針が刺さったままさまよう



私はうつ病で乳がんステージ4サバイバー、

同居の友人は大腸がんステージ3サバイバー。


同時期にがんが判明して、

同時期に始まった治療や日常の日々をつづるブログです。








めまいで脳転移を疑った私は、
放射線治療で通院している病院で、
ついでに脳MRIを撮ってもらえることになった。



MRIの経験はあったが、
脳MRIは初めての経験だった。
造影剤を入れる、
ということも知らなかった。



放射線治療で通っている病院は広く、
造影剤のぶっとい針を入れたまま、
行き交う人の多い廊下をMRI室まで歩く。

うっかり人とぶつかろうものなら、
肘の内側に刺した針が、
さらにざっくり刺さりそうでとても怖い。



やっとたどり着いたMRIの台に寝転がると、
身体を幾重にもベルトで拘束され始め、
かなりものものしい。



私「あの、これ、時間どれくらいかかりますか?」

技師「大体50分くらいですかね」

私「ごじゅっ…!」



造影剤入れる前と入れた後、
両方撮影するため、
脳MRIはかなり時間がかかるようだ。


異常が無いかちょっと見てもらうくらいの感覚だったが、
この拘束で50分動けないのは、相当ハードだぞ…!


私「あの、顔が!
顔がかゆくなったらどうすればいいですか?」


長すぎる拘束時間に、思わず不安をぶつける。



動けないと思うと、途端に顔がかゆくなるタチで、
トモセラピーもそれで開始直後に停めたりもしていた。



私の必死な疑問に、
技師は困ったように微笑んだ。


技師「被せものをするので、顔はかけないんですよ。
今のうちにかいといてください」


顔ってかきだめできるものなのか……?




疑問符だらけになりながらも、
私は促されるままに、
特に痛くもかゆくもない顔を手早くかきむしった。


技師「充分かきましたか?
じゃあ始めますよ」


無駄にかきむしって赤くなった顔が、
ものものしいマスクで拘束される。
脳MRI撮影中、
頭が動かないように固定するためのものだ。
身体もベルトで縛られていた。



羊たちの沈黙のレクター博士のように、
全身をガチガチに拘束される。
連続殺人鬼にでもなった気分だった。


「俺はやってない!」

と、言いたくもなってくる。



ヘッドギアの隙間に、
気休めのヘッドホンをねじ込まれる。

これがまた位置が絶妙に不安定で、
こちらの不快感を煽る。



全身を固定された私は、
狭くて暗いMRIの穴に、

ゆっくりと吸い込まれていった。