そぴあのブログ -12ページ目

そぴあのブログ

今はカードキャプターさくらにハマり中です。
もちろんケヴィン・レイノルズ選手とニコライ・ホジャイノフ氏が好きです。
レイノルズ選手は引退されましたが、ホジャイノフ氏についての考察や感想も続けます。

再び扉を叩く音がして、ヴァレリーが医師の到着を告げました。そして小声で付け加えました。
「先ほどは、フランツ様の来訪に気付かず、申し訳ございません。フランツ様は本当に、お一人でお見えになったようです。馬車も呼ばず、近いのだからと歩いて帰られました。すべての通用門、玄関に、人を配置していたのですが、裏口にいたものが、昔馴染みの園丁だったため、伯父上ということで安心して通してしまったようです。例外はないのだと言い含めました。」
「そうでしたか。ありがとうございます。あの様子を見れば仕方ないでしょう。その方を叱らないでやってください。」
けびんを襲った張本人こそがフランツであることは、カザルスにしか伝えていませんでしたが、一昨日のことがあったため、ヴァレリーはフランツのことを快くは思っていない様子でした。もしかすると、ヴァレリーなりにフランツに疑いをかけているのかも知れません。しかしヴァレリーは、家令として職務に忠実でしたし、けびんの幼少時代の話以外は、とても口の堅い人物のようでしたので、にこらいは、これ以上何も言いませんでした。

「けびん様はまたもお休み中ですな。今は包帯もこのままでよいでしょう。」
診察を終えて、医師グスタフは、何故か少し残念そうに言いました。どうやら、昨夜から、眠っているけびんにしか会っていないことが心残りのようです。とはいえ、経過は順調ということでした。この後、祭礼のため、医師として廟に詰めていなければならないと、聞いて、にこらいは、アレクサンドラにけびんの様子を伝えてもらいたいと、頼みました。
「アレクサンドラ殿へは、けびんに関すること、知っておられる内容全てお知らせしてくださって結構です。何も隠す必要はありません。…きっとご心配されていることでしょうから。」
医師は快くうなずくと、明日来ますと、廟に向かいました。


暗い森の道を、屋敷に向かって進んでいた子どもたちの先頭を歩いていたルディは、遠くに小さな灯りを見つけて立ち止まりました。長老屋敷の方角から、一人歩いてくるものがあります。皆息をひそめて道端の茂みに移動しました。
「なんで隠れるのよ。」キティが不服そうに聞きました。
「いや、まあ、なんとなく…」とエドモンドが答えましたが、ルディは、しぃっと、静かにするように合図しました。
金糸銀糸を織り込んだ、豪奢な上着が、灯りに浮かび上がりました。フランツが一人で歩いています。普段の尊大な様子がうかがえません。どこか頼りなげに、心細そうな様子です。フランツ自身の屋敷への分かれ道をそのまま屋敷の方向に向かいました。祭礼が行なわれている廟には向かわないようです。子ども達は息を殺して、じっとしていました。やがて灯りが見えなくなると、立ち上がりました。
「今のフランツ様、どういうことかしら。」
「長老屋敷の方向から来て、廟には向かわなかった。」
「供もなしに一人で歩いているなんて。フランツ様ともあろうお方が。」
「お屋敷からの帰りだろうか。けびん、大丈夫かな?」
「とにかく急ごう!」
「そうだよ、行こう!」
子ども達は暗い森の中を、再び駆けだしました。


