危機が生んだ“VS映画”という勝ち筋
日本が世界に誇る映像コンテンツはいくつもあるが、半世紀以上にわたり世代を超えて愛され続けている存在はそう多くない。
その筆頭が、1975年の『秘密戦隊ゴレンジャー』から始まったスーパー戦隊シリーズである。
ウルトラマン、仮面ライダーと並び、日本のヒーロー文化を形作ってきたこのシリーズは、海外では「Power Rangers」として巨大な市場を築き、一時期はアメリカのクリスマス商戦を席巻するまでに至った。
そんなスーパー戦隊の歴史において、現在では“定番”であった「VSシリーズ劇場版」。
その流れを決定づけた一本が、2009年公開の『炎神戦隊ゴーオンジャーVSゲキレンジャー』である。
興味深いのは、この作品が綿密な戦略の末に生まれた企画ではなかったという点である。
当初、2009年正月に公開予定だった別作品が諸事情により劇場公開中止となり、急遽、その穴を埋める形でもともとVシネマ用として制作されていた本作が“格上げ”され、劇場公開されることになった。
前売り券なし。
同時上映なし。
通常料金。
子供向け映画としては、常識外れとも言える条件が並ぶ中での公開だった。
関係者にとっては、まさに背水の陣。
しかし結果は、予想を裏切る大ヒット。
この成功が、以降のVSシリーズ量産、さらにはその後の仮面ライダーとのクロスオーバーへと繋がっていく。
本作そのものは、正直に言えば、「誰にでも開かれた映画」ではない。
ゴーオンジャー、ゲキレンジャー、双方の世界観やキャラクターを理解していなければ物語はかなり置いていかれる。
スーパー戦隊への思い入れがない大人が単体作品として楽しめるかと問われれば、疑問は残る。
だが、それでも本作が“成功例”として語り継がれる理由は明確だ。
それは、「非常時においても、コンテンツの火を絶やさなかった」という一点に尽きる。
劇場ビジネスを止めない。
シリーズの流れを断ち切らない。
既存ファンを信じ、勝負に出る。
この判断力と決断力こそが、本作最大の価値であり、東映という会社の底力を示した瞬間だった。
思えば、戦隊同士が共闘する映画自体は、1970年代の「東映まんがまつり」にも存在していた。
だがそれは、あくまで併映作品の一つ。単独興行として成立させた意味は、まったく異なる。
『ゴーオンジャーVSゲキレンジャー』は、VS映画を“劇場用ビジネスモデル”として確立した起点なのだ。
現在、スーパー戦隊シリーズは、49作目『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』で一区切りを迎えるとされている。
しかし、このシリーズが本当に「終わる」と考える人は少ないだろう。
なぜならスーパー戦隊は、単なる番組ではなく、世代と世代をつなぐ文化装置だからだ。
危機の中で生まれ、結果的に新たな流れを作ったこの一本は、作品の完成度以上に「コンテンツをどう生かすか」という日本映画史的にも示唆に富んだ存在である。
『炎神戦隊ゴーオンジャーVSゲキレンジャー』は、ヒーロー映画であると同時に、東映の現場が生んだ“勝負の記録”なのである。
【2009年/日本】
【ジャンル】アクション
【監督】諸田敏
【出演者】古原靖久 逢沢りな 鈴木裕樹 福井未菜 平田裕香 他
【上映時間】57分
【お勧め度(5点満点)】☆☆ (日本のスーパーヒーローを愛する人向けには☆4つ)