今週のもう一本!「あの頃。」(20年) | プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

週刊プロレスモバイル連載「週モバロードショー~映画とプロレス~」延長戦!

うだつの上がらない生活を送っていた若者・劔(松坂桃李)は、心配した友人から松浦亜弥のDVDを渡される。アパートでひとりそれを見た劔は、あまりの輝きに衝撃を受け涙を流す。以来、ハロー!プロジェクトにハマり、地元のハロオタたちとつるむようになる。定期的にイベントを開催し、学園祭で啓蒙活動。さらにはバンドを結成し、さえない日常がハロプロによってくだらなくもかけがえのない日々になっていく。舞台は2004年から08年あたりの大阪だ。大阪にもハロプロショップがあったが、東京ではないところに、アイドルとのビミョーな距離を感じさせる。大阪に住む彼らは日常的にハロプロと接することができない分、彼らなりのトークライブを開催し、ハロプロ愛について語り合う。とはいえ、徐々に話はハロプロから逸脱。仲間の彼女を寝取ったとか、白ブリーフ一丁でお仕置きとか、こういった場面はこの作品に必要なのかと思ってしまう。“あの頃”というほど昔の話でもないし、“あの頃”の話ならば、なおさらそれぞれのメンバーがその後どうなったのかを知りたくなった。物語はいつの間にか野郎版『サニー 永遠の仲間たち』(11年)のような展開となり、難病ものかと唖然とする。しだいにバラバラになっていくのは、彼らの人生にハロプロ以外で優先順位の高い何かが出てきた証拠。そんな輝かしい日々が永遠に続くはずもない。若者たちの集まりだけになおさらだ。それでも彼らは「いまが一番楽しいですよ」と言ってのける。彼らの心の中にはいつもハロプロが生きている。なにかを好きでいられること自体が素晴らしい、ということなのだ。

(C) 2020『あの頃。』製作委員会