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そぴあのブログ

今はカードキャプターさくらにハマり中です。
もちろんケヴィン・レイノルズ選手とニコライ・ホジャイノフ氏が好きです。
レイノルズ選手は引退されましたが、ホジャイノフ氏についての考察や感想も続けます。

もちろん、原作者様や、公式アニメ制作者様とは何の関係もないです。

続きです。

 

『発表会の日』

 

普段の登校時間よりは少しだけ遅い朝8:30時の集合に余裕で間に合うように小狼はマンションを出た。制服姿ではあるが、手には、いつもの通学かばんではなく、大き目のカバンを抱えている。

ペンギン公園の手前で、足を止めた。しばらくすると、知世が現れ、次いで秋穂が走ってきた。二人とも同じく手には大き目のバッグがある。今日の舞台衣装が入っているようだった。最後にさくらが駆け寄って来た。

「小狼君、知世ちゃん、秋穂ちゃん、おはよう!ごめんね、待たせて。」

「おはようございます。さくらちゃん。時間ぴったりですわ。さあ、参りましょう。」

準備のために、集合が早かった知世達に合わせて、さくらも一緒に行くことになったのである。さくらはそっと小狼の横顔を見た。

―――大丈夫。小狼君、顔色悪くない。

「さくら、どうかしたのか?」

小狼がさくらの方を向いた。

「あ、あの、あの、えっと、夕べよく眠れた?」

「ああ、心配させたかな、すまない。昨夜はちゃんと早めに寝た。でも譜面の見直しもちゃんとできているから。」

「よかった。」

さくらはほっとした。小狼は今日、何も無理していない、そう安心できる笑顔だったから。

「李君、伴奏引き受けてくださって、本当にありがとうございます。丸田先生も、指揮に専念できると喜んでいらっしゃいました。今日はよろしくお願いします。」

「ああ、よろしく。」

知世と秋穂も充実した笑顔をみせるのであった。

 

 

「ほえー、小狼君、ほんとにすっごくかっこいい…。」

舞台横の控室から小狼を見送った後も、さくらは頬をそめて遠巻きに小狼を見ていた。スタンバイするコーラス部のメンバーは、全員お揃いの、グレーを基調とした、かわいいボレロスーツ風の衣装であったが、小狼は衣装が間に合わなかったからか、伴奏者だからなのか、一人黒っぽい3ピースのスーツに、濃い緑のリボンタイを締めていた。香港を出国する前に、成長期だというのにオーダーメードで仕立てたそのシャツとスーツは、当然小狼の均整のとれた体格にぴたりと合っており、小狼を大人びて見せる。

その小狼は、コーラス部の3年生らしい背の高い女生徒と打ち合わせをしていた。プログラムを手に持って、出番の確認をしているようだった。東枝中学と友枝中の出番は均等に交互に組まれている。

知世と秋穂に笑顔で手を振ると、さくらは、千春たちいつものメンバーが待つ客席に戻った。

舞台上のピアノを見つめる。講堂は満席で後ろの方で立ち見をするものまで出ていた。知世達と一緒に登校したさくら達は、もちろん最前列に陣取っている。桃矢と雪兎は、やや後方の席に、そして、講堂のそこかしこに、さくらも何度か会ったことのある黒服サングラスの若い女性たちが、大きなカメラを持ってスタンバイしていた。

 

やがて、友枝中のコーラス部員たちが舞台に姿を現す。列の最後に舞台に出てきた小狼が、上着のボタンをはずし、さっとピアノの前に座った。

紺色のワンピース姿の顧問の丸田が、指揮棒を手に舞台袖から中央に進む。観客席に向かって一礼すると、タクトをさっと振りあげた。

小狼のピアノが講堂内に響きわたる。細くきらきらと透き通るような音が、どこまでも響いていく。ピアノの響きに誘われるように合唱が重なる。

―――ほんとにきれい…キラキラと光っている音が見えるみたい…。

折からの初夏の朝の、窓から入るまばゆい光のせいなのか、ピアノと、部員たちの、揃った合唱によるものなのか。

さくらには区別がつかない。

 

 

 

友枝中のコーラス部があらためて舞台上に整列した。プログラムも終盤にさしかかってきた。

知世と秋穂が数歩前に出る。

いよいよ練習で何度も聴いた知世と秋穂の二重唱での『そらは見ている』が始まった。

―――あんなに繰り返し聴いていたはずなのに、今初めて聴くみたい…。

 

