遅れて来たものに | 一冊の詩集

一冊の詩集

人生終わるとき一冊の詩集が出来上がっていたら。
一日一日を大切に。

 「遅れて来たものに」

 

   Ⅰ

 

ときは

待っている

 

遅れて来たものにも

与えるために

 

   *

 

ときは

先に行って

 

どうしようもないものに

両手を広げ

 

   *

 

ときは

抱き上げる

 

すべての

いのちを

 

  ***

 

自分で

自分の汚れを洗うことができようか

 

自分で

自分の穴を埋めることができようか

 

   *

 

あなたは汚れている

あなたは欠けていると

 

他人には言えても

自分では気づかない

 

   *

 

わたしは正しい

わたしは清いと

 

なんど宣言しても

また裏切る

 

  ***

 

小さいもの

弱いもの

 

惨めなもの

情けないもの

 

   *

 

不要なもの

無駄なもの

 

傷つくもの

耐えるもの

 

   *

 

泣くな

先に行って

 

ときは

あなたを高くする

 

  ***

 

目覚めて

遅れたことを知るとき

 

嘆くこと

なかれ

 

   *

 

生きて

ここにあること

 

ときは

すべてを最善にする

 

   *

 

さあ行こう

遅れてきたものたち

 

ときはすべてを生かそうと

声を嗄らして語りかけている

 

   Ⅱ

 

目を離さず

じっと見ている

 

月があの辺り

現れるのを

 

雲が流れ

ああ

 

大いなるもの

ここに

 

かすかに揺れる

笹の葉灯す

 

いのちの

いじらしさ

 

  ***

 

なぜ

生きているのか

 

大空に

問うてみる

 

   *

 

元気ですと

いのちが笑った

 

そんな気がして

日が暮れる

 

   *

 

ここに

いのちがある

 

ただ

素晴らしさに見とれている

 

   *

 

なあんにも

ない

 

だから

あなたに生かされたい

 

   Ⅲ

 

新宿駅の地下道は

無言の物体が浮遊していた

 

酸素がない

光がない

 

生きているのか

死んでいるのか

 

僕は

どこにいってしまったのだろう

 

   *

 

暗くもない明るくもない

寒くもない暑くもない

 

物体は

ただ過ぎていく

 

僕が

まるで見えないように

 

いや

本当にいないのかもしれない

 

  ***

 

あれから

何年たっただろう

 

世の中は

相変わらず

 

無言の物体で

溢れている

 

なにが 変わったのだろう

なにが 変わらなかったのだろう

 

   *

 

僕の位置が

ちょっぴり変わった

 

殺される方から

殺す方に

 

ただ

それだけのことなんだ

 

夜になれば眠り

朝になれば目覚める

 

   *

 

見ろよ

みんな

 

生きている

生きているじゃないか

 

面倒さ 生きるって

傷つくさ 生きるって

 

逃げ出したい

止めてしまいたい

 

   *

 

でもさ

やっぱり

 

人間として

死にたいんだよ

 

だから人間として

今日を生きる

 

そう

させてくれないか

 

   *

 

あれから何年たっただろう

なにも変わらない

 

ただ

出会っただけさ

 

僕に

ありがとうと

 

言ってくれた

ひとりに

          motomi

 

※ 最後の最後まで、可能性は拓かれています。その先に向かって。