昨年、友人が死んだ。
映画を通じて知り合った人だった。彼は入江悠監督の映画『SR サイタマノラッパー』というシリーズの大ファンで、映画のイベントなどでよく顔を合わせた。ダサい自分とどうにか折り合いをつけて生きようとする若者たちが泣いたり笑ったりラップしたりするその映画が、彼も私も大好きだった。
映画以外にもいろいろな話ができる人でよく遊んでもらっていたのだが、事故で彼は突然この世を去ってしまった。まだ30代だった。お通夜のため、新幹線に乗って埼玉県の葬儀場へと出向いた。棺の中で眠っているかのような友人を前に、初めて会う彼の家族と言葉を交わした。私は家族が知らないであろう友人の姿をできるだけたくさん伝えようとし、みな楽しそうにそれを聞いてくれた。ありがとう、ありがとうとギリギリの笑顔で繰り返す人たちに見送られ、葬儀場を出た。
3月のまだ肌寒い空の下、電車を乗り継ぎ、喪服のまま渋谷で映画を見た。大好きなイ・チャンドン監督の『オアシス』が、リマスター版で上映されていた。不謹慎だと思われるかもしれないが、こういう時に映画館ほどひとりになれる場所を思いつかず、今これほどまでに見たい映画もないと思った。見る者の価値観にぐらぐら揺さぶりをかけるこの映画は、私の人生ベスト級の一本なのだが、スクリーンで見るのは初めてだった。
「映画の力」が何なのか、私にはよく分からない。映画は何かすごい能力を与えてくれたり、世界を大きく変えてくれたりはしない。スクリーンに映し出される、ただの光と影だ。それでも映画は、それを見ている人たちを圧倒的に抱き締めてくれたり、蹴っ飛ばしてくれたり、引きずり込んだりすることがある。そして映画館を出た後は、さっきまでの街の風景を少しだけ変えてくれる。
ただそれだけの幸せなひとときが、早くまた私たちの元に戻ってきますように。