最後のセックスから約3ヵ月。早紀は僕と会おうとはしませんでした。

以前なら当日に連絡を入れ、その夜に会っていたのに…。


8月と9月にある大型連休。お盆とシルバーウィークに誘いのメールを入れましたが、

祖母の入院、父親の怪我、仕事のトラブル、携帯の紛失…。


そんな怪しい理由が並べられ、真意を確かめる無意味さに疲れきっていました。

それでも会いたい…何故…? 恐らく、終わりを見たかったんだと思います。


そうして今月の20日。そう、先週ですね。やっと終わりを迎えました。

偶然にも早紀と結ばれた夜にあった、北区の鉄板焼での食事でした。


<今夜、会えるかな…。メシ、行かへんか…>

返事のないメールを待ち、断られながらの何度目かのメールでした。


断られる度に不信感を抱き、今回も…と、ダメ元で送ったメール。

意外にも着信で僕の携帯が震える。早紀からでした。


『スイマセ~ン。連絡出来ずで…。今ね~仕事終わって、難波』

思わず早紀と出会った頃を思い出すレスポンスの速さと口調に、心が躍る。


「難波か~。じゃー俺の会社と近いし、どっか行こか」

『うん。あそこがいい。最初に連れてってくれた鉄板焼のお店』

「あ~あそこか…。エエよ。じゃー梅田で待ち合わせしよか…」


約3ヵ月ぶりに会える事が嬉しくて、でも恐らく、これが最後になるだろうと決意しながら、

早紀との待ち合わせ場所へ向かいました。


10分後。人混みに圧倒されながら、慣れないスーツを着た早紀を梅田で見付けました。

普段は市外地で制服勤務の早紀は、月に数回の本社研修に参加する為、難波へ来ていました。


人混み、都会、スーツ。全てに慣れていない早紀の顔は若干、紅潮していて、表現としては初々しい…。

そんな早紀をもうしばらく見ていたくて、声をかけずに遠くから見つめていました。今夜失う事を惜しみながら。


僕の視線に気付いた早紀の口がアッ!と動きました。声は聞こえませんが、確かに僕の耳には届きました。

驚いた顔の次は、軽い睨み笑いの顔に変わり、小走りに僕のそばに駆け寄りました。


『もぉ~…。着いたんなら早く声掛けてよ~!』

「いや、ゴメンごめん(笑)。なんか、素朴なお前から目が離せなくてな~」

『ハイハイ!お腹空いてるんやから、早く行くで!』


本当の気持ち程、相手には伝わらないものですね。

数分歩いた先にある目的の鉄板焼屋へ入り、近況を話しながら食事を進めました。


程よくお腹も膨れ、お酒も入り、店を後にしました。


(そうか~。この後のカラオケで口説いたんやな…。懐かしい…(笑))

そんな事を思い出しながら、早紀へ問いかけます。


「もう一軒、エエか…。タクシーで行…」 『嫌!絶対に嫌!』

前回の教訓か、心の答えか…。ハッキリと断りました。もっと早く断ってくれてれば…。


「いや、話しがしたいだけなん…」 『じゃーここですれば? ホテルでエッチ以外の事した事ない!』

その通り…僕もです(笑)。


「じゃーここでエエわ。お前、何でセックス拒むねん」 『何でって、嫌やもん。もう無理やわ…』

「何が無理やねん。俺は好きやぞ」 『私には無理』


華やかなネオンを遠くに見ながら、

国道添いの地下鉄に繋がる道で二人は向かい合いました。


「じゃー何で俺と会うねん…」 『連絡くれるし、人間的には魅力がある人やから。でも男としてはもう無理』

「無理って、前は付合おうって…」 『気持ちは変わるし、その時点で会うのを辞めるつもりやったし…』


聞けば、男性としての魅力よりも、人間として仕事のアドバイスや考え方、気付きに魅力を持っていたようで、

確かに僕は女性よりも男性に好かれる事が多く、年齢問わずお酒の席に誘われていました。


「ほな、もう終わりか…?」 『会えるよ。でもエッチはなし!』

当然の話ですが結局、僕はもう終わらせる事にしました。

正直、もう疲れていました。何に疲れたのか、この時は解りませんでしたが。


「そうか…。それはそれで純粋に俺が辛いし、もう会わんとこか」

『…………』

「今までゴメンな。色々と悩ませたり、イラン考えさせたよな」

『…………』


意思が宿った強い目の早紀から逃げるように、早紀を強く抱きしめる。

普段なら人前でそんな事は出来ない僕ですが、感情が高ぶって人目など気になりません。


『……い』 『……痛いってば』 最後まで素っ気ない早紀。

体を離し、「元気でな…」と、かすれた声で言葉を送り、そのまま僕は一人タクシーに乗りました。


それが、早紀との最後の夜です。

こんなにも、長く、強く、心を惹かれる事になるとは思いもしなかった出会いでした。


正直、今の嫁との結婚が決まる前に、早紀と出会っていたら…などの、

無意味な問いも何度か頭に浮かんでもきました。


ただヤルだけの女が、こんなにも自分の中で大きくなり、

忘れられない程の恋愛として、大きな思い出となるなんて…。


早紀。幸せになってくれよ。

最後まで結婚してる事は言われへんかったけど、言う必要もなかったな…。

じゃーな…。