いのちの結晶 | 一冊の詩集

一冊の詩集

人生終わるとき一冊の詩集が出来上がっていたら。
一日一日を大切に。

 「いのちの結晶」

 

   Ⅰ

 

花は咲き

河は流れ

 

季節は

めぐる

 

はじめに

はじめがあった

 

一滴

たれた

 

いのち

だった

 

人間は

つくられた

 

そこから

壮絶な物語は始まる

 

   *

 

流れる

脈流

 

響く

鼓動

 

このいのちは

わたしではない

 

無数の出会い

無数の祈り

 

このからだを

怒涛のように

 

みなぎり

渦巻く

 

このいのちは

すべてのもの

 

   *

 

ああ

呼吸する

 

たとえ一秒先で

終ろうと

 

なんの文句が

言えようか

 

越えては襲い来る

困難に

 

どう

逆らえようか

 

すべてを

生きてくれた

 

ひとつひとつが

いのちの結晶

 

   *

 

人間が

ここにいる

 

まったく

一人一人がここにいる

 

それが

どういうことなのか

 

朝な夕な

めぐらせてみる

 

そんな己に関わりなく

いのちは黙々と動いているではないか

 

まず

どこから始めるのか

 

ここに

ああ いのちがある

 

   Ⅱ

 

吸い込む

冷気

 

いのちが

沁みて

 

歴史の流れが

そそぎこむ

 

静寂は

さらに深く

 

   *

 

いのちとは

言葉でなんと表そうか

 

見えない

聞こえない

 

掴めない

そう表現しようか

 

生涯

求め続けるもの

 

   *

 

いのちという言葉を

だれが作ったのか

 

言葉にした瞬間

いのちではなくなるような

 

いのちとは

無数の死――

 

幾年月重ねられた

愛の結晶

 

   Ⅲ

 

水滴が 列になり

光の子どもたちが 呼びかける

 

さえずりが 鈴の音になり

遠くから 馬車がやってくる

 

ぴたぴたと 柱時計が

静けさに 波を打つ

 

巻き尺を 取り出し

少女ははかる

 

託されたいのちの 深さを

ゆびさきで

 

ヒナが 巣で

羽をふるわす 音がする

 

根が 地中で

息をすう 音がする

 

河の淵で 幾多のたましいが

さざめいている

 

行きたくないところに

連れて行かれるかもしれない

 

行きたいところに

少しも届かないかもしれない

 

それでも

少女は測ったいのちを

 

ひとつひとつ

紙切れに記してゆくのです

 

   *

 

雨は

過ぎました

 

さあ

歩き出すのです

 

手を

携えて

 

紛れもなく 

いのちは ここに  

             motomi

 

※ 考えても考えても、戻って来るのです。この「今」に。