人は一人では生きていけない
一人の女性の悲劇を描いた作品です。主役の女性は、幼少期から母親のDVで苦しみ、売春や薬物に手を染めます。
そんなある日、売春の相手の薬物トラブルに遭遇し、彼女はある刑事と知り合い人生の歯車が動き出します。
作品を観ながら、ここまでの最初のエピソードだけである違和感を覚えました。
「彼女(杏(あん))は、なぜ周りに助けを求めないのだろうか?」
日本には、警察をはじめ多くの相談窓口があります。法律やその他理由により助けを求める人を救済できるかどうかはわかりませんが窓口があるのは事実です。では、なぜ助けを求めないのか?
物語が進むにつれて、その理由がわかりました。あんは、「助けを求める術」を知らないのです。そもそも母親による閉じられた
世界の中で生活し、そもそもその発想すら生まれないのです。
世の中には、親切心で「困ったら声かけてね」と言う人がいます。素晴らしい気遣いです。が、実はその相手は「助けて欲しい」
「何とかして欲しい」と言えないのです。
助けを求めれないのは、本作に登場するあんだけではないです。実は、周りにはそんな境遇の人がいるかもしれません。
本作に描かれているDVや薬物、売春だけでなく、学校で、仕事で困っている人、助けを求めている人がいるかもしれません。
だから「声をかけてね」ではなく、本当は「声をかける」のが正しいのでしょう。
本作では、あんに佐藤二朗演じる刑事が声を掛けます。そうすると彼女の人生、生活の歯車が突然回り出します。今まで止まって
いるのがウソのようにです。しかし、声掛けがなくなると彼女は元に戻ってしまうのです。
人は一人では生きていけない。ただ、周りにてんさしのぺてくれる人がいないと生きていけないことが本作を通してよくわかりました。
本作は、人間ドラマであり、悲劇的ドラマです。「かわいそう」「悲しい」という思いと同時に周りの困っている人に声掛けができているか?と考えさせてくれる映画でした。
テーマ的に観客が避けがちな作品です。その作品に、今売り出し中の女優である河合優実が演じました。
彼女がこの作品の主演を引き受けた理由はわかりませんが、仮に人気女優が主役を演じることで作品テーマに注目が浴びることを
狙っていたのであれば真の女優だと思います。
因みに作品を鑑賞したのが平日。にも関わらずほぼ満席。やはり河合優実が主役を演じた意義はあるようです。
【2024年/日本】
【ジャンル】ドラマ
【出演者】河合優実 佐藤二朗 稲垣吾郎 他
映画『あんのこと』公式サイト|2024年6月7日(金)全国公開 (annokoto.jp)