朝5時に起きて、母親のお弁当を作る。小学校の先生をしている母親、受け持っている6年生と、遠足なのだそうだ。芋ご飯、ネギ入り厚焼き卵、ほうれん草のごま和え、豚肉の中華風炒め、焼きシャケに、デザートは、長野の蜜入り林檎と新高梨と少量のお菓子。いつもよりも少し濃く入れた緑茶を、魔法瓶にうつす。ついでに私の分も作る。母親はわっぱのお弁当、私のはステンレス製の二段重ねのお弁当。いってきます、と出て行った母親、今日は遠足以外にもっと大事なメインイベントがあるので、与力を残しておかねばならない。家に誰もいなくなって、急に何ともいえない感情が押し寄せる。吐きそうでこみ上げてくる具合の悪さをカバーしながら、無心で布にアイロンがけ。お昼を軽く回っていたので、お弁当を持って私は近足。家から徒歩3分の神社へ。境内からさらに階段を登る。少し汗ばみながら、15分ほど登ると、一面に芝生が広がっている場所にたどり着く。小高い山の上で、私が住んでいる街がほぼ全部見える。特にこれといって良い景色ではない。通っていた小学校や中学校も見える。そびえ立つ記念碑の横のベンチに腰を下ろし、お弁当を広げる。ふたを取った時の色どり、味付け、我ながらよくできたものだ。しばらくぼうっとして、階段を下る。一人の時間はやっぱり好きだ。大きな鳥居をくぐると、ふいに声を掛けられた。神社の横の、市立美術館の館長さん。弟の中学、高校の美術の先生だった人で、50代で先生を突然辞め、大学院に行き直し、一から芸術の勉強をし直したらしい。優しい笑顔の館長さんと、今日は美術館は搬入ですか、そうです明日から別の企画展がはじまるからね、などとといったあたりさわりのない日常会話を交わし、帰宅。また布にアイロンがけ。そして端の処理。気がつけば3時を回っている。急いでシャワーを浴び、着替える。そして車に、十七弦の琴と三味線、着物と着付けに必要な荷物を積む。3時半に母親が遠足を終え帰って来る。母親がシャワーを浴びている間、コーヒーをたてる。コーヒーを飲みながら、2人で少し話をして、車に乗り込み家を出る。県立美術館ホールへ。車の中で、母親爆睡。ホールに着くと裏の搬入口へ。荷物を運ぶ。リハーサルに遅れているのに、ケロッとしている母親。肝すわっているなあ。がんばって、と一言。市内で用事を済ます。気がつけば6時。開場の時間だ。ホールに戻る。入口で祖母を待つ。母親が習っている琴の先生とお弟子さん、中国の二胡演奏者のコンサート。母親も弾く。幕開け。二胡の音色の優しさにうっとり、寝てしまいそうだった。60代後半の琴の先生は、気迫がすごく、きれいな人だった。滲み出るオーラが違う。そんなことを目の当たりにしながら、プロとアマの違いは意識的な問題か、などと考えていたら演奏終了。ホールを出て搬入口へ。荷物を車に積み込む。母親は打ち上げへ。私は荷物を積んで帰宅。少し遅めの夕食をとる。とたんにまた吐き気が押し寄せる。色んな記憶が頭をよぎる。小学校6年生の時からの持病。誰にでもあるだろう心に秘めた持病、当時の私にしてはとても深刻なものだった。それが原因でいじめられた事もあるし、死んでしまいたいって思った事もあったけど、やっぱり生きてて良かったな。私をいじめた奴ら、ありがとう、あんたらの事本当に大嫌いだった。少しだけど協力してくれた家族や、かばってくれた友人、それに本気で私を好きになってくれた人、ありがとう。感謝します。何故なのか、コンサートの後も、ずっとずっと吐き気と共にこのことが頭をよぎる。疲れた。深夜1時、打ち上げが終わった母親を車で迎えに行く。今日は本当にお疲れ様でした。ゆっくりとコンサートの事を話する。ああ、私、なにやってるんやろ。でも、人の為に動くのって、悪くない。
