窓をあけると | 一冊の詩集

一冊の詩集

人生終わるとき一冊の詩集が出来上がっていたら。
一日一日を大切に。

空の姿、吹く風の色が変わってきました。

生活の中で、季節を感じ、人を感じ、人生を感じながら生きることが出来たらいいですね。

どうぞ、心正直な一日でありますように。

 

 

「窓をあけると」

 

窓を

あけると

 

夕暮れどきの空は

澄んでいた

 

とうさん

かあさん

 

呼びたく

なった

 

  *

 

いのちとか

死とか

 

まだ 子どもには

むずかしい

 

いえ そんなこと

ちっとも

 

だれもが 窓の向こうを

ながめている

 

  *

 

むこうには雲

こちらには屋根

 

なに色に

しようかな

 

パレットの上で

絵具がささやくのを

 

きいて

いたのは

 

  *

 

大きな

木の下で

 

なにを

話したのでしょう

 

朱色の仁王様が

金網のなかから

 

つかみそうな

午後だった

 

  *

 

蝉は

鳴いていたでしょうか

 

いとこの

リコちゃんとは

 

ずっと

会っていないのです

 

お地蔵さんは

まだ立っているでしょうか

 

  *

 

大きな

道をへだてて

 

やおやさん

ぶつぐやさん

 

うちは

床屋だったから

 

日常が

クルクル回っていた

 

  *

 

植木鉢には

卵のカラ

 

十姉妹には

すり餌

 

おじいちゃんは

白い上着をきて

 

皮でかみそりを

しゅっしゅっ研いでいた

 

  *

 

台所に

パイプがらの歯磨き粉

 

すすけた

 

きしむ

茶箪笥をあけて

 

お茶わん並べるのが

わたしのしごと

 

  *

 

真夜中のトイレ

そっとのぞくと

 

奥の間には

閻魔様が

 

こちらをにらんで

座ってた

 

地獄 極楽

いちぬけた

 

  *

 

とうさん

ここに来たのね

 

かあさんを

くださいって

 

かあさんは

きれいだった?

 

じっと

下をむいて

 

  *

 

寄り添う

二人のすがた

 

かどを

曲がるまで

 

あの日

見送ったのは

 

幸せっていう言葉を

忘れないため

 

  *

 

信じたいの

すべての出来事

 

愛かしら

きっと

 

愛よ

そうよ

 

窓をあけると

手のひらに・・・

             motomi

 

※ 誰の心のなかにも、まだまだ、しまっているものがあるのです。