やすらぎ | 一冊の詩集

一冊の詩集

人生終わるとき一冊の詩集が出来上がっていたら。
一日一日を大切に。

毎日通っている道も、通るたびに景色が違います。晴れやかな日にも濁った日にも、心の奥には帰る場所があります。それは振り返った時にしか見えないものなのかもしれませんけれど。

どうぞ、心穏やかな一日でありますように。

 

 

「やすらぎ」

 

  A

 

藍がひらけ

暁にほどくとき

 

苦しみが去り

涙が拭われる

 

見上げれば

いつもそこに

 

父の手のように

母の心のように

 

  *

 

いのちが

生まれくるとき

 

大地に

光が宿される

 

眼差しは

変わりなく

 

富士という山

ここにあり

 

  B

 

知っていたのですか

 

あなたの

やさしさ

 

まるで

わたしの心を照らすよう

 

聞えていたのですか

 

あなたの

いのり

 

まるで

わたしの願いを包むよう

 

闇に

ぽっと

 

花は

いちりん灯っている

 

  C

 

歩いてみないか

なにも持たずに

 

深呼吸してみないか

このままで

 

そこに

人生がある

 

  *

 

感じてみないか

碧さを

 

見つめてみないか

見えないものを

 

そこに

風が吹く

 

  *

 

渡ってみないか

この橋を

 

開いてみないか

この扉を

 

そこに

哀愁が住んでいる

 

  *

 

数えてみないか

人生を

 

拾ってみないか

足あとを

 

そこに

沈黙がある

 

  *

 

歩いてみないか

静かな夜に

 

そこに

無数の

 

いのちが

呼びかけている

 

  D

 

橋を渡る

枝先に春の和らぎ

 

白と青の

光を残し

 

電車は

通り過ぎていく

 

川は

深い碧を湛え

 

光を広げて

散っていく

 

あの車輪の音は

ガタガタと

 

故郷の響きに

似ているではないか

 

紅梅は

昔人が詠んだように

 

香り一面

漂わせている

            motomi

 

※ 誰の心の中にも、思い出したい光景が眠っているのではありませんか。