さくらは飛翔の魔法で飛んでいる時に見える景色が眼前に繰り広げられているような気がした。遠くにかすむビルの影、眼下の友枝町の街並み。

小狼は、間をおかずに『おぼろ月夜』の前奏を始めた。鈴を鳴らすように静かな分散和音が響く。

それは月峰神社の占いの池に映る月影、ほのかに光るいつかのグロウの光――

次いで黄金色に輝くような二重唱が、講堂の空気をふるわせる。

陽が沈み、薄暗がりがあたりをつつむころ、菜の花畑を残照が照らし、花色を暗がりから最後に浮かび上がらせる。淡い優しい月の光――

―――そうだ、月の優しい光…この光は、小狼君の眼差し。いつも、いつも私を包んで守ってくれる優しい光…。そして小狼君の魔法の光。

二重唱が終わり、ピアノの音のみがまた講堂に響く。水面に舞い落ちた木の葉が波紋を描くように、静かに、低音域から高音域に流れるパッセージ。草の葉影から夜露が落ちるように最後の音が終わった。

 

静まりかえっていた場内から、大きな拍手が沸き起こる。

拍手の音に、さくらは我に返った。そして次の瞬間には立ち上がって拍手していた。

周り皆がいつの間にか同じように立ち上がって拍手している。

「すごかったね…よかったね。さくらちゃん。」

千春と菜緒子がさくらの方を見た。

「うん、うん、とっても、とっても素敵だった。…千春ちゃんも菜緒子ちゃんも目がうるうるしているよ…。」

「さくらちゃんこそ、いっぱい泣いているじゃない。」

「あ、わたし…。」

さくらは泣いていた。

その頬は幾すじもの涙で濡れていた。そのまま顔を覆って泣き出すさくらに、千春がハンカチを差し出す。

「素敵だったね、よかったね…。」

さくらはただ頷いて泣いた。うれしいのか、悲しいのか、もうどちらでもよくなっていた。ただただ涙が出てとまらないのであった。

舞台上では、鳴り止まぬ拍手に知世と秋穂が優雅に何度もお辞儀していたが、やがてコーラス部の他のメンバーと一緒に舞台の左脇に整列した。

次の演目はプログラム最後の、友枝中と東枝中の、全員による合唱。

東枝中のコーラス部の全員も舞台右袖から入ってきた。

小狼はピアノの前に座ったままだ。

「もう、最後の曲だね。この曲も李君が伴奏するんだね。」

千春がさくらに耳打ちする。

「李君、よく昨日の今日で、間に合わせたよね。去年のなでしこ祭の劇でも、李君、1日で、全部覚えたもんね。さすがだよー。」

菜緒子が素直に感心している。さくらはただただ、憑かれたように小狼を見ていた。

全員合唱の曲は、恐らく聴衆も一緒に歌えるようにという配慮からだろうか。誰もが知.っている童謡のフレーズが流れてきた。

今の季節に合わせたのだろう、初夏を歌う『夏は来ぬ』。

客席からも舞台からも。主旋律を聴衆側が、外声部をコーラス部員が受け持ち、即席ながら見事な重唱を作り出す。

曲が終わったかと思うと続けて小狼は、『ちいさい秋みつけた』の前奏を弾き始めた。メドレーに仕立てているのだ。 郷愁を誘う、どこか哀しい歌詞と旋律。

次いで『冬景色』。夏、秋、冬の順で演奏されたその次は、春。『さくら』だ。

舞い散る花びらのような高音からのグリッサンドで始まった前奏部分。箏の音を思わせる編曲になっている。歌詞に不安のない聴衆が多かったのだろう。一層大きく歌声が講堂に響き渡った。

後奏部に、見事な多声のハミングと、高音部でのトレモロが縫うように現れ、ハーモニーが次第に弱くなっていく。

最後にピアノがやわらかく静かに分散和音を奏で、曲を閉じた。

再び、講堂内は、大きな拍手と歓声に包まれた。

最前列のさくら達はまたもや、立ちあがって、飛び跳ねんばかりに拍手を送り、知世や秋穂に向かって手を振っている。

さくらは、ピアノの影にわずかに見える小狼をじっと見つめながら、拍手する。

―――よかった、本当によかった…。

と、その時だった。突然、さくらの耳に、ピアノの音でもなく、合唱でもない照明のスイッチを切るような音がカチリと聞こえた。

窓から明るい光が差し込んでいたはずの講堂内が、暗転する。急な暗がりに、聴衆も驚き、拍手が弱まり、ざわめきが起こる。照明が落ちた程度ではない暗がりに皆が異変を感じたのだ。

―――この、気配!それにみんな感じている?! どうしよう?!

