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そぴあのブログ

今はカードキャプターさくらにハマり中です。
もちろんケヴィン・レイノルズ選手とニコライ・ホジャイノフ氏が好きです。
レイノルズ選手は引退されましたが、ホジャイノフ氏についての考察や感想も続けます。

ちょっとでも、面白いと思っていただければ幸いです。

もちろん、原作者様や、公式アニメ制作者様とは何の関係もないです。

続きです。

 

『転校生』

 

「あ、丸田先生。東枝中学校の城田先生から、明日のことでと先ほど電話がありましたよ。」

「教頭先生、ありがとうございます。」

コーラス部の顧問の丸田は、電話機のある机に向かった。教頭がにこやかに声をかけた。

「いよいよ明日ですね。今年は一年生に、とても有望な子がいるとか。楽しみにしておりますよ。」

「はい、ありがとうございます。それに部員の子だけじゃなくて、今日はすごい子を見つけてびっくりしているんです。」

「すごい子?ですか?」

教頭は、何の話だろうと訝しげな顔を向けた。

「ええ、ピアノの演奏でなんですけど。」

「合唱でなく、ピアノですか? あ、伴奏者ですね。」

「私自身も今日初めて聴いて…あんな力量を持った子がいたのに知らなかったなんて。音楽の授業中もまったく気付きませんでした。」

「ほう、そうですか。ますます今年のコーラス部楽しみですね。」

丸田はここで少し眉を寄せた。

「それが…今後も伴奏者として、コーラス部に入部してほしいと勧めたのですけど。入部しないと、断られてしまいまして…。」

「既に他の部に入っているのではありませんか?」

近くの席にいた、体育教師の林が話の中に入ってきた。

「いえ、彼はどこにも入っていないそうです。」

丸田はいかにも残念そうに答えた。

「ほお、それはもったいない。」

丸田のため息をつきそうな返答に興味をそそられたのか、温厚そうな数学教師の宮古も話の輪の中に入ってきた。

友枝中学校は部活が盛んだ。しかもコーラス部や、演劇部のような文化系クラブは、多くのコンクールで常に上位に入っていた。スポーツ系のクラブも、何度か全国大会に出場するほどだ。学校としても充実した中学生活のために、部活動を推奨している。

「もったいない、ですか。そう言えば私も、もったいないと思っている1年の生徒がいまして。」

と林が、なかば嘆くように続けた。

「いやあ、とにかく、何をやらせても、一流なんですけど、特に、サッカーのシュート力と形勢判断がすばらしくてサッカー部への入部をすすめたんですが、断られました。他に誘われているのかと思ったのですが、やはりどこにも入る気はないのだとか。彼を主軸にチームを編成すれば、全国も夢じゃないと思ったのですが。最近の子は冷めているんでしょうかね。」

と体育教師は心底残念そうに付け加えた。彼はサッカー部の顧問であった。

すると、数学の宮古も同じように続けた。

「私は、部活ではないんですがね。今年も、ジュニア数学オリンピックに応募する候補者を募っているところで、まあ、例年は主に二年生から候補者をさがしていたんですがね。今年は一年生ながらとても優秀な子がいまして、応募をすすめているんですが、辞退すると言うんですよ。惜しいなと思いましてね。」

「ああ、数学オリンピック、そういえば今年の卒業生に、本選に進んだ子がいましたね、本選の結果は残念でしたが。まあ、一年でしたら、まだ時間もありますし、根気よく勧めて見ましょう。受験勉強に終わらない、数学の本当の楽しさを知ってもらうよい機会です。」

教頭がやや誇らしげにまわりの先生を見まわして言った。

コーラス部顧問の丸田が、うなずく。

「みんな、いろんな経験を積んで、充実した中学校生活を送ってもらいたいですよね…。本当、せっかく日本に来てくれたんですから、是非部活に参加して楽しい中学校生活を送ってほしいものですわ。何だか彼の演奏は凄すぎて哀しくなるくらいと言うか、孤立しているわけではないのに孤独を感じさせるというか…。だから李君には部活のような場でみんなと一緒に楽しむことを経験してもらいたいと思っています。」

