先日釣ったマゴチの骨格標本を作りました。

というか、これを作るために釣りに行きました。

熱湯を使う作業なので、真夏にやるもんじゃないと思いましたが、

自分なりの作り方をご紹介します。

 

 

そもそも、釣った魚を写真以外でも残したいと思い、作り始めました。

ネットで調べると、頭の骨の標本は多いですが、全身の標本は少なく、

せっかくなら全身の骨格標本を作りたいと思って始めました。

 

アイナメの全身骨格標本

 

 

〇道具

使う道具は、主に以下の通りです。

・ピンセット

・ハサミ

・包丁

・歯ブラシ

・漂白剤

・たらい

・UVレジン

・LED-UVライト

・シリコンカップ

・筆

・接着剤

・虫ピン

・発泡スチロール(骨の乾燥用)

・アクリル棒

・ステンレスフランジ(台座)

 

 

〇手順

作り方をざっくり説明すると、

①標本にする魚を触りながら、鰭や口、鰓の開き方、角度を覚える。

②骨が入っていない部分の身をそぎ落とす。

③熱湯をかけながらパーツを分ける。

④パーツごとにお湯をかけながら残った肉や膜を取り除く。

⑤漂白剤に漬ける。

⑥乾燥させる。

⑦UVレジンでコーティングする。

⑧パーツを合わせて組み立てる。

⑨仕上げのコーティングをして、台座に載せて完成。

 

 

 

〇手順(詳細)

 

①標本にする魚を触りながら、鰭や口、鰓の開き方、角度を覚える。

 

一つの標本を作るのに、理想は3匹の魚を用意します。

特に頭の骨は数が多いので、バラしている間にどの部分の骨なのかわからなくなってしまいます。なので、まずは標本を作る前に、1匹煮付けにして食べながら、骨の種類と位置、接続の仕方を覚えます。

 

まずは食べながら骨の観察

 

 

標本にする魚は、まずは口や鰓、鰭を開いたり閉じたりしながら、開き方や角度を覚えます。この作業は、骨を乾燥させるときや最後の組み立ての時に重要です。

 

 

分解前に触って覚える

 

 

写真をこまめに撮ることも大事です。骨のつなぎ方など忘れてしまうので、面倒でも写真を撮っておくと、後で見返すことができます。

写真を撮り忘れたり、つなぎ方がどうしてもわからなくなったりした時のために、3匹目を残しておくことをおすすめします。

 

 

 

 

②骨が入っていない部分の身をそぎ落とす。

 

 

 

 

あとで熱湯をかけて肉をはがしますが、その際に熱の通りをよくするために、筋肉はあらかじめできるだけ取り除いておきます。

このとき、あばらの小骨など、肉と一緒に切らないように注意します。1匹目を食べるときに骨の位置を把握しておくとスムーズに取り除けます。

取り除いた肉はおいしくいただきます。

ちなみに、標本にする魚は、できるだけ新鮮な方がよいです。時間がたった魚だと、骨に血が移ったり、関節の接続が緩くなったりしてやりにくいです。

 

 

 

 

③熱湯をかけながらパーツを分ける。

 

やかんでお湯を沸かして、魚全体にかけながら、まずはお腹の肉からあばら骨を取り出します。

 

 

 

 

マゴチの肋骨

 

あばら骨をとったら、下の図のように残りのパーツを分けていきます。

 

 

パーツを分けていく

 

 

 

 

④パーツごとにお湯をかけながら残った肉や膜を取り除く。

 

このあたりから細かい作業が増えていきます。

鰭のパーツは、熱湯をかけて肉と膜に火を通し、ピンセットと歯ブラシを使って肉と膜を取り除いていきます。このとき、お湯をやさしくかけ流しながらやるとやりやすいです。

 

 

胸鰭の除肉・膜

 

鰭の軟条の膜を歯ブラシでとるときには、軟条が抜けないように付け根を指で押さえながらやります。歯ブラシは、軟条の付け根から先端に向かって動かします。逆向きに動かすと軟条が折れてしまいます。

