八甲田の東山麓、箒場岱にある《グダリ沼》
《沼》と名付けられているが、生まれたての駒込川の隣で湧水が沼のように広がっている素敵な場所だ
季節が来れば流れの中にバイカモの花が揺れ、足元には野生のクレソンが広がる
夕暮れ間近の薄闇の光景や朝方の川霧に包まれた景色もまた感動的だ
最近は多くの人に知られることになったグダリ沼だが、それでも5月の連休の喧騒が去ったあとなどは日中でも訪れる人は疎ら
その《グダリ》という名について、長らく自分の中で謎だった
八甲田温泉裏の開拓地で生まれた先輩ガイドの浜さんも、詳しい由来は知らなかった
『グダッと横たわっているような形だから』なんて話もあったが、それはちょっとこじつけっぽい
《ここから流れ下るから》という話も聞いたけれど、いくら津軽の人でも《下る》を『ぐだる』とは発音しないだろう
そんなこんなで八甲田を離れてから10年目のシーズンに、とあるものが目に飛び込んできた
いま在籍しているグリーンハウスというアウトドア用品店で2/6に八幡平のBCスキーツアーを企画したのだが、事前の下見のために地形図を見ていると《グンタリ沢》の文字が。
グンタリ≒グダリ、ではないだろうか…
ウイスキーの酔いに任せて、そんなアイデアが脳裏をよぎった
ちなみに《ぐんたり》は《軍荼利》(茶ではなく荼)と書き、サンスクリット語が由来とのこと
オリジナルの発音は『クンダリー』なので、《軍》の字を当てた時点で『ぐんたり』と読まれても不思議ではなく、それが縮まって『グダリ』となる可能性もある
《軍荼利》とは密教の明王のひとつ《軍荼利明王》の略とされ、五大明王のひとつだとのこと
ちなみに単体で《軍荼利》と言うと蛇を意味するという
さて、ここで問題なのが果たして《グダリ沼》の地名はいつからあるのか、それはいつ名付けられたのか、という部分
元々は開拓地であるグダリ沼一帯のことを考えると、それほど遠い昔から《グダリ沼》の名前があったとも思えず、なぜサンスクリット語に由来する地名が作られたのか謎なのだ
開拓民の中に信心深い仏教徒の方がいたとすれば話は早いのだが、それを裏付ける為には当時の開拓の資料を詳しく紐解く必要があるだろう
そして《もしかすると明王の名ではなく蛇の意味の方が強いのでは》という疑問
冒頭の地図を少し拡大すると…
グダリ沼から流れくだった水は、まるで蛇のように曲がりくねりながら幾つもの支流を合わせ、やがて駒込川として陸奥湾へと注ぐ
この曲がりくねった状態を《軍荼利》と表現したとするのは考えすぎだろうか
素直に《竜》等の字を充てず、敢えて《軍荼利》などと洒落てみたりするだろうか…
グダリ沼をめぐる思索の旅は、まだしばらくは続きそうだ