眠り続けるけびんの傍らで、父への報告書をまとめ上げ、封緘を施すと、にこらいは窓を見ました。風をいれるために少し開いた窓から、すっかり日が落ちた中庭が見えます。少し強めの風が、薄い唐草文様が織り込まれたレース地のカーテンをはためかせました。にこらいは、窓をしめようとして、窓枠に手をかけたところで、ふと手を止めました。
「風…か。森に吹く風…けびんの…」
「にこらい。」
けびんの声に振り返ると、目を覚ましたけびんが、起き上がろうとしていました。
「けびん、まだ無理をするんじゃない。どうしたんだ?」
あわててにこらいは、けびんを制しました。
「ルディ達みんなが来た。今、玄関にいる。」
「ルディ達が?まだ祭礼の最中のはずだが…」
「きっと、抜け出してきたんだ。」
「どうしても、君に会いたいということか。仕方ないな、彼らも君のことが心配で祭礼どころではないということだね。僕から話をしてみよう。」
にこらいは、ヴァレリーを呼ぶと、彼にけびんを頼み、自らは玄関に向かいました。
はたして、十数人の子ども達が、ルディを中心に、真剣に玄関の番をしている二人に何事か訴えているところでした。そういえば、にこらいはごく普通の普段着で、病人には見えない服装でした。病気で外出できないというふれこみを、無視していたなと、苦笑したところで、キティがにこらいに、気付きました。
「にこらい様!お願いです。私達をけびんに会わせてください!」
見張り番をしていた召使いの二人も、助かったという表情でにこらいを見ました。ルディが、にこらいのもとに駆け寄り、膝を折って挨拶しました。
「にこらい様、このような夜分に、また大切な祭礼の最中にも関わらず、大勢で参上いたしましたこと、お許しください。けびんに関わることで、にこらい様に格別のお話しがございます。どうか私どもの話を聞いてくださいますよう、伏してお願いいたします。」
「ルディ、そんな堅苦しい、挨拶は無用だ。この前は、僕の頭をくしゃくしゃにしてくれたばかりじゃないか。君たちの話を聞こう。そうだな、ここでというわけにはいくまい。」
にこらいは、玄関番の二人に、見張りを続けてくれるように依頼すると、玄関に近い応接間に、子ども達とともに入りました。真ん中の円卓の椅子の一つに、にこらいが座り、向き合うようにルディが代表して座りました。周りを囲む様に子ども達が陣取ると、広いはずの部屋が、狭く見えます。
「ルディ、僕の様子を見ても何も驚かないんだね。病気でなかったのか、とか、君たち自身が感染する恐れであるとか。」
「もちろんです。僕たちの考えを申し上げます。けびんは病気ではありません。怪我を…たくさんの血が流れるような、大怪我をしたのではないですか。それも、この屋敷の玄関前で、昨夜、僕達とともに屋敷に帰ったそのすぐ後で。そして、けびんに怪我を負わせたのは、伯父様のフランツ様です。理由は候補問題のせいでしょう。しかし、フランツ様は、けびんの実の伯父様、長老様のご子息であり、もう一人の候補の父です。大切な精霊祭を無事にやり遂げなければならない今、よほどの確証でもない限り、事を公にするわけにいきません。ですから、今日の祭礼にけびんが出られない理由を、急病とし、真実が知られるおそれから見舞いも許さないように、感染症と偽っておられるのではないでしょうか。」
ルディはここまで、一気に語り終えると、じっとにこらいを見ました。
にこらいは、ルディの視線を受けて同じように見返しました。次いで、子ども達の一人一人を、確かめるように見回しました。そして、少しうつむき、軽く息をつくと、顔をあげました。
「森の子、ルディ殿。またルディ殿はじめ、けびんの親愛なる友にして、その最大の理解者であり、助力者たらんとするもの達よ。そなた達に永劫の幸いあれ。真実は既にそなた達の内にある。…その通りだ。」
「にこらい様…! 森の子我ら一同、我らの言葉を聞いていただき、真実の言葉を賜りましたこと、ここに深く感謝いたします。けびんは、やはり怪我を負っているのですね。どんな容体なのですか?会わせてはいただけないのでしょうか。」
「けびんは、相当な重症だ。今は自分で起き上がる事さえできない。ただ、容体は安定しており、順調に回復している。どうやらけびんの方も君たちに会いたいようだ。君たちの来訪を、けびんに教えられた。今から案内しよう。まったく、君たちには恐れ入ったよ。つくづく、けびんは、良き友に恵まれている。これほど簡単に見破られるとはね。まあ、我ながらお粗末な言い訳ではあったが。」
最後は笑みをまじえて、にこらいが答えました。
「会わせていただけるのですね! そうだ、にこらい様。先ほど、この屋敷に来る途中、実は、フランツ様をお見かけしました。たった一人で歩いておられました。こちらからの帰りと見えたのですが、まさかこちらにいらしていたのでしょうか?けびんは…?」
「君たちも、彼を見たのか。確かに彼は、驚くべきことに、けびんを見舞いに来たのだよ。彼はどんな様子だったろうか?」
「それが、なんだか、かわいそうな感じだったと言うか…。とても弱々しく歩いておられて。けびんのことで、私とても怒っていたのですけど、さっきの様子は、哀れと思わせるほどでした。」
キティが答えました。
「そうか…。先ほどの彼は、自分のしたことを後悔し、けびんに謝ろうとしているようだった。もしかすると、けびんの言う通り、彼は本当の悪意を抱いていたわけではなかったのだろうか。」
「けびんが?」
「襲われた直後に、けびんは、フランツ殿をかばっていた。フランツ殿が自分を襲わせたと知った上で。」
「そんな…!けびんは、伯父様からの仕打ちであると、それもわかっているのですか?その上で伯父様のことをかばったというの?何て、何てむごいこと…。」
キティは、顔をゆがめ、またも泣きだしそうな様子でした。ルディが、キティを慰めるように肩をぽんぽんと叩きました。にこらいはそんな二人の様子を満足そうに見て、立ち上がりました。
「けびんは、自室ではなく奥の客間にいる。君たちの来訪に気付いて先ほど目を覚ましたのだが。少し待っていてくれるだろうか。それと、このことを知っているのは、当然だが、我々以外では長老殿だけだ。家令殿を含めこの屋敷の誰も皆、まだ知らない。」


