夕べの出来事。

用事を済まし、アトリエ時代お世話になった先生と、少しの間お話した後、込み入った繁華街の中にある一軒の喫茶店、セザンヌに一人で行く。

ここは深夜12時まで営業している。

もう軽く夜11時はまわっていたが、展覧会のDMを置かせてもらって、お気に入りのロイヤルミルクティーを一杯飲んで、ホッとしてから帰路につこうと思っていた。

この喫茶店は、40年ほど前から営業していて、見た目はぼろっちいが、中に入るととても落ち着いたいい雰囲気の、昔ながらの喫茶店だ。

コーヒーも紅茶も美味しいし、夜はBerになる。

働いている人は、私の知っているかぎり、奥さんと、S氏と、Sちゃんが、入れ替わりして、いつも美味しいコーヒーやお酒を作ってくれていた。

最後の一杯を、セザンヌで飲んで帰りたい、というお客さんは多く、大勢で飲んで帰りに立ち寄ったり、営業時間過ぎているのに作ってもらったり、このお店の人達と、お客さんは、とても近い、あったかい存在にいた。

奥さんは、オーナーで、気前が良く、安心感のある人。

S氏は、ヤセ型のヤサ男で、かなりこだわりをもってコーヒーを入れてくださる。

Sちゃんは、何も話さないでよい空気感がお似合いな人で、聞き上手で、ちょっとした仕草に色気のある人だった。おじ様にも人気で、Sちゃんが入ってないと行かない、なんてお客さんも沢山いた。でも、Sちゃんはこの夏に辞めてしまった。


夕べは、毎週木曜日に入ってたSちゃんの代わりに、見知らぬ女の子が一人、Berカウンターに入っていた。

店には、お客さんは私一人しかいない。

いつもなら、この時間帯は、最後に飲みに来た人達が結構いるのに、静かだな、と思いながらロイヤルミルクティーを頼む。

女の子は、エプロンもせず、パンキッシュな格好をしている。

セザンヌには違和感を感じる子だな、と思ったけど、次の瞬間、もっとおどろいた。

その子が運んできたロイヤルミルクティーが、焦げ茶色の濁った、タイのどぶ川のような飲み物だったからだ。

私は、自分がコーヒーを頼んでしまったのかな、と一瞬疑った。

確か、2週間前に来たとき奥さんが入れてくれたロイヤルミルクティーは、赤褐色気味のシナモン色でミルクが濃厚で、うっすら膜がはっている、とってもおいしい飲み物だったのに。

思わず、これ、ロイヤルミルクティーですか、と聞いてしまった。

女の子は、そうです、と言って、なんか文句あるんですか、という顔をしている。

今まで何回もロイヤルミルクティーを飲みましたが、ミルクが少なくないですか、と勇気を出して言ってみた。

女の子は、奥さんに、ミルクをいれすぎる、と、注意されたんで、と言い返してきた。

一回謝るとか、どうにかする素振りもなく、なんですか、と言わんばかりの顔で突っ立ている。

私の方が、お客さんなのに、とても居づらい感じになってきた。その女の子と話したことさえ後悔した。

一口だけ飲んでみた。

予想どおり、まずくて、出がらしのような渋い味がした。私の分析では、高温で濃く出し過ぎた紅茶に、後からミルクをちょっと足しただけのものだろう。


勿論、お金は支払って出たけど、DMも置かせていただいたけど、私はセザンヌが、そこで働いている人が好きだった分、悲しかった。一日の終わりがまずい飲み物を飲んで終わってしまうのが残念だった。

こんなことなら自動販売機で紅茶花伝のロイヤルミルクティーを買って飲んだ方がなんぼかマシだったな。


セザンヌは、お客さんの大切な思い出が詰まっていて、懐かしさや、人のあったかみを感じる喫茶店だった。

そこで働く人も、そうだったし、その人たちが、いるから、わざわざ顔を出すお客さんがいたのに。

夕べの女の子が入っている時は、誰もお客さんが入っていないはずだ。

常連さん達はきっと、入口で中を覗いて、あ、今日はS氏や奥さんじゃないから入るのやめとこ、ってなってるんだろうな。

私の判断ミスか。

でも、あんなひどいミルクティーを出す人はおらんと思う。


セザンヌやから、余計にショック。

根に持つ私は、さっそく、奥さんとS氏に、チクるもんね。