さくらが、カードのせいと気づいたその瞬間、全てが停止した。

音が聞こえず、誰も動かない。時間が止まっている。

小狼が咄嗟に魔法を使ったのだ。小狼は一跳びに舞台から、さくらの元に駆け寄る。手には宝剣を携えている。

「小狼君、大丈夫?」

以前のことがある。鍵の封印を解きながら、小狼を案じるさくら。

「ああ。もうしばらくはな。それより、この状況、似ていないか?あの時と。」

「うん。ライトとダークを封印した時のことだよね。あの時、ライトが私の中にいてくれたおかげで、封印できたんだけど…。」

前回カードの影響下に捕らわれたのは、さくらをはじめ、魔力のあるものだけだったが、今はこの場の全員が気付いている。今度のこの闇も、自分の中の光がきっかけになるのだろうか。

「お前の中には、どんな時も失われない光がある。星の光が。それは今もだ。だから自分を信じろ。」

小狼が力強く頷く。

「暗闇…そして私の中の光…。」

さくらは、自らの心に問う。

―――私の中に光があるのなら、この場を照らして。

早くしないと小狼にまた大きな負担と犠牲を強いてしまう。ふと小狼を見つめてさくらは気づいた。小狼の放つ光に、やさしい月の輝きに。

―――私だけじゃない。小狼君も輝いているよ!

『―――固着!』

さくらの封印の言葉とともに、2枚のカードが杖の先に現れた。

1枚はあたりを包む闇から、もう1枚は、さくらとそして小狼の中の光から。

『Dawn・曙光』と『Night・夜陰』の2枚だった。

「魔法を解くぞ。早く杖をしまうんだ。」

小狼は急いで舞台に戻り、さくらが杖を鍵に戻すのを確かめると、剣をしまい術を解いた。講堂はもとの明るさを取り戻し、ざわめいた人々も一瞬のことだったからか、何事もなかったように拍手と歓声を続けた。

「よかったねえ、さくらちゃん!知世ちゃんも秋穂ちゃんも李君も。」

千春、菜緒子、山崎が声をかけてくれる。

聴衆がアンコールを要求している。拍手が手拍子になっていた。

舞台に目をやったさくらは、あれと気づいた。いつの間にかピアノの前にいたはずの小狼が姿を消している。

「ごめん、私、ちょっと…。」

「え、さくらちゃん?」

盛大な拍手が続く講堂を出て、さくらは裏口にまわり、舞台裏の控室に向かった。

「小狼君、大丈夫?」

小狼はペットボトルの水を飲みながら、壁にもたれかかっていた。やはり顔色が悪い。

奥から舞台の喧騒が聞こえる。アンコール曲がはじまっていた。

「ああ、何とかな。…アンコール曲は先生に頼んだが。」

「どこかせめて座れるところ…。」

「いや、いいんだ。俺はこのまま帰らせてもらうよ。」

「じゃ、じゃあ、送らせて。」

「何を言っているんだ。ここで大道寺達を待っていてやれ。さくらがいなかったら、特に大道寺はがっかりするだろ? 俺はなんともない。」

「え、だって、小狼君。」

「今日は止めた時間もわずかだ。確かに疲れはしたが、帰って休めば大丈夫だ。大道寺達が今日のためにどれほど一所懸命だったか、さくらが一番わかっているだろう。」

「そうだけど…。」

それなら、小狼こそ、知世達を待っててあげるべきだと、さくらは言おうとしたが、何故かその言葉に戸惑いを覚え、続けられなかった。

「山崎達とも一緒に来ているんだろ? よろしく言っておいてくれ。」

さくらの肩にぽんぽんと手をおいて、小狼は大きめのバッグを肩にかけると、控室の扉を開けた。バッグに朝着ていた制服が入っているのだろう。

ふと小狼が振り返った。

「さくら、今度は俺のピアノを、さくらが聴いてくれるんだろ?楽しみにしていてくれ。」

「え?う、うん!ほんとに楽しみにしているから。早くいいところ見つけてね!」

さくらも小狼に手を振る。

「ああ。それじゃあ。」

小狼のこの上なく優しい笑顔がさくらにだけ向けられている。思わずその顔に見とれていると、扉がぱたんと閉まって小狼は帰ってしまった。

 

アンコールが終わったのか、再び講堂からおおきな拍手と歓声が聞こえる。

部員達が控室に戻ってきた。知世と秋穂がさくらに駆け寄ってくる。さくらも笑顔で二人を迎えた。

(2018/5/12)

 

妄想大爆発、勝手にカード封印してもらいました。

それにしても、第6話の小狼君、初見でいきなりあんなに伴奏できるって、「大した腕じゃない」どころじゃない気がするんですが…。

でもって、彼氏があんなにピアノ弾いているのに、演奏中は歌手しか見てないなんて、博愛主義もここまでくるとすごいなあとちょっと寂しく思いましたので、演奏中の小狼君に見惚れるさくらちゃんの巻です。