にこらいが、部屋に戻ると、けびんは大人しくベッドに横になったまま、にこらいを待っていました。
「ルディ達に来てもらうよ、いいかい?」
「うん!もちろん。やっぱりみんなに会いたいよ。ありがとう、にこらい。」
にこらいは、ヴァレリーに、玄関脇の応接間にいる子ども達全員を、この部屋に連れて来てもらうことと、先ほどまとめた報告書を天界に送るように頼みました。
ヴァレリーが、嬉しそうに張り切って部屋を出て行ったのを確かめると、にこらいは言いました。
「けびん、ルディ達は、君が何故、奉納舞を辞退したのか、誰の指図で怪我を負ったのかに気付いてしまった。だから、今ここに来た。もう、彼らには隠す必要はない。君が彼らに話したいと思ったことを、話してくれてかまわない。」
「やっぱりルディ達にわかってしまったんだね。あの時、来ていたものね。」
「それと、一つ付け加えておこう。フランツ殿が先ほど君の見舞いに来たよ。」
「うん。やっぱりそうだったんだね。伯父上…お元気がなかったんじゃない?今も伯父上の屋敷の庭に、お一人でおられるみたいだ。風が教えてくれた。」
「そうか…。でも、けびん。これだけは言っておく。君の伯父上は、罪を犯した。君にしたことを、僕は絶対に許さない。証拠さえあれば、君が何と言おうと、すぐに捕らえているところだ。君がまた、こんな目に遭うかも知れないんだ。たとえ今日のフランツ殿に元気がなく、反省の色が見えたとしても、だからもうこの後安全というわけではない。…結局、彼は、何も告白しなかった。闇の影響を受けているなら、なおさら、また何かしてくるかも知れない。フランツ殿は、心の弱い方なのだろう?」
にこらいは、強い調子で、やや、興奮気味に一気に語りました。先ほど対峙した際の怒りを、まだ抑え切れていないかのようでした。言い終わって、息をつくと、もう、けびんの方を見ようともせずに、疲れたように、椅子に座り込みました。ふと疎外感を感じて、けびんは不安になりました。にこらいは、顔を手で覆ったまま、うつむいています。
「にこらい…? 僕、ちゃんとわかっているよ。顔をあげて。」
けびんは、そっとにこらいに話しかけました。しばらくの後、にこらいが、やっと顔を覆っていた手をおろしました。けれども、うつむいたままで、けびんを見ようともしません。
「にこらい、心配ばかりさせて、ごめんなさい。でも、僕はにこらいのおかげで大丈夫だったよ。だから、どうか、顔をあげて、僕を見て。」
「…違うんだ。…すまない。僕としたことが…いや、何でもない。違うんだ。」
こんなに力なくうなだれ、言い淀むにこらいは、初めてです。一体どうしたというのでしょう。けびんはとても心配になりました。

(つづく・・・)
この物語は、作者の想像による創作物です。実在の人物とは、一切関係はございません。