私はうつ病で乳がんステージ4サバイバー、
同居の友人は大腸がんステージ3サバイバー。
同時期にがんが判明して、
同時期に始まった治療や日常の日々をつづるブログです。
〜の続き〜
懸念だった胸骨転移に、
ついにサイバーナイフの適用が決まった。
放射線科医「では、施術は月曜からで。
今日のうちにCTとMRIを撮っちゃいましょう」
今日はサイバーナイフの適応が可能かどうか聞くだけのつもりだったが、決まると早い。
あっという間だった。
その日のうちに私の型を取り、
CTを撮り、MRIを撮ることになった。
そして早くも来週、サイバーナイフとラディザクトがスタートだ。
自分の型を取るのは面白かった。
治療の際にズレが無いように人型を取るのだ。
空気を入れると粘土のように柔らかくなり、空気を抜くと硬くなる素材で、私の周囲を取り囲む。
来週の治療開始まで、私の人型だけが病院に保管されるのはなんとも不思議な気持ちだった。
クローン生成用の型のようだ。SFじみている。
最後はMRIだった。
以前も受けたことがあったので、
非常にうるさいのは知っていた。
技師「うるさいのでヘッドホンを着けますね」
MRIの洞窟に挑む私の耳に、
ごわごわしたヘッドホンが装着された。
ヘッドホンからは、リラックス用にクラシックが流れ続けているようだった。
MRIの造影か始まる。
ギョギョギョギョゴーンゴーンと、
あの独特の機械音が、
至近距離から流れ出す。
正直、ヘッドホンはあまり役に立たなかった。
けたたましい機械音の隙間に、
かすかにクラシックがねじこまれる程度だ。
しかも全然リラックスできる曲ではない。
この聴き覚えのある、勇ましい音楽。
運転中に、もっとも聴いてはいけないというあの曲。
映画、地獄の黙示録で有名なあの……
ワーグナー、
ワルキューレの騎行だ。
MRIの暗い穴倉の中で、
私のテンションは無駄にMAXになってしまった。
MRIの騒音と閉塞感が、
まるで宇宙船のコクピットのように感じられた。
そこにこの勇壮な曲である。
私の気分はすっかり、
遥かな銀河に旅立つ、
宇宙飛行士のそれになっていた。
リアルスターフィールドである。
おお……
我がゆくは星の大海……
曲が美しき青きドナウになり、
アヴェマリアに変わっても、
私の意識は遥か宇宙から帰ってこれなかった。
MRIの選曲はもうちょっと考えてほしい。
2023年宇宙の旅は、30分ほどで終わった。
不安にあふれていた行きとは真逆に、
すっきりした顔で私は帰路についた。
慣れない土地で、
帰りのバスは何に乗ればいいのか、
まったくわからないままだったが、
宇宙まで行った私にとっては、
もはや怖い旅路ではなくなっていた。