鰭の条の付け根には、白いゼラチン質や軟骨がありますが、これを完全にとると条と骨がバラバラになってしまうので、ある程度残しておきます。

 

 

 

 

背骨には、背側に神経、腹側に血管が入っているので、ピンセットや細い棒などを使って取り出します。鮮度がよいと、神経を片側から引っ張るとスルスルと1本抜けてきます。間に残った時は、棘と棘の間にピンセットを差し込んで取りますが、少しコツがいります。

 

 

 

 

頭については、骨の数が多いので、位置や接続を確認しながら少しずつ外していきます。特に後頭部から胸鰭につながる骨や目の周りの骨は小さくなくしやすいので注意します。

 

 

頭の骨の分解(目の後ろの脳や耳石もしっかり取り出す)

 

 

 

分解したマゴチの頭の骨

 

 

 

⑤漂白剤に漬ける。

 

パーツから肉と膜を取り除いたら、漂白剤に漬けて汚れを取ります。

今回使ったのは、一般的な台所用漂白剤で、成分は次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤、水酸化ナトリウムです。濃度は表示されていませんでしたが、だいたい2~3倍に薄めて使いました(濃いめだと思います)。塩素ガスが出るので十分に換気しながら作業します。

 

 

漂白

 

 

たらいに薄めた漂白剤を入れて(骨が浸かる程度の量)、除肉したパーツを入れると、反応して細かな気泡が出てきます。ここで重要なのが浸漬時間です。長く漬けると、汚れだけでなく軟条や軟骨まで融けてしまいます。どのくらい漬けるかは濃度と汚れの量などによるので感覚ですが、今回は、薄い骨は1分くらい、厚い骨は2~3分くらいがちょうどよかったです。これでも、やや長く漬けすぎたようで、軟条の先端が少し融けてしまいました。

 

 

 

 

 

 

⑥乾燥させる。

 

漂白が終わったら乾燥させます。

発泡スチロールの上にパーツを広げて、虫ピンを使って骨の位置を固定していきます。この時の形が完成した時の形になるので、鰭の開き具合や角度に気を付けます。

 

 

 

 

 

関節に残っていた軟骨やゼラチン質は、乾燥する際に縮んで固くなり、骨と骨をつなぐ接着剤のような役割をします。縮み方によっては骨が曲がって固定してしまうので、乾燥途中に様子を見て、曲がってきていたら虫ピンを刺しなおして矯正します。2~3日もしたら鰭や薄い骨は乾燥します。

 

 

 

 

⑦UVレジンでコーティングする。

 

乾燥した軟条や細い骨は、ちょっとでもぶつかるとパリパリと折れてしまいます。なので、骨の保護と腐食防止のため樹脂でコーティングします。

使用したのはUVレジン(アクリレートプレポリマー)です。エポキシ樹脂も考えたのですが、硬化に時間がかかることと、時間がたつと黄ばんでくるので止めました。UVレジンは紫外線を当てると数十秒から数分で硬化します。接着剤としても使えるのでとても便利です。

 

 

 

 

 

レジン液の温度が低いと粘度が高く、中の気泡が抜けにくいです。温度が高いとサラサラになり、気泡が抜けやすくなります。接着するときには粘度が高いままで、薄くコーティングするときにはシリコンカップを湯煎して温めながら使っています。

各パーツをレジンでコーティングしたら、いよいよ組み立て作業に移ります。

 

 

 

 

⑧パーツを合わせて組み立てる。

 

組み立てる順番は、バラした順番のほぼ逆です。

まずは背骨に尾鰭と背鰭、尻鰭を付けます。

 

 

 

背鰭・尻鰭の条を支える骨(担鰭骨)と背骨の棘とは、基本的には1対1で接続しているので(そうじゃない部分も多々あり←個体差?)、理想は完全に元の状態を再現することですが、そうするためには、背鰭・尻鰭の条と骨をすべて分解する必要があるので、そこまではまだやっていません。マゴチの場合、背鰭の前半と後半で背骨との接続が前後逆になって面白いのですが...なんとなくでやりました。

