魔女男 | 隆々日誌

隆々日誌

〜この世の記録〜

2019年04月17日 水曜日 (東京 晴れ時々曇り 最高21度)

 

 

「平成最後の来日」と銘打たれたエリック・クラプトンのコンサートを観に行った。

 

 

 

写真:浅草でたまたま見つけたイカした名前の喫茶店。

 

 

エリックさんのコンサートを観るのは、2003年以降、今回で7回目となる。

 

今回の私達の席はこの辺。

 

 

いつからか、武道館の北西や北東の席をあえて選ぶ様になっていた。

 

2014年のエリックさんのライヴは北西1階スタンドで見て、

「こりゃ、スティーヴ・ガッドのドラム丸見えだぜ!!」って興奮してたら、

まさかのコーラスのおねえさんのおっきいお尻が終始邪魔して、全然ガッドのドラムが見えなかった。

「女の尻が邪魔」

よもや女の人のお尻に対して、こんな感情が湧く日が来るとは思ってもみなかった。

 

2016年のライヴは、北東1階スタンドで見て、

キーボードのクリス・ステイントンの手元も見えるし最高の席だった。

(ステイントン・ファンの私たちはこれを狙っていたんだぜ)

 

そして今回は、発売日にぴあの店頭に行ったのだがかなり遠い席しか残っていなかった。

だから安定の北東席にした。2階だけど。

 

前回の来日時、衝撃のトレパン姿でステージに上がったエリックさんは、

今回はバシッとジャケットを羽織っていた。

 

1曲目から、最高な音が発せられる。

 

あぁ、やっぱりいいな、エリックさんのやる音楽は。

だけど・・

 

 

クリス・ステイントンだけが見えない!!

 

クリス・ステイントンだけが見えない!!

エリックも、ドイルも、エモリーさんも見えるのに、

クリス・ステイントンだけが見えない!!

 

馬鹿な・・

ステイントン側の席を選んだのに・・

推しメンなのに・・

 

 

角度的に、ほとんどステージの演奏者が見えなくなることがあり、

頭をチョロチョロ動かして見えるポイントを探していたら、

大好きな“Hoochie Coochie Man”も集中する前に終わってしまった。

 

やっべ、どうしよう、席ミスった!どうにかして音楽に集中しないと!

なんて思っていたら、モニターにバック・コーラスのケイティ・キスーンが映った。

 

ケイティ・キスーンは私が、10代の頃に見ていたエリックさんのDVDによく参加していたメンバーで、

(チャゲアスのアンプラグドライヴでも歌ってるよウインク

だけど、ここ10〜15年くらいは別のおねえさんがエリックバンドのコーラスになっていた。

 

なんだか雰囲気がいいから、なんとなくケイティ・キスーンは好きだった。

 

だけど、この瞬間忘れてて。彼女がコーラスだって忘れてて。

そしたら、不意に、スクリーンにケイティ・キスーンが映って。

あの頃と同じノーブラで。

始まった“I shot the sheriff”のイントロがいい感じのゆるさで、

だけど、ぬちぃんとギターとドラムが合っていて・・・

 

その瞬間、私の頭から雑念が消え、全神経が音楽に集中した。

 

素晴らしい“I shot the sheriff”だった。

 

ありがとうケイティ・キスーン。あなたのニップルズが、私を音楽に立ち戻らせた。

 

 

13曲目 crossroad

 

依然、クリス・ステイントンの姿を目視することはできない状況だった。

 

ヤツは不意に私達を襲った。

 

明らかにこれまでとは違う指の圧力で、鍵圧とでも呼べばいいのだろうか、

マシンガンの様な怒涛のピアノ・ソロが私達の死角から、乱射された。

 

後にも先にも、ピアノ・ソロを聴いて、まず始めに頭の中に「!?」の二文字が浮かんだことはない。

 

馬鹿な、これがキーボードで出来る仕業かよ。

現場を見たベテランデカは、後にそう漏らしたらしい。

 

ステイントンを目視したい裟恥は、後ろの席に気を使い、立ちたいけど立てない中腰状態になっていた。

 

そこからが、もう凄くて!

