ファースト・マン


あらすじ/解説
「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督&主演ライアン・ゴズリングのコンビが再びタッグを組み、人類で初めて月面に足跡を残した宇宙飛行士ニール・アームストロングの半生を描いたドラマ。ジェームズ・R・ハンセンが記したアームストロングの伝記「ファーストマン」を原作に、ゴズリングが扮するアームストロングの視点を通して、人類初の月面着陸という難業に取り組む乗組員やNASA職員たちの奮闘、そして人命を犠牲にしてまで行う月面着陸計画の意義に葛藤しながらも、不退転の決意でプロジェクトに挑むアームストロング自身の姿が描かれる。アームストロングの妻ジャネット役に、「蜘蛛の巣を払う女」やテレビシリーズ「ザ・クラウン」で活躍するクレア・フォイ。そのほかの共演にジェイソン・クラーク、カイル・チャンドラー。脚本は「スポットライト 世紀のスクープ」「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」のジョシュ・シンガー。


★4.5/5


あえてニール・アームストロング船長の闇を描いた話しは重厚で見応えのあるSF映画でした。



監督はデイミアン・チャゼル。代表作には『セッション』『ララランド』が挙げられる。どちらも傑作でした。個人的に外れ映画がない監督だから毎回安心して観れちゃいます。

今作は過去2作と比べると圧倒的に濃厚で、重々しい雰囲気、だけど内容はシンプルに徹底していて、そこにチャゼル監督の卓越した演出とニールの息子達やNASA関係者への綿密なインタビューでリアリティある作品になっていた。

家庭でのニールは寡黙で子煩悩で奥さん思いだし、自宅とNASAを毎日寄り道もせず行き来する姿に『パターソン』を思いだします。"偉人ニールアームストロング"も家に帰れば普通の父親なのが意外で面白い。奥さんとダンスを踊るとこは『ララランド』を匂わせていて良かった。


そんな穏やかな『パターソン』日和な日々も今作は米ソ宇宙開発競争真っ最中な話しなわけで、とにかく人が死ぬ。昨日パーティーしてた仲間が事故死したり、親友が事故死したり、妻ジャネットの『葬儀には慣れた』という台詞、ニール達が搭乗するアポロや実験機は壁をネジで止めたようなコスパ重視の代物で、こんなので宇宙へ行くのかと自殺行為もいいとこで、米ソ宇宙開発競争時代の闇にも迫った内容は勉強にもなる。淡々としたストーリー運びは、淡々と宇宙飛行士の命を消耗品のように扱う当時のアメリカ政府やNASAへのメタファーのようにも思える。

宇宙空間の恐怖や緊張を、宇宙空間を見せずにコックピットの閉鎖感、おもちゃみたいなスイッチ、唯一宇宙が見れる小さな小窓なんかで表現していて極力CGに頼らず、実写でやってしまう感じが『インターステラー』っぽくて格好良い。


音に関しても、ロケットの打ち上げる時の鉄の軋む音や激しい震動など幅広いバリエーションでシーンに似合った効果音を再現していて迫力があるし、無音の使い方も効果的でクライマックスの月に着陸した時は劇場が静まり返って息を飲む素晴らしいアーティスティックなシーンで感動する。

特に中盤の黒人達が、『俺たちはメシも食えないのに、白人達は国の金で月に行きやがる』と怒りのヘイトスピーチで使われる曲はヒップホップ的アプローチな演出で、チャゼル監督のセンスが爆発していてアガります。

調べて見るとギルスコット・ヘロンの『ホワイティ・オン・ザ・ムーン』という曲らしい。かなり格好良い。



主人公のニールアームストロングを演じたライアンゴズリングも感情をあまり出さない演技で相変わらず格好良いし、役にハマっていました。ニールアームストロング本人には全然似てないけど、それでもライアンゴズリングを起用するんだから相当チャゼル監督に気に入られてるんだろうなぁ。


ラストは伝記モノでありがちな、本人登場とかニール本人のその後も語られる事なく、スマートな終わり方で、映画で起こった事が身近に感じるような錯覚に陥る感じがして良かった。

『セッション』『ララランド』と音楽映画続きできて今作はどうなるかと思ったけど、軽々と過去作と差別化を図って当時の情勢を踏まえながらニールアームストロングを描き切っていて、デイミアンチャゼルの芸達者ぶりが伺える。次はどんな映画を撮るのか楽しみで仕方ない。

それにしても、そろそろ月にロケット飛ばしてもいい頃なんじゃないか?この当時みたいにファミコンみたいなCPUじゃないだろうし、今の技術なら余裕な気がするけど、行ってはいけない理由とかあるのだろうか???