ごく短い期間を除いて MUは一階の生活者だった。


マンションの購入に際しても土に触れられる一階を選んだ。


そして隙間風が吹く一戸建て住宅で長年生活した。



ただいま地上14階の住人。36階まであるビルである。


このところ少ーし、おかしい。


木の芽時だからともいえない気がする。


昼間の明るい空を見ながら 二重サッシの無音の空間で 


窒息しそうになっている


たぶん、今に慣れるのだ。


きっとそうに違いない。


高層マンションは高いところから売れていくと言うのだから


いいことがあるに決まっているチョキ



この感覚、むかーし、まだ仕事をはじめる前、


感じたことのあるものとよく似ている気がする。


その当時、マンションの一階の住人だったMUは30代はじめ。


庭のあるマンションに住みながら


今日のような閉塞感にさいなまれていた。


アレは空間的なものではなく 精神的なものだった。


これから分け入って行く膨大な時間を前にして


ベッドの中で恐怖していた。


「こうしてうずくまったまま人生は終わってしまうのだろう」と。


そして、ある日、突然、気が違ったように行動を開始したのである。


行動に伴う苦労がいかに大きくても


ベッドの中で 自分の脈の音を聞きながら 恐怖するより


はるかに いい。


あの時 MUは知らず知らず 今の仕事を興す準備に


入っていったのである。結果的にそうだった。



あの時 ガバッと起き上がったと同じように


高層マンション閉塞症から 一歩踏み出したら


今度は何につき当たるのだろうか?


14階下のコンクリートだろうか、 それとも


高いところに 飛んでって お陀仏?



それでも MUはきっと 動き出すはずである。


今回も 空間的閉塞症にかこつけた 何かだと知っているから。


精神的閉塞は 身体を動かすことによって


開放される何かだと 経験上知っているから。