「え?李?」

と体育の林と、数学の宮古がほぼ同時に反応した。

「あの、件の生徒とは、一年3組の李小狼ですか?香港からの転校生の?」

「え、ええ。そうですが?」

丸田は何のことかと尋ねるように返答する。

「私が数学オリンピックをすすめているのが李小狼です。」

と数学の宮古。

「私がサッカー部に勧誘しているのも李です。」

体育の林も頭をふりふり続けた。

「…まあ。」

丸田は驚いた。数学はともかくスポーツも得意なのかと。

「李君は授業中も、とても真面目な優等生ですが、もしかしたら中学数学、少なくとも現在の一年の課程はもう既に勉強してしまっているのかも知れないという気がするんです。香港には飛び級制度があるようですし。先日の中間考査、もちろん李は満点でした。」

数学教師が少しさびしそうに言った。小狼の授業中の態度は、真摯ではあれど、なにか熱心ではないのだ。どこか達観しているというべきなのか、これほどの才能を見せながら、彼は自分の能力に無関心なのだろうかと、残念な気持ちを抱いていたからである。

体育の教師も、思い出すように窓の外の校庭を見て言った。

「体育の授業中での李の身体能力もずば抜けています。

もちろん、ほかにも一年でいうと、2組の女子の木之本や、詩之本、三原あたりが素晴らしいですし、同じ3組の男子の山崎も、相当です。

中でも木之本などは、天才といったらいいのでしょうか、驚くべき才能です。

ですが、総合的に見るとやはり李が身体的にも、競技中の判断力に置いても突出したものを持っている。彼の場合は才能というよりもむしろ努力でしょう。

というのは、とても鍛えられていると感じるんです。恐らく小さな頃から、何らかの、それもかなり高度で専門的な訓練を、精神的にも、身体的にも積んできているのではないかと思います。」

口惜しそうに言う林は、どうやらサッカー部への勧誘をあきらめた訳では無いようだった。

「ほう…そんなに。」

教頭をはじめ、まわりの教師たちも感嘆の声をあげた。いつの間にか、職員室にいた教師が皆集まってきて話を聞いている。

他の一年担当の他の教科の教師達も、中間テストでの自分の担当教科の上位の得点者が、李小狼であることを、報告しだした。

「英語は満点が数人いましたが、もちろんその内の一人です。まあ香港出身であることを考えれば不思議ではないですが。2組の転校生の詩之本も似たような境遇でやはり優秀ですが、李とは随分印象が違います。李は授業中は本当に静かで、指名しない限り黙って聞いているだけです。彼にとって英語は、母語といって差し支えないくらいなんでしょうね。時々教科書すら開いていないことがあるので、抜き打ちに指名してみたところ、スラスラと答えて、その様子も真面目そのもので。教科書の英文は全て暗記できているようでした。」

少し考え込むように英語教師が言った。数学教師が、同意するように頷いている。

2組の担任で国語担当の守田にとっても、小狼は印象深い生徒らしい。

「国語でも、李君は、優秀です。外国人と思えないくらい。友枝小学校で四年生から五年生にかけて二年弱在籍していたようですが、日本滞在はその時だけらしいですのに、李君、古文でわずかに点数を落としただけで、漢文はもちろんでしょうけど、現国も満点でした。マイク先生のお話しに出ていた同じ転校生の詩之本さんも本当に素晴らしくて、現国がよくできていましたが、彼女は古典については苦労していますし…そして彼女は明るくて無邪気ですが、でも李君は…。私も李君にはどこか特別な印象を抱いています。」

「と、いうと、守田先生、李は、暗いということですか?」

教頭が、やや意外そうな困惑した面持ちで守田を見た。生徒を暗いなどと評するのは教師としてあまりほめられたものではないということだろう。

「あ、いえ、李君が暗いというのでなく…深いというか、ちょっと大人びているというか。漢文の授業中にせっかくだからと、李白と杜甫の漢詩を中国語、それも広東語でなく北京語で、詠んでもらって、解釈もしてもらったんです。それで李白と杜甫が親友であったとの説明の際に、つい李君に、李白と杜甫の関係性をどう思うか聞いてみたんです。友情とかそんな返答を期待して。

そしたら李君、杜甫にとっての李白は、絶対にかなわないものを持っている、強烈な光と熱と引力を持つ太陽のような存在だと例えました。

どういうことか重ねて聞いてみたんです。

李白はある種人間離れした世界を詠いあげ、詩仙とよばれ、その詩の題材とする分野の広さ、視点の新しさでも先人を凌駕する、天才と呼ぶにふさわしい李白ですが、その李白があまり見ようとしていなかった世界が、光の陰の部分である人間そのものの愛や哀しみ、愁いの世界だというわけです。太陽たる李白は、むしろそうした陰の部分から脱することを理想として人生を詠った。

