巨悪に対して正義を貫く覚悟
1987年。ギャング映画、警察映画、そしてアメリカ神話を融合させた傑作が誕生した。
それが『アンタッチャブル』である。
監督は、“映像の魔術師”ブライアン・デ・パルマ。
脚本は『スカーフェイス』でも知られるデヴィッド・マメット。
そして音楽はエンニオ・モリコーネ。
さらに出演者にはケビン・コスナー、ショーン・コネリー、ロバート・デ・ニーロ、アンディ・ガルシアという今から考えると
豪華すぎる布陣。
まさに「映画スターとは何か」を体現した作品だった。
舞台は1930年前後のシカゴ。
アメリカが禁酒法に揺れていた時代である。
酒の販売が法律で禁止された結果、人々の欲望は地下へ潜り、巨大な闇市場が生まれた。
その頂点に君臨したのが、実在のギャング、アル・カポネである。
彼は単なる犯罪者ではない。
政治家を買収し、警察を抱き込み、街全体を支配した“裏の王”だった。
その絶対的権力に立ち向かった男が、財務省捜査官エリオット・ネスである。
だが本作が優れているのは、ネスを“完璧なヒーロー”として描いていない点である。
物語序盤の彼は青臭い。
法を信じ、正義を信じ、真っ直ぐすぎるほど真面目。
しかし現実のシカゴは腐敗しきっている。
仲間は信用できない。
警察内部にも敵がいる。
証拠は消され、人は金で動く。
つまり、ネスは理想だけでは勝てない世界へ放り込まれるのである。
そして、そんな彼を導くのがショーン・コネリー演じる老警官ジム・マローンだ。
このキャラクターが、本作を単なる犯罪映画ではなく、“師弟の物語”へ昇華している。
マローンは正義感を持ちながらも、現実を知り尽くしている。
「ナイフを持ってきたら、銃で返せ」
あまりにも有名なこの台詞は、本作のテーマそのものだ。
つまり巨悪に対して綺麗事だけでは勝てない。
正義もまた、時に泥を被らなければならないのである。
ショーン・コネリーは、この役でアカデミー助演男優賞を受賞した。
彼は単に渋いだけではない。
若きネスを導く父親のような存在でありながら、同時に“古き時代の男”としての哀愁も漂わせている。
元007のスマートなイメージを持つ彼が、本作では汗と埃にまみれた老警官を演じ切ったことに驚かされた観客も多かったはずだ。
一方で、ロバート・デ・ニーロ演じるアル・カポネも凄まじい。
出演時間は決して長くない。
しかし、登場するたびに空気を支配する。
笑顔の裏に潜む狂気。
部下への残虐性。
そして、自分を“愛国者”だと本気で信じている危うさ。
特に有名なのが、晩餐会のシーンだ。
和やかな空気の中、突然、カポネがバットを手に取り、部下を殴り殺す。
あの場面は、ギャング映画史に残る名シーンである。
デ・ニーロは役作りのために体重を増やし、実際のアル・カポネの服装まで研究したという。
まさに“デ・ニーロ・アプローチ”の真骨頂。
また、本作は演出面でも極めて完成度が高い。
特に有名なのが、シカゴ・ユニオン駅の銃撃戦。
階段を落ちる乳母車。
緊張感を極限まで高めるスローモーション。
観客の呼吸まで止めるような演出。
映画ファンなら誰もが知る名場面であり、後年、多くの作品がオマージュを捧げた。
デ・パルマ監督は、サスペンス演出の天才である。
本作でも「誰が撃たれるのか」「誰が裏切るのか」を巧みに観客へ意識させながら、映像だけで緊張感を作り出していく。
だから約2時間の上映時間が異様に短く感じる。
さらに忘れてはならないのが、音楽の力だ。
エンニオ・モリコーネによるスコアは、単なるBGMではない。
ネスたちの孤独。
シカゴの危険な空気。
正義の昂揚感。
それらを音楽が観客へ直接叩き込んでくる。
特に終盤へ向かう高揚感は圧巻で、本作を“神話”の領域まで押し上げている。
そして本作のもう一つの魅力は、“少数精鋭チームもの”として完成されている点だ。
腐敗した巨大組織に対し、信頼できる仲間だけで戦う。
この構図は後の多くの映画、ドラマ、ゲームへ影響を与えた。
ネス。
マローン。
若き射撃の名手ストーン。
会計担当のウォレス。
全員が役割を持ち、全員が戦う。
だから観客は、このチームに感情移入してしまう。
また、若きアンディ・ガルシアの存在感も素晴らしい。
本作で彼は一気に注目を集め、その後『ゴッドファーザー PART III』などへ繋がっていく。
つまり『アンタッチャブル』とは、多くのスターをさらに押し上げた作品でもあった。
もちろん、史実との違いを指摘する声はある。
実際のエリオット・ネス像はもっと複雑であり、本作のような完全無欠の英雄ではなかったとも言われている。
だが、それは本作の価値を損なわない。
なぜなら本作は、ドキュメンタリーではなく、“アメリカが理想とした正義の神話”だからだ。
腐敗に屈しない男たち。
命を懸けて巨悪へ挑む者たち。
その姿は、約40年経った今でも色褪せない。
『アンタッチャブル』とは、単なるギャング映画ではない。
これは、“正義を貫く覚悟”を描いた映画史に残る傑作なのである。
【1987年/アメリカ】
【ジャンル】アクション
【監督】ブライアン・デ・パルマ
【出演者】ケビン・コスナー ショーン・コネリー ロバート・デ・ニーロ アンディ・ガルシア 他
【上映時間】1時間59分
【お勧め度(5点満点)】☆☆☆☆☆