今週のもう一本!「パリタクシー」(22年) | プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

週刊プロレスモバイル連載「週モバロードショー~映画とプロレス~」延長戦!

パリでタクシー運転手をしている中年男シャルル。家族を愛しているが生活は苦しく、崖っぷち。ケン・ローチ監督の「家族を想うとき」(19年)を連想させる設定ながら、こちらにはコメディタッチも含まれており、悲観的な要素は感じられない。というのも、彼が乗せた92歳のおばあちゃんマドレーヌが元気そのもので、彼女に振り回されるシャルルが滑稽にさえ映るからだ。彼の仕事は、彼女をパリ郊外の老人ホームに送り届けること。それはいつもよりは時間がかかるとはいえ、すぐに終わるはずだった。しかし、マドレーヌはやたらと寄り道を要求、施設に入るのに積極的ではない心情が読み取れる。最初は(いつものように)不愛想なシャルルだったが、しだいにバカ負けしマドレーヌの寄り道にとことん付き合っていく。そこで語られる、波乱万丈な人生。実は彼女は、ある事件により壮絶な過去を引きずっていたのだ。ひとは見かけによらぬものであり、人それぞれの人生がある。偶然出会った人の人生の集大成に付き合った男は、つまらないと感じていた自分の人生に光を見出す。パリの名所をたどる観光映画の様相を呈しつつ、おばあちゃんと中年男の交流を重ねる脚本が素晴らしい。

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