そぴあのブログ -5ページ目

そぴあのブログ

今はカードキャプターさくらにハマり中です。
もちろんケヴィン・レイノルズ選手とニコライ・ホジャイノフ氏が好きです。
レイノルズ選手は引退されましたが、ホジャイノフ氏についての考察や感想も続けます。

続きです。

こんな話があってもよかったかも…と心の広い方がいらっしゃいますようにと…。

ちょっとでも、面白いと思っていただければ幸いです。

もちろん、原作者様や、公式アニメ制作者様とは何の関係もないです。

 

 

 

 

 

『心の歌』①

 

知世と秋穂が小狼の伴奏で、昼休みに練習するようになって四日目。いよいよ明日が本番だ。

三人がピアノの前で、今日の練習の段取りを確認している間に、あたりがにぎやかになってきた。

四日前には閑散とした音楽室の周辺であったが、今や教室内はもちろん廊下にまで、ギャラリーが集まってきているのだった。

三人が音楽室で練習していることが、いや、その歌が素晴らしいということが、生徒達に広まってしまった結果だ。

当初、小狼はできれば締め出したいと、嫌そうにしていたが、もともと発表会のための練習であり、聴衆を前に歌うことに慣れていない秋穂が舞台慣れするのにちょうどいいと、知世が喜ぶので、小狼も抗議したいところをしぶしぶ引っ込めたのであった。

