作中人物 | 一冊の詩集

一冊の詩集

人生終わるとき一冊の詩集が出来上がっていたら。
一日一日を大切に。

 「作中人物」

 

   Ⅰ

 

作者がどうして

作中人物を知り得ようか

 

作中人物は

自ら産まれてくるのである

 

   *

 

ましてどうして

私が私であることができようか

 

私が誰であろうとも

最期の瞬間まで生きるだけなのだ

 

   *

 

誰もが等しく与えられ

誰もが宇宙の作中人物

 

なにひとつ欠けても

宇宙は成り立たない

 

   *

 

自分の手で

ストーリーを描こうとするものは誰だ

 

自分の手で

幸いと災いを操るものは誰だ

 

   *

 

まして人のいのちを

凌辱するものは誰なのか

 

目覚めてわたしは誰だと

問うがいい

 

   *

 

いのちは

寝ずの番をして

 

あなたを

いとなんでいる

 

   Ⅱ

 

ああ

殺しちゃいけない

 

かけがえのないもの

殺さないで

 

その人にしかない

片鱗

 

その人が呻いた

いのちの証し

 

   *

 

ああ

殺さないで

 

震える姿の

その奥に

 

隠された

愛が

 

あなたを

生かしているのに

 

   Ⅲ

 

乗り込む電車

目の前の座席には

 

それぞれの人生

私の出会ったことのない世界

 

一人一人が

歩き続けてここにいる

 

眠っているあの人も

遠くを見ているあの人も

 

誰にも描けない

その人だけの生きた言葉

 

何を悩んで

何を苦しみ

 

何を願って

何を見つける

 

あなたはどこに行くの

 

いのちがいのちに

呼びかけている

             motomi

 

※ 答えはありません。問いかけ合いながら道は拓かれていきます。