10月にN響正指揮者に就任したばかりの下野竜也が2023年の「N響第九」に登場した。就任後初の共演となった。

 マエストロに「第九」との出会いや思いなどを聞くと、小学生の頃にTVでN響の演奏が最初の出会いだそうだ。それで「第九」を指揮したいと思って今に至るそうだ。「第九」はマエストロにとって生涯のアイドルであり、一生をかけて勉強していく作品だそうだ。

 「第九」の前にサミュエル・バーバーの弦楽のためのアダージョを置いたのは大曲の演奏の前に「内省」のひと時を持てたらとのことだった。

 「第九」の歌詞をよく読むと、ベートーヴェンは神を超えるものの存在を謳っていた。封建制度の時代にあって人類愛を歌ったベートーヴェンは稀有の作曲家であり、常に冒険と実験を厭わない創造主であったことに深く敬意を感ぜずにはいられなかった。

 合唱の響きの美しさ、四人のオペラ歌手の素晴らしさに酔いながらベートーベンへの賛歌を心の中で歌っていた。素晴らしい年末を迎えられて心がほかほかと温まった。