今週のもう一本! 「アメリカン・アニマルズ」(18年) | プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

週刊プロレスモバイル連載「週モバロードショー~映画とプロレス~」延長戦!

芸術家を目指す大学生のスペンサーは、悶々とした日々を送っている。「オレの人生はこんなもんじゃない。なにかきっかけさえつかめば、人生は劇的に変化する」。たとえそう考えても、待っているだけでなにも起こらない。思えば偉大な芸術家と言われるような人たちはみんな、なにかしらの悲劇を乗り越え大きくなった。ならば自分もなにかをやらかそう。そして考えたのが、大学が所蔵する価値の高い芸術本、その初版を盗み出すという間違ったやり方だった。彼は友人のウォーレンと結託し、さらに2人の大学生をも巻き込んでいく。そして4人は、窃盗計画を実行するのだが…。これはケンタッキー州で実際に起こった事件の映画化だという。「この映画は実話に基づく」ではなく、あえて「これは実話だ」と冒頭でアピールされる。映画では事件の犯人をはじめ当事者たちが実際に登場。当時の様子を証言するドキュメンタリー方式が挿入されるのだ。ドキュメンタリー部分の証言と事件の再現が同時進行されていくのである。しかも本物の犯人が劇中で俳優と共演するシーンまで用意されている。さらに証言の食い違いも映像で見せていく。どちらも映画ならではのマジックだが、これらのシーンが示唆的で興味深い。ウォーレン役のエヴァン・ピーターズはマルコム・マクダウェル感満載で、まるで『時計じかけのオレンジ』(71年)の再来だ。それ以上に本物のウォーレンが俳優なのではないかと思えるほどの存在感。逆に本物のスペンサーはどこにでもいるような青年で、かえって演じているバリー・コーガンとのギャップに戸惑う。バリー・コーガンは『聖なる鹿殺し』(17年)で演じたキモすぎる印象がこの作品にも受け継がれている。それだけにミスキャストでもあるのだが、フィクションならば逆に最高のキャスティングになるだろう。いずれにしても、若気の至りで暴走する4人の感情の移り変わりがこの作品の肝である。計画中の高揚感、実際に行動するとなったときの不安と焦り、そして後悔…。その変化が丁寧に、そしてスリリングに描かれており最初から最後まで飽きさせない。ウド・キアの登場もうれしい限り。「鳥図鑑」を食い物にしようとする『アメリカン・アニマルズ』。このタイトル、最高である。

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