その日、私はふと、自分の体に声をかけてみた。

 

「どうしたの?」「なにか、つらい?」

 

調子が悪い日だった。理由はわからない。

ただ、自然とそんな言葉が出てきた。

 

自分でも、どうしてそんなことをしたのかは、わからなかった。 

でも、それは確かに“はじめての対話”だった。

 

返ってきたのは、言葉ではなかった。 

でも、確かに感覚が返ってきた。

驚いたような感じ。

少し、うれしそうな気配。

 

それは、ずっと忘れていた“やさしい対話”のようだった。

体と“つながった”感覚が、ほんの少しだけ、自分を柔らかくした。 

電車の窓から見える風景が、前よりやさしく感じた。              

他人の言葉が、少しだけ静かに聞こえた。                    

 

自分を責める声が、少しだけ遠くなった。

それだけじゃない。                              部屋の空気や、そこにあるモノたちの“気配”が、やさしく感じられた。       まるで、長いあいだ黙って見守ってくれていたものたちが、 

「やっと気づいてくれたんだね」

と微笑んでくれているようだった。

 

そしてある晩、寝る前にいつものように動画を見ようとパソコンに手を伸ばしたとき、 ふと、キーボード手前のくぼみに触れた。

たったそれだけのことなのに—— そのパソコンが、恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうにしているような感覚が伝わってきた。                       

 

この時は紛れもない、とてもはっきりとした感覚だった。

私は驚きながらも、すごく胸があたたかくなった。 

たぶん、私のほうがずっと、受け取ってもらっていたのかもしれない。 

ずっと側にいてくれた存在たちに。

 

私は、自分の体に謝った。 

「無理させてごめん」

「ずっと気づかなくてごめん」

 

すると、体がふわっと緩んだような気がした。 その瞬間、自分の中で何かが変わった。

 

小さなことば

 体の声は、いつも小さなささやき。 でもそれに耳を澄ませたとき、世界が少しだけ変わって見える。 あなたがあなた自身と、もう一度出会うそのときまで—— 体は、ずっと、待っていてくれた。