 

背骨と背・尻鰭のくっつけ方は、背骨に鰭を合わせると、骨が重なるところが何か所かあるので、UVレジンを付けて固めます。

 

 

背骨に背びれ・尻鰭・尾鰭を付けたら、今度は頭を組み立てます。

頭骨の組み立ては、プラモデルを作っているようで、一番面白い作業です。

大きい関節部分は、ちゃんとオスメスみたいになっていて、うまくできているなぁと感心します。頭については、全体がある程度組み上がってからコーティングします。

 

 

マゴチ頭骨の組み立て

 

ちなみに、鰓の骨については、鰓弓の骨は残しましたが、鰓耙と鰓弁の骨は細かすぎて無理でした。

 

 

頭の骨が組めたら、背骨とドッキングします。接着は基本的にUVレジンですが、背骨と頭の間には接着剤も使いました。

 

 

次につけるのは胸鰭です。胸鰭はカマの上のあたりが、後頭部の小さい骨に左右2点だけでくっついているので、くっつける難易度が高いです。まずは左右2つの胸鰭を、後頭部の骨の幅と同じになるように1つにくっつけます。次に、後頭部との2接点をくっつけます。接続部の2点に負荷がかかるので、レジンを厚めに塗って折れないように補強しておきます。

 

 

胸鰭を付けたら、ここで肋骨を付けます。

腹鰭をつける前に肋骨を付けるのは、腹鰭が邪魔になってつけにくくなるからです。

 

肋骨の取り付け

 

1本1本つけていきますが、体の後ろ側からつけていくのがコツです。

普通の魚はしっかりした下向きの肋骨があり、肋骨の付け根付近からほぼ水平に小骨が生えているのですが、コチの場合、水平の骨が太く長く、下向きの肋骨は細いのが5本(たぶん)しかありません。

片側をつけ終わったら反対側をつけますが、骨の角度が左右対称になるように慎重につけていきます。はじめはレジンを少なめにつけるのがコツで、うまくいかなかった場合にはもう一度付け直します。

 

 

肋骨をつけ終わったら腹鰭をつけます。腹鰭は胸鰭のカマの下の方に左右2点で接しているので、これまた難所です。胸鰭の接続箇所の幅を確認しつつ、まずは2つに分かれた腹鰭を1つにくっつけます。そして、腹鰭の骨を胸鰭の骨のいい感じの場所にえいやッと付けます。ここまで来るとだいぶゴールが見えてきました。

 

頭と胸鰭、胸鰭と腹鰭の接続

 

 

 

 

⑨仕上げのコーティングをして、台座に載せて完成。

 

バラバラだったパーツが組み上がったら、台座を用意します。

アクリルの棒をステンレスのフランジに刺してみました。

重心があるあたりのお腹側にアクリル棒を当て、UVレジンで接着します。

 

 

 

 

最後に、コーティングしていなかった部分や、仮止めだった部分、補強が必要な部分にUVレジンを塗って完成です!

 

 

完成したマゴチの全身骨格標本

 

 

今回は、初めてのマゴチの骨格標本で、骨格標本自体ひさしぶりでしたが、まあまあうまくできた方だと思います(実は肋骨が2本無くなったり、背骨が曲がっていたり、途中まで撮っていた写真が消えてしまい、やむなく写真用にもう一匹ばらしたりしましたが...)

今回の製作時間は、除肉・分解・漂白に5時間、乾燥に3日、組み立てに6時間くらいかかったと思います。

いつかヒラメもやってみたいと思うのですが、暑いうちにはやりたくないというのが本音です。

 

 

ちなみに、今回の漂白の仕方だと、種類によっては時間がたつと骨が黄ばんできます。脂などが取り切れていないためだと思いますが、少なくとも骨が薄い魚(アイナメ、クロソイ)では2年以上たっても白い状態を維持しています。

 

 

時間がたって黄ばんできたシイラの骨

 

 

皆さんもせっかく釣った思い出の魚を骨格標本で残してみてはいかがでしょうか?

 

(2024/8/2)