CDレビュー:でんぱ組.inc 『W.W.D.D』 | アイドルKSDDへの道(仮)

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心に茨を持つ山梨県民こと「やまなしくん」のブログ。基本UKロックが好きですが、最近はもっぱらオルタナティブなアイドルさん方を愛好しています。

限られた命を燃やした大冒険


2014年、でんぱ組.incは積極的なメディア露出と様々な企業コラボによって、その知名度を一気に高め、アイドルグループとして確固たる地位を確立した。その最たるものは「カップヌードル」広告キャンペーンによるCM、楽曲、そしてライブツアーだった。「ファンシーほっぺウ・フ・フ」もチュッパチャップスとのコラボ曲だ。なお、アルバム未収録ではあるが、スマートフォン向けゲーム「ファントムオブキル」のテーマ曲(とても良い!)と宣伝活動も手がけていた。

 こうして振り返ると、実に商業主義的な印象を受けるかもしれない…が、でんぱ組.incというコンテンツの恐ろしさは、それらのコマーシャルにおいてもアイデンティティを失うことなく、一流クリエイターの手による高水準の楽曲とパフォーマンスを披露し、さらに(これが最も重要なポイントだが)それらの楽曲に感情を吹き込むことができたことだった。「ちゅるりちゅるりら」は鬼才ヒャダイン氏による楽曲だが、CM曲というクライアントの要望をクリアし、氏とグループの「らしさ」を全開にしているが、「ハングリーに勝ちにいけ!」との歌詞がリスナーへの声援であるとともに、(「マイナスからのスタート」を経て)芸能界で戦う自分自身への声援でもあった…ことは疑いがないだろう。

そんなふうに広く大衆に飛び込んでいった彼女たちであるが、清竜人が手がけた「Dear☆Stageへようこそ」とmosaic.wavが編曲した 「まもなく、でんぱ組.incが離陸致します」で自らのルーツである秋葉原とナードコアサウンドを示していることからも分かるように、でんぱ組.incは自らのアイデンティティを手放そうとはしない。前アルバム『W.W.D』で自らの「非リア充」を告白してアイドル界の常識を覆した彼女たちは、その圧倒的な個性とたゆまぬ努力によって、「黙ってついてこい follow me」(サクラあっぱれーしょん)と言えるまでに成長したのだった。その感動的なプロセスは、2014年5月の武道館ライブや2015年2月の代々木第一体育館2daysライブで感じ取ることができた。

 『W.W.D.D』は、多彩で楽しいアイドルポップアルバムだが、本作を聴くリスナーは誰もが、そこに楽しさと同じくらいの「切なさ」を受け取ることだろう。なぜなら、このアルバムの至るところに、メンバーが言うところの「死亡フラグ」、すなわち「でんぱ組.incの終わり」がほのめかされているからである。

 「いつか魔法が解けるなら」(でんパーリーナイト) 「ほむらはいつか消える」(ちゅるりちゅるりら)「ずっとこんな幸せが続くなんてありえないのに」(檸檬色)…これらの歌詞は、心の底ではわかっていたはずの現実を想い起こさせる。そう、でんぱ組.incのいない世界は、必ず訪れる。アイドルグループの活動は、限りがある。ああ、だけど、私たち一人ひとりの人生とは、そもそもそういうものではなかったか?

 このアルバムが強烈に感じさせてくれるのは、アイドルは限りある時間の中で輝きを放つということ。アルバムタイトル「ワールド・ワイド・でんぱ・大冒険」とは、世界中に歌と笑顔を届ける彼女たちの活動のメタファーであり、そして私たちの人生のメタファーでもある。私たちは、彼女たちと同じように輝けるだろうか? さあ、でんぱ組.incと一緒に、「大冒険」へ出かけよう。


(追記)
 「グループの終焉の示唆」が最も顕著に表れているのは「イロドリセカイ」という曲で、これはもう、でんぱ組.inc解散時を想像して書かれたとしか思えない歌詞になっている。だがこの楽曲がとてつもなく感動的なのは、その「大切な人たちとの別れ」を描いた歌詞がいつくしみと希望に満ちあふれていて、それらを経験するすべての人の心に響くものになっているからだ。

歌詞をすべて引用したいくらいだが、それはNGなので、ぜひアルバムを手にとって確かめてもらいたい。「幸せな結末が誰にも訪れるわけじゃない 映画のような奇跡もそこら中に転がっちゃいない それでもね ここで笑っていれる 今が大切だってずっと言い切れる」…ああ、どうして君たちは、それほどまでに「希望」であろうとすることができるのだろう? そんなことを考えながら、筆者はこの曲を聴くたびに泣いてます…