ミッドサマー

あらすじ/解説
長編デビュー作「ヘレディタリー 継承」が高い評価を集めたアリ・アスター監督の第2作。不慮の事故により家族を失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人たち5人でスウェーデンを訪れた。彼らの目的は奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」への参加だった。太陽が沈むことがないその村は、美しい花々が咲き誇り、やさしい住人たちが陽気に歌い踊る、楽園としか形容できない幸福な場のように思えた。しかし、そんな幸せな雰囲気に満ちた村に不穏な空気が漂い始め、妄想やトラウマ、不安、そして恐怖により、ダニーの心は次第にかき乱されていく。ダニー役を「ファイティング・ファミリー」のフローレンス・ピューが演じるほか、「トランスフォーマー ロストエイジ」のジャック・レイナー、「パターソン」のウィリアム・ジャクソン・ハーパー、「レヴェナント 蘇えりし者」のウィル・ポールターらが顔をそろえる。


★4.5/5


アリアスター的、コント映画。ホラーの皮を被ったギャグ映画。



いつでも簡単に抜けれそうな環境だからとコミューンの文化に習って生活していたら、いつの間にか坩堝にハマって気づいた頃にはもう遅いという感覚。何となくわかるぞ!密教、奇祭、胡散臭い、最高かよ。



前作ヘレディタリーから相変わらず日常に潜む病的な闇を啓示してくるスタイルは健在だが、ミッドサマーはヘレディタリーよりもカルト感が増してるし、ペイモン的なモノじゃなくて人間のヤバさ一択でカマシに来てる感じがするのが良い。


音に関しても不協和音が鳴る中で急に嗚咽を重ねて居心地の悪い不快なサウンドを鳴らしてみたり、何でもないシーンで意図的に無音を使って緊張感を煽ってみたり、直接的な殺戮シーンを描写せずに遠方から聴こえる悲鳴でヤバさを察しさせてきたりと、音の抜き差し、緩急のつけ方はヘレディタリーからミッドサマーに継承されていて相変わらず危ないです。


ストーリーに関しては説明し過ぎない脚本で謎が謎を呼ぶ仕様なのがオカルト探究心を燻らせる一方で、人と人の繋がりについても問題提起されていて、こちら側からすればコミューンの倫理に反する事でも、あちら側からすれば命の循環にしか過ぎない事であって価値観のズレについても考えさせられる中で、マリファナを吸う時の"俺いいから、お前らで先やっといてよ〜"と言う絶妙にリアルな会話の面白いやり取りだったり、ホラー映画でありながらも人間ドラマの完成度も高い。



ちなみに個人的なハイライトは、どアップのガラスコップに怪しいハッパを入れてかき混ぜるシーンと、自ら生贄となり死を受け入れてるはずの男が、いざ炎を前にすると恐怖に怯え苦痛の表情を見せる、メランコリアのラスト的な絶望感のあるシーン。


あと消化不良だったのはウィルポールター。相変わらずアホキャラで、マイペースで面白いけど、これといった見せ場なくアホキャラのまま退場したのが、ウィルポールターらしいけど残念だ。



ミスマッチするモノを混ぜたり、あまり見た事ない描写にチャレンジしたりという実験的な楽しさ、特にクリスチャンのケツを全裸のおばちゃんが押して相手の女の子をイかせたり、真昼間の爽やかな野原の中を股間に手をやりながら全裸で走るクリスチャンの悲壮感、あとコミューンの住人が時折り出す胡散臭さとか、狂気が過ぎる故に不意打ちなコメディポイントになっていて、良くも悪くもギャグで爆笑!と言う感じだけど、そういう部分も含めてアリアスター最高だなぁ〜!と思わせられた。



コロナショックで映画を含めたエンタメがストップしていたから、映画はTVやWOWOWで観まくっていて、映画館と違って自宅だと流石に迫力不足。それでも映画が良作なら普通に楽しめるから全然満足していた部分があって、もう映画は映画館で観なくていいかもなぁ〜と思ったりしていたけど、やはり映画は映画館だなとミッドサマーを劇場鑑賞して改めて確認させられた。少し前に読み終えた原田マハの名作"キネマの神様"の一文に『DVDで観ればいいや、と思われるような映画を作りたい映画人がいるのか』という文章を思い出すわけで、様子を見ながらだけど映画は映画館で観ていきたいなと思うのでした。


Arca/Nonbinary