔だった。
途端、Aの体が崩れ落ち、アイスが床に落ちた。
朝から濃いもん食っとるのぅ。いや、それどころじゃない。


「A!」
こういうときは、揺さぶってはいけない。
とりあえず力の抜けた体を横向きに寝かせる。
こういうのは私も経験したことがある。
多分、解離性障害のナントカっていう奴だ。
放っておけば目を覚ますはずだ。


一分一秒が、妙に長く感じられる。
ワタシを助けてくれる人も、こんな気持ちなんだろうか。
そんなことを思いながら、Aが意識を取り戻すのを待つことにした。

緊張していない訳でもなかったので、失礼して煙草を吸わせてもらった。


すると、意識を失っていたAがむせた。


一瞬の、微妙な間。居心地が悪い。何かアクションしてくれ!
「…ここは…?」
頭を抑えながら、ゆらりと起き上がるA。
「…君は………もしかして無頼猫?」
もしかしなくても無頼猫です。あなたに呼び出された無頼猫です。


「僕はA3…はじめまして…だね?」
「A2は緊張に耐えられなかったみたいだ…」


そんなに煙たかったですかスイマセン。


いや、気まずかったのか。A2という人だったのかあれは。
次々に飛び出す新しい名前に、ついて行けないワタシ。
多分読んでる人もついて行けないだろう。
次回から、A一族に名前をつけて、名前表記にすることにしよう。