本人もドン引き!葛西純『狂猿』でデスマッチの厳しさを伝える竹田誠志の驚愕シーン | プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

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週刊プロレスモバイル連載「週モバロードショー~映画とプロレス~」延長戦!

デスマッチのカリスマ葛西純を追うドキュメンタリー映画『狂猿』(21年)で共演するもうひとりの“狂猿”が、竹田誠志である。竹田は大日本のデスマッチヘビー級、FREEDOMSのキング・オブ・フリーダムズ(KFC)王座を史上初めて同時保持したデスマッチファイターで、その快挙は竹田以外にまだ誰も成し遂げてはいないほど。その竹田の試合映像が『狂猿』でも取り上げられ、デスマッチの厳しさを伝えるのに一役買っている。 

20年7月28日、FREEDOMS「葛西純プロデュース興行 東京デスマッチカーニバル2020 vol.1」東京・後楽園ホールのメインイベントとしておこなわれた「ガラスボード+蛍光灯+αデスマッチ」で、竹田は時の王者・杉浦透、4度目の防衛戦の相手に指名された。デスマッチファイターとして売り出し中の杉浦はまだ竹田に勝ったことがなく、竹田をデスマッチの「ラスボス」として対戦を要求したのだ。竹田を超えてこそ、真のデスマッチ王者になれる。そんな思いがあっただけに、試合が壮絶を極めるのは至極当然だった。が、闘いは予想外のアクシデントで幕を閉じる。ケガが日常茶飯事のデスマッチでアクシデントとはよほどのことだ。そのときの様子、つまり映画のスクリーンにも映し出された試合の状況を、竹田自身が語ってくれた。

「あの試合のちょっと前に、ダニー・ハボックというレスラーが亡くなったんですよ。ボクにも思い入れのある選手だったので、追悼の意味を込めて彼の動きをやってみたんです。背中に蛍光灯の束を置いてヒジで殴るんです。ふだんならしっかり割れるんですけど、その日は蛍光灯が硬いのもあって、割れにくかった。割れたんですけど上の方しか割れなくて、その勢いで、右肩のあたりにタテから蛍光灯がズブズブと刺さってしまった。フォールにいったとき、なにか刺さってるなと気づいて、本能的にとっさに抜いたんですよ。カバーをキックアウトされたときに、なにかがボロボロって出た感じがして、そのあとの攻防でぶらりと垂れ下がってたらしいんです。それが実は筋肉だったと。このときはあまり記憶にないんですけど、周りにいた人たちの証言によると、エルボーを打ち合っているときにテンションが上がってて、ぶら下がっている肉を自分で引きちぎったらしいんです。邪魔だから自分で引きちぎったと。そのあともずっとやってたんですけど、力が入らないのが自分でわかってきてて、杉浦をジャーマンで投げたとき全然力が入ってなかった。そしたらセコンドが試合を止めろ、レフェリーも試合を止めるみたいになってて、レフェリーストップで試合が終わってしまったんですね」

 右肩から脇腹にかけてのおびただしい流血。試合は、レフェリーストップで杉浦の王座防衛となった。王者が未勝利の相手からタイトルマッチで初勝利を挙げたとはいえ、両者とも納得のいく結末ではない…。

「試合を止められて、アタマが真っ白になっちゃいましたね。というのも、その前の1月にもボクはケガをして欠場した。痛いとか、そういうのを考える前に、オレ、もうここにいちゃダメかなみたいな。デスマッチファイターってああいう危険なことやってるけど、(欠場するような)大ケガせずに帰るのがデスマッチファイターなので、一年の内に2回もそういうことがあってはさすがにヤバいな、みたいな感じでした。アタマの中は、もうそういう思いしかなかったですね」

 観客の拍手さえも拒否した竹田。それだけ悔しい思いが残る闘いだった。竹田は病院に運ばれたのだが、リング上には彼が残した“肉の塊”が置き去りになっていた。これを処分せず保管したのが、試合を裁いた吉野レフェリー。隠れたファインプレーである。「吉野さんは応急処置も早くて医療にも詳しい。証拠として残そうとしてくれたんですよ」と竹田。そして、“肉の塊”は病院に届けられた。前例がない事態で、医師も困惑するほどの大ケガだった。

「手術の前に、『これが(リングに)落ちていたそうですよ』と、肉の塊を見せられました。それこそスーパー、お肉屋さんで売ってるホルモンみたいな感じでしたね(苦笑)。白いガーゼで包んであったんですけど、それを広げて見た瞬間、ワーッとなって、自分でも引いてしまいました」

 その後、全身麻酔をして手術を受けた竹田。復帰後には、「ホルモンみたいな肉の塊」をもう一度観てしまう機会があった。映画『狂猿』に映っていたのだ。

「(川口潤)監督から自分の携帯に映像が送られてきたんですよ。映画の中で使用したいとのことで確認のための連絡だったんですね。その映像を見て、まあ大丈夫かなと思ってOK出したんですよ。でも、試写会のときにあらためて大きなスクリーンで見てみると、さすがにドン引きしてしまいましたね。大きい画面で鮮明に見るとこんななんだと思って、ゾッとしちゃいました。ただ、デスマッチのリアルを伝えるには、まあ、ありかなと。実際、いまでも『あれって飴細工じゃないの』とか『血糊を使ってるんでしょ』とか(プロレスを)知らない人に言われることがあるんですよ。なので、そういう人にこそ観てもらいたいですね。自分たちは、ホントにリアルで命懸けでやってるんだよと。ケガをしてそういうのを証明するのもよくないですけど、リアルさを伝えるのにはよかったのかなとも思います。いまでこそ葛西純とは抗争をしてますけど、抗争前に話したときに、『(竹田は映画の)裏の主役だから』と言われました。また、あのシーンがあったからこそ、この映画でリアルを伝えられたみたいなことは言われましたね。なので、結果的にはよかったのかなとは思うんですけど、自分としてはケガした試合だし、カッコ悪いとこしか映ってない。それが悔しいですね」

 ファイターとしては、負けた場面が採用されたことに悔しさを感じている。また、葛西にスポットライトが当たったことにジェラシーを感じないと言えばウソになる。

「あの映画の反響ってすごくて、公開されてからFREEDOMSの大会チケットの売り上げが伸びてソールドアウト続いている。葛西純がテレビとかメディアで取り上げられているのを見ると、同じデスマッチファイターとして悔しいし、ジェラシーがあるんですよね。だからといって葛西純と同じ道で同じことをやろうとは思わないです。なにか別の形で世に出たいというのはありますね」

 もちろん、葛西の露出が他分野で増えるのはプロレスラーとして誇りでもある。それでもやはり先に立つのは、闘う者としての悔しさ。カリスマ葛西を超えるとの気持ちを胸に、竹田誠志はデスマッチのリングに上がりつづける。

(C) 2021 Jun Kasai Movie Project.

竹田誠志