 

この日一番のギター・ソロを聴かせるエリックさんに、

バネというバネと、溜めという溜めを駆使して駆動するエモリーさん。

 

極上のぐる〜ゔが、ステージで爆発していた。

 

私の体は、地上に足を着くことを拒み、地面から少し浮き始めていた。

 

スゲェスゲェスゲェよ・・スゲェ・・

 

 

14曲目 Little Queen Of Spade

 

出たー!!

忘れてたー!!この曲があったー!!

 

分厚い塊が、厚揚げがぶつかってくる様な、重厚なスロー・ブルース。

 

 

知ってる。俺は知ってる。この曲にもステイントンの見せ場があることを。

 

立っても、そんなに後ろに迷惑にならない場所を裟恥に教えてあげて、

裟恥はこの日初めてステイントンのソロを目視できた。

 

私は相変わらず座っていたけど、もう、そんなこと関係なくて。

この空間を覆う素晴らしい音楽に体を預けていた。

 

ポール・ギャラックさんのオルガン・ソロも、この日の彼のプレイの中で一番エモーショナルで素晴らしかった。

 

オルガン・ソロの間だけ、エモりーさんのリズムが、ハーフタイム・シャッフルみたいになっててカッコよかった。

 

 

15曲目 COCAINE

 

 

出たー!!コカイン出たー!!

こか、コカイン出たー!!!

 

もう、なんか会場が凄いことになっていて、

ロックとか、ブルースとか、そんな次元じゃなくて、

楽しいものの塊と化していた。

 

この曲のラストに、もはやステイントンの独壇場となるソロがある。

 

うちの暴狩は引き続き立って見て、私は、座っていたけど、もう、どこを見ていたのかも記憶にない。

 

純粋に音楽に没頭できていたと思う。

 

このステージにこの人たちと一緒に立ったら、きっと誰であってもいい演奏ができる、

そのプレイヤーの未だ見ぬ“ノリ”が出せる、そう思った。

 

クリ凄すぎる・ステイントンの、COCAINEの最後のソロは、

「キーボード」や「音楽」の概念を超え、

会場のすべての人を魅了し、絶叫しきった私達が一息ついても、ソロはまだ半分しか終わっていなかった。

 

いつもの倍の長さに感じたが、現実的に、この場面でそんなことをするかは、今思うと疑問である。

あの瞬間、クリ凄すぎる・凄すぎるテイントンは、この世に存在する「数」では計ることができない小節数をプレイしていたのかもしれない。

 

見えないけど、絶対ニヤケてる。いつもの様にあいつはニヤケてる。

 

 

 

アンコール 16曲目 High Time We Went

 

 

私も立ち上がって、この日初めてステージ全体を肉眼に收めた。

 

演奏自体は、緩やかに、気楽に演奏され、そうかこれぞアンコールだね、って思った。

 

気がつけば、極端な話、エリックさんのギターソロが印象に残らないくらい、

エリックにはもはや「我」は無くて、良い音楽をすることだけを目指していた。

 

顎から首にかけての境も曖昧になり、苔の様に生した無精髭で、

朴訥と目を閉じ、ギターを弾くその様は、何千年もたたずむ大樹の様な、

人気のない山の中に鎮座する何かしらの岩の様な、

俗世間を超えた神聖な人になっていた。

 

壮絶なギターソロで名を馳せたギターの神様は、

人に在らざるモノの領域に片足を突っ込んでいた。

 

何年も繰り返し演奏される同じセットリストで、一体何にたどり着こうとしているのか。

 

最後には1曲になったりして。

1時間40分の1曲になったりして。

なんかそんなことを思った。

 

「この世に、エリック・クラプトンとクリス・ステイントンという男がいたことを忘れない」

そう呟いて、武道館を後にした。