「では、通しで歌いましょう。まず『空は見ている』次いで『おぼろ月夜』 を。」

三人目配せし、演奏がはじまる。小狼の奏でる繊細な前奏、そして二人の二重唱。最前列で、さくらは、恍惚とした表情で聴き、見ていた。

なんと素敵なひと時なのだろう。聴いているだけで、身も心も穏やかに幸せになっていく…。

―――これも魔法じゃないのかな。人を、たくさんの人を幸せでいっぱいにする魔法。少しうらやましいかも。

頻繁に見る奇妙な夢。変わらず続く違和感。まだ全てを恐らく語ってはくれていない小狼のこと。不安なことは確かにたくさんあるが。

―――そうだよ、苺鈴ちゃんの言う通りだよ。心配しているだけじゃ何にも解決しない、何にも始まらない。私にもできること、きっとまだまだある。

二人と伴奏者にまったく乱れはない。

二曲が終了したその時、音楽室の入り口から拍手とともに、ブラボーと大人の声がかかり、コーラス部の顧問の丸田が歩み寄ってきた。

「大道寺さん、詩之本さん、素晴らしかったわ。この仕上がりなら明日はまったく心配いらないわね。」

「先生! ありがとうございます。音楽室を使わせていただいたおかげですわ。」

丸田は満足そうに二人に笑みを向けた後、ピアノの前の小狼をのぞきこんだ。

「李小狼君だったわね。伴奏お疲れ様。あなたの協力に感謝します。毎日ありがとう。」

「いえ、俺はなにも…自分にも練習になったぐらいで、未熟な伴奏で二人の邪魔でなかったか心配でした。」

顧問は、小狼の言葉の何に驚いたのか、またたきを繰り返した後、知世達を振り返った。

「大道寺さん、詩之本さん、彼の演奏は素晴らしかったですよね。」

「もちろんですわ!」

「もちろんです!」

二人の声が重なる。

「私達が、どうしても李君の伴奏で練習したくて、無理にお願いしたんですもの!李君の伴奏があったからこそなんです!」

秋穂が続けた。

顧問は満足そうに頷くと、再び小狼に向かって言った。

「李君、お願いがあります。明日の発表会でも、伴奏を引き受けていただけないかしら。」

「え? 明日の伴奏…ですか?」

小狼がきょとんと顔をあげた。

「やったー!先生、感謝します!」

やはり最前列で聴いていた山崎がすかさず、立ち上がり、後ろのギャラリーを振り返った。

「みんなも、賛成だよね!」

「うん、もちろん。」

「わあ、やったー!」

「明日、絶対聴きに行くよー!」

生徒達皆が一斉に喜びの声を挙げた。

「え?で、でも…。」

小狼は、小学生だった頃、困ったことが起きた時いつもそうであったように、あたふたと顔を真っ赤にしている。

山﨑が小狼に近づき、背中をぽんぽんとたたく。

「李君、どうせ明日は発表会聴きに行く約束だったじゃない。座る場所が舞台になっただけだよ。みんながこんなに喜んでいるんだよ。まさか断ったりしないよね?」

「いや、でも山崎、本来の伴奏者に悪いだろう?」

「李君、伴奏は全部、先生がされることになっていたのですわ。その先生からのお願いなのですから。」

知世が顧問に軽く頭を下げて、小狼に向かって諭すように言った。

「是非!お願いです!」

秋穂にいたっては、少し涙目になっている。

さくらは、突然の展開に、きょろきょろと、小狼を見て、知世を見て、顧問を見てと、せわしなく首を動かしていたが、さくらを見る小狼の視線に気付いた。

「さくら、…どうすればいい…かな。 俺…。」

小狼が何故か自分に許可を求めている。ふと気づくと山崎達や、先生まで小狼の目線をたどり、さくらを見ている。

―――まただ…あんな表情…どうしちゃったの? 小狼君…?

どうしてか、小狼が泣き出してしまうのではないか、さくらはふとそんな予感に襲われた。

もちろんこんなことで泣き出すはずなどないのに。

でも…でも、なんだか…。

―――そうだよ!このままじゃだめだ、小狼君!

さくらは、すっと息を吸った。

「小狼君。ピアノ伴奏してあげて!ううん、私、小狼君のピアノ伴奏が聴きたい!だから、お願い、絶対に明日、小狼君が演奏して!私のために!私が聴きたいから!」

最後の方はほとんど叫ぶようだった。まわりの生徒達が驚き、静まり返った。

「さ、さくら…?」

小狼もさくらの剣幕に唖然としている。

「あ、わ、私、こんなみんなの前で…あ、先生、すみません!」

さくらは真っ赤になって、あわてて顧問に頭を下げる。これでは先生の演奏を貶めるような物言いではないか…と急に気になったのだ。

「あら、あら。こちらがお願いしているのよ、気をつかわないで。あなた達、本当に優しい心根をもっているのね。

じゃ、李君。彼女、木之本さくらさんね、木之本さんもこう言ってくれているのだから、引き受けてくれるわね。」

小狼は、さくらを、もう一度見つめた、何かを確かめるように。

さくらも小狼をしっかりと見つめている。小狼の膝に置かれた手が強く握り込まれていた。

「…はい。お引き受けします。」

周りの生徒達が、またにぎやかに、口々によかったと声をかけあっている。山崎がまた小狼の背中をぽんぽんと叩いている。山崎を見上げる小狼の顔は、笑顔になっていた。

―――よかった。

さくらはそんな小狼を誇らしげに見つめた。

(2018/5/5)

 

またまたあとがきのような補足というか言い訳といいますか。

文中、ギャラリーの描写がありますが、こちらは、「さくら」のCD「友枝小学校コーラス部クリスマスコンサート」のジャケットイラストからの発想です。音楽室らしい背景の中、コーラス部顧問の辻谷先生の指揮のもと、知世達コーラス部員が練習をしているらしい様子を、さくら、千春、利佳が音楽室内に座りこみ、他四人の生徒達が入口に立って見学しているのです。そこに頬を赤く染めた李君がコートを羽織りランドセルを背負って通り過ぎざまにそっと、中をうかがう様子が描かれています。

一緒に見学はしないのに、赤くなって中をうかがう小狼君。

この頃(1999年12月1日友枝小学校体育館にて録音、とプログラム[CDジャケット]に記載あり)は、さくらカード編の中盤の終わりごろ、終盤に向け物語が盛り上がる直前あたりというか、話数的には第61話さくらとカードとプレゼントよりは前の頃、もしかしたら苺鈴が来た第60話頃ということになります。二人の距離感がとてももどかしく、きっと共にあるはずの未来を想像してわくわくして物語を追っていた頃です。

 

今回は、小狼君自身が演奏する側になってもらいました。

劇中、常に大切に描かれている音楽の素晴らしさも、「さくら」の大きな大きな魅力です。