私の心の中には、ひとり、審査員が住んでいるのです。
それも、めちゃくちゃ厳しいやつです。
どのくらい厳しいかというと、目の前にやってきた幸せを、片っ端から審査落ちにするレベル。
たとえば、です。
朝、淹れたお茶が、やたら美味しい。
「あ、しあわせ」
そう思った瞬間、心の奥から、その審査員が出てきます。
「お待ちください。それ、本当に幸せですか?」
メガネをくいっと上げて、こう言うんです。
「お茶が美味しい程度で、幸せと申請されても困りますねェ。
もっと・・・・こう、大きな手柄はないんですか。昇進とか、結婚とか、表彰とか」
そうやって、せっかく応募してきた小さな幸せは、門前払いされていきます。
夕焼けがきれいだった日も。
道ばたの花が、かわいかった日も。
ぜんぶ、ぜんぶ、書類審査で弾かれていく。
「不採用」
「不採用」
「該当者なし」
審査員のハンコが、ぽん、ぽん、と押されていく音だけが、
心の中に響いています。
ところが、です。
この塩対応の審査員が、ごくたま〜に、人格が変わる瞬間があります。
「昇進しました」みたいな、ごりっぱな幸せが申請されたとき。
突然、立ち上がって、こう叫ぶんです。
「エクセレーーーンツ!!
これこそがあなたの"本当の人生"です!!!」
……いや、声。
合格のときだけ、なんで、そんなにテンション高いの。
ふだんあんなに偉そうなのに、ごりっぱな幸せの前だけ、急にはしゃぐ。
——この審査員、ちょっと、苦手なタイプかもしれません。
でも、よく考えたら。
これ、私自身のことなんですよね。
私たちは、いつから、こんなに審査が厳しくなったんでしょうね。
子どもの頃は、こうじゃなかったはずなんです。
水たまりを見つけただけで、世界一の幸せみたいな顔をして、バシャバシャ入っていったでしょう。
1本30円のチューチューアイスがもらえただけで、跳びはねて喜んだでしょう。
あの頃の私たちは、幸せの審査基準が、ゆるゆるだったんです。
それが、いつのまにか。
「自慢できる誇れる幸せ」じゃないと、認めなくなった。
成功しなきゃ。
結婚しなきゃ。
誰かに認めてもらわなきゃ。
そういう、立派な肩書きのついた幸せだけを心の門の中に入れるようになった。
そして、立派じゃない幸せたちは、門の外でしょんぼり立ち尽くしている。
お茶が美味しい、という幸せ。
夕焼けがきれい、という幸せ。
今日も、ごはんが食べられた、という幸せ。
門前払いにされた、その小さな幸せたちの数を——
私は数えたくありません。
きっととんでもない数になっているから。
ここで、ちょっと、想像してみてほしいんです。
もしも、です。
もしも、あなたの人生の目的が、成功することじゃなかったら。
もしも、あなたの人生の目的が、結婚することじゃなかったら。
もしも、あなたの人生の目的が、誰かに認めてもらうことじゃなかったら。
——どうなるでしょうね?
たとえば、人生の目的が。
ただ、友達とげらげら笑うことだったとしたら。
ただ、雨の日に温かいスープをふうふう飲むことだったとしたら。
ただ、誰のためでもなく自分のためにお花を一輪買うことだったとしたら。
そうだったとしたら——
私たちは、もうとっくに人生の目的を果たしているんじゃなかろうか。
何百回も、何千回も。
私たちは、ずっと思い込んでいます。
人生には大きな大きな意味があって。
それは 何かをなしとげることなんだ、と。
立派なものを その手につかむことなんだ、と。
だから、急いで、走って、学んで、成長して、比べて、
息を切らして、まだ足りない、まだ足りないって、自分を追い立ててきました。
でも、ね。
ほんとうは この一瞬一瞬をただ味わうために。
この世界の美しさに、ただ「きれいだね」と、拍手を送るために。
——生きているのかもしれない。
お茶の湯気に、ほっとするために。
夕焼けの色に、息をのむために。
スープの温かさに、生き返るために。
それが 人生の"ほんとうの目的"だったとしたら。
私たちは何者にもなれていなくても。
たいした肩書きがなくても。
——ちゃんと人生を生きている。
胸を張ってそう言っていいのだと。
だから、今日。
私の心の審査員に、辞表を出してもらおうと思います。
長いあいだお疲れさまでした。
でも、もう、あなたの厳しい審査は、いりません。
これからは応募してきた幸せを、ぜんぶ採用することにします。
いえ、採用なんて、堅苦しい言い方はやめましょう。
これからは、こう叫ぶんです。
お茶が美味しい。エクセレーーーンツ!!
夕焼けがきれい。エクセレーーーンツ!!
そして——ここまで読んでくれた、あなたがいる。
これはもう、文句なしの、満場一致で。
エクセレーーーンツ!!
門の外で、しょんぼりしていた、小さな幸せたちよ。
おかえりなさい。ずっと、待たせて、ごめんね。
さあ——
カッモーーーン!
ジョイナアアアアーーース!!!
こういう話を、メルマガでこっそりお届けしています。
審査員に辞表を出したくなった日は、よかったらこちらへ。
▼ メルマガのご登録はこちら
https://www.reservestock.jp/subscribe/347610










