ゆるめるモ!「YOU ARE THE WORLD」アルバムレビュー | アイドルKSDDへの道(仮)

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心に茨を持つ山梨県民こと「やまなしくん」のブログ。基本UKロックが好きですが、最近はもっぱらオルタナティブなアイドルさん方を愛好しています。

「夢なんて ひとつもないよ 何が悪いの? 何が? 何が?」(「夢なんて」)

夢、あるいは将来の目標の持てと教師や親に、いやもっと言えば社会に言われ続けてきた十代の頃の僕は、その「夢」を持っていないことに悩み、ずっと劣等感を抱き続けてきた。ニューウェーブ・アイドルを標榜する ゆるめるモ!のこの曲は、だから、ここ最近で最も切実に僕の胸に響いた。この曲を十代のあの頃に聴きたかった。

そう、ゆるめるモ!は一貫して、現実とうまく折り合いをつけられない僕たちの心情に寄り添う歌を歌ってきた。世間が唱える「正しさ」への違和感を表明する、オルタナティブな姿勢を表現してきた。前作に収録された代表曲「逃げろ!」は、生きるために辛い現実から逃避することを肯定する歌だ。アイドル界で葛藤しながらも奮戦するメンバーたち、特にかつて重度のひきこもりだったというメンバー、あのちゃんの存在は、そんな楽曲にさらなる説得力を加えた。
…それらはまるで、「怖がっていたって構わない」「君(世界)が望むような自分になれたらいいのに」と歌った、2ndアルバム期のレディオヘッドのようだった。そうして ゆるめるモ!は、さらに僕にとって特別な存在になった。

収録された楽曲は非常に多彩で野心的だ。先鋭的なニューウェーブサウンドが激しい中毒性をもたらす「Hamidasumo!」、70年代プログレを電子音に置き換えたかのような「眠たいCITY vs 読書日記」、鮮烈なエレクトロニックサウンドがカッコ良すぎる「もっとも美しいもの」が特に聴きどころだが、他にもパンクロックとかシューゲイザーとかドリームポップとかヒップホップとか、そしてもちろん可愛らしいアイドルポップスとか…が目まぐるしく展開される。このアルバムはまさしくポップの狂想曲であり、その意味ではビートルズの『サージェント・ペパーズ』にさえ比肩しうるのではないかと思う。むろん、アイドルのアルバムでここまでの充実度と多様性が両立された作品を、僕は他に知らない。

POLYSICSのハヤシヒロユキ氏を筆頭とする作家陣の仕事ぶりは言うまでもなく素晴らしいが、ゆるめるモ!の楽曲を当初から担ってきた「ほぼ専属作詞家」小林愛氏の貢献は、やはり見逃せない。辛くても生きていくことを優しく肯定する歌詞は、このアイドルグループの根幹であり、唯一無二の魅力である。このアルバムを聴く者は誰もが、自分の背中を押してくれる言葉を見つけることができるはず。特に、辛かった過去の自分と、困難を乗り越えた未来の自分に優しく語りかける「私へ」の歌詞は、切ないメロディとあいまって、あまりに感動的だ。

最後の曲「only you」は、インディー・ギターロックとブラスアンサンブルを融合させるというハシダカズマ氏(箱庭の室内楽)の独創性がいかんなく発揮されたサウンドで、間奏でブチ込まれるギターノイズがカオティックで最高だったりするのだが、気づいただろうか、この曲は、そしてこのアルバムはまさに「あなただけ」に語りかけていることを。「You Are The World」…あなたが、世界。他の誰でもない、あなただけが、この世界で最も大切な存在であることを、ゆるめるモ!は訴えている。

このアルバムは、あなただけの、特別な贈り物だ。この贈り物が、より多くの「受け取るべき人」に届けられることを、僕は心の底から願っている。