そして一方の杜甫は詩聖と称され、その詩の技術は完璧ともいわれていますが「一生愁う」詩人と評されている通り、人生に対し常に誠実であろうとした詩人です。杜甫は、李白が抜け出そうとした陰から目を離すことができなかった。もちろん単なる反発ではなく、光と陰が、そのある場所を違えるように、見つめる先が違っていたのであり、杜甫はそのことを誰より深く自覚していたはずだと。だから杜甫は、李白に尊敬や憧れを抱きながら、太陽に近づいたイカルスの運命をたどることを恐れ、陰を、人の哀しみを見つめる詩作を貫き、最大限の努力を続けたのではないかと。李君は杜甫に深い共感を覚えているようでした。香港出身だから、日本の中学生よりも詳しいのかとも思ったんですが。杜甫の思いをこんな風に論評されるとは予想していなかったので…。」

「あの、その内容は、中学の漢文レベルを超えているような…。他の生徒は理解していたのでしょうか?」

と教頭は驚いて言った。教頭もかつての専門は国語教科であり、漢詩は好きな分野である。李杜の詩をそこまでの気持ちで味わったことがあったろうかと、感心したのである。

「そうですね、柳沢さんなどは、ひどく感心して、李君の解釈に共感していましたし、他の生徒も、充分に理解できなくとも、漢詩も血の通った人間の作品の一つと身近に感じてくれたようでしたよ。良い授業になったと思います。」

「それこそ、理想の授業の有り方ですね。」

教頭は胸をなでおろした。

今度は社会科教師が発言した。

「これは、守田先生に是非、社会の授業の李を見てもらいですね。きっと違った印象を持たれますよ。とても優秀な中学生という感じだけで、それ以上に特に心配なことはないですから。テストも無論満点でした。彼は歴史や地理がとても好きなんだと思いますよ。眼がきらきらして楽しそうに授業を聞いています。あんなふうに一所懸命聞いてくれると何か教師名利につきるというか。」

社会科教師はうれしそうに言った。

「ああ、理科の授業中の李君も、熱心に聞いているし、やはり楽しそうですよ。理科も満点でしたね。」

理科の教師もにこにことしていた。どうやら小狼は、両教師達に好かれているようだ。

教師達の話を聞きながら丸田は、今日の小狼の演奏を思い出していた。彼のピアノは、上手と簡単に言いきれるような演奏ではないと感じていた。彼には何かあるのではないか、普通の生徒には無い、重い何かを抱えているのではないか。そう考えずにはいられない、そんな凄みを感じる演奏だった。まだたった12歳の少年のはずなのに。だからこそ。

「丸田先生、彼はまだ中学生でしょう。もちろん優秀ではありますが。」

教頭が声をかけた。

「そうですよ、丸田先生。5教科ほとんどが満点やそれに近い生徒は他にも数名いましたし。あ、ほら、私のクラスのコーラス部の、大道寺さんとか、詩之本さんとかも。3組の山崎君も確かそうでしょう? だから李君は、とても真面目で人一倍努力家な生徒なんですよ。」

守田が自分の発言のせいで、丸田を落ち込ませたのではないかと、やや焦りながら、なぐさめるように話しかけた。

教頭も続ける。

「まったくその通りです。素晴らしい生徒じゃありませんか。是非、部活にも参加して、他の生徒達の模範となってもらいたいですね。」

「…ええ、そうですね。私、何を深刻に考え込んでしまっていたのかしら。あの子のコーラス部への勧誘、あきらめませんわ。」

丸田は本当にそのつもりだった。彼を手放してはいけない…そんな気持ちになっていたのだ。

「おっと丸田先生。私はサッカー部に来てもらうつもりですからね。」

教師達は自分の顧問のクラブに何とか勧誘しようと考えながら、和やかに談笑し出し、やがて、話題は7月の学校行事に移っていった。

丸田は、そうそう、と東枝中学校に電話を掛ける。

―――何はともあれ、本当に明日が楽しみだわ。

(2018/5/5)

 

先生方の目から見て、小狼君達ってどう映っているのかなあと思ったのがきっかけです。特に小狼君のあの身体能力、精神力、何も気づかないわけないんじゃないかと。それとも「さくら」の世界にはこんな天才ばっかりごろごろいたりして…?