サッカー日本代表敗因分析②:DFラインを高く保つ作戦の功罪 | 超絶メタアナリシス

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岡田監督が率いた2010年南アフリカ大会の日本代表と、今回ザッケローニ監督が率いた日本代表との大きな違いは、ディフェンダー(DF)ラインを後ろへ引いて守るか、それとも高く保って攻撃的にいくか、という点である。

 

岡田監督は守備を重視して、「DFラインを後ろへ引いて守る」ことにした。

 

そうすることで、カメルーンを完封し、強豪オランダを最少失点の1点で済ませ、予選通過のかかったデンマーク戦でも先制点を取ることで優位に試合を進めることができた。

 

2010年南アフリカ大会では、予選3試合でわずか2失点だ。

 

ベスト16のパラグアイ戦でも、この戦術が功を奏し、パラグアイに90分間+延長戦の30分間で得点を許さずにPK戦に持ち込み、あわよくばベスト8という一歩手前まで行ったのだ。

 

それに対しザッケローニ監督の作戦は、「DFラインを高く保つこと」であった。

 

DFラインを高く保つことで、相手にオフサイドのプレッシャーをかけることが出来る。

 

それによって、相手プレイヤーを相手側のサイドへと押し込むことになり、結果的に、敵を味方のゴールから遠ざける... 

つまり、こうすることで、敵からゴールされる危険性を減らすことが出来るのだ。

 

同時に、プレーする面積を狭くすることで、スペースを消して、ボールを奪いやすくできる...


わかりやすく、図で説明しよう。

 

まずは、岡田監督の南アフリカ大会での作戦だ。

緑の丸印が日本のDFで、矢印が攻める方向だ。

そして、緑の丸印をつなぐ線が、DFラインである。

 


黄色の面積が、互いの選手がプレーするスペース(面積)となる。

 

なぜならば、相手の選手が水色のエリアで味方からのパスを受けてしまうと、”オフサイド”という反則になるからである。だから、敵側は、黄色の領域でプレーせざるをえない。

また、日本選手は、DFラインが最後列になるのだから、当然に黄色の領域でプレーしているわけだ。

 

さて、一方の、ザッケローニ監督の「DFラインを高くする」作戦は...




互いの選手がプレーするスペース(=黄色の領域)は、上の岡田監督の場合よりも狭いことがわかる。

狭い領域に敵味方の選手が入り乱れることになるのが特徴なのだ。 

 

また、このようにすると、味方DFが敵のゴールに接近でき、その攻撃参加が容易になので、長友や内田,吉田といった海外組の優秀なDFたちを攻撃に生かす(参加させる)こともできるのだ。

 

まさに、一石三鳥(敵を味方ゴールから遠ざける、ボールを奪いやすくできる、DFを攻撃参加しやすくする)で、しかも、敵ゴールの近くでプレーする機会を多くするという、非常に攻撃的な戦法だといえるわけだ。

 

これはこれでそれなりに意味があり、従来より決定力がないだの、得点力が低いだのと言われ続けてきた日本の攻撃力をアップし、結果的に、日本チームがたくさん得点が取れるようにした。

 

特にアジア最終予選では、オマーン戦で3対0、ヨルダン戦で6対0と大量得点し、われら日本国民は、
「日本って、強いじゃないか!」とほぼ全員が思ったはずだ。

 

昔、「日本は決定力がない」とか、「得点力がない」だとか言われていたのが、ここ最近、特にアジア予選などの格下のチーム相手で、その欠点が解消したように思えていたのは、種明かしすれば、こういうことであったのだ。

何も、日本チームが、”成長”したわけではないのである...

 

しかしその反面、高くしたDFラインと味方ゴールの間が、広くガラ空きとなるのである。

 

だから、パスでなく、相手にドリブル(※)でDFラインを突破された場合、大急ぎで長い距離を走って味方ゴールへと戻らないといけないのだ。(※パスだと、上に述べたようにオフサイドだから)

 

それができないと、たちまちピンチとなるのである。

 

つまり、「DFラインを高く保つ」というザック戦法は、諸刃の剣”なのである。(攻撃力を高める反面、攻撃中は、キーパー川島の近くには誰もいなくなるので)

 

そのため、DFには、「大急ぎで長い距離を走ること」、すなわち、スピードとスタミナが求められるので、
スピードのないDF(例えば、召集されなかった闘莉王)はそもそも試合に使えなくなってしまい、作戦上、選択肢が狭まる。

 

また、相手の方がスピードやスタミナにまさる場合、後半になって日本側に疲れが出始めると、動きが鈍るため、ボールを奪われやすくなったうえに、高く保ったDFラインを何度も容易に突破され、しかも、敵よりも早く川島が守る日本ゴールのところまで戻り切れずに、いとも簡単に相手に得点を許してしまのである。

 

これが今回のコロンビア戦で後半に大量失点した理由であり、

身体がクタクタに疲れた状態でDFラインを高くする、ということは、速攻が得意なコロンビアに、「どうぞ、速攻してください」と言ってるようなものなのだ。

 

とはいえ、2006年のドイツ大会のときのオーストラリア戦やブラジル戦で後半に大量失点したのとは、わけが違うのである。

 

だから、2006年ドイツ大会と勝ち負けは同じでも、内容が違うから、同じ失敗を繰り返しているわけではない... その点は安心していいのだ。

 

話しを元に戻すと、ザック戦法というものは、そもそもこういう弱点を抱えている以上、失点は最初から覚悟の戦法なのである。

 

ザック自身も今回のコロンビア戦の後で、あらためてそのように言っている。(以下のサンスポの記事)
↓↓↓
http://www.sanspo.com/soccer/news/20140625/jpn14062513390039-n2.html
(この記事の、10~12行め。→「もちろんいくつかの失点は覚悟しなければならないが、そのような考えでチームを作って、この戦略を元に良い成績を収めてきた。だが残念ながらブラジルではそれができなかった」)

 

また、「DFラインを高く保つ」作戦の狙いの一つである、”スペースを消してボールを奪いやすくできる”という点は、逆に言えば、相手もまた日本ボールを奪える可能性が大きくなる、というわけで、これもまた、”諸刃の剣”なのである。

 

フィジカルの強いコートジボアールや、足元でのボールさばきのうまいコロンビアが、日本のボールを奪うシーンがよく見られたのはこういうことだ。

 

日本選手はそもそもフィジカルは強くはなく、ボールさばきも南米の選手ほどうまくはないので、起るべくして起こった事態であるといえよう。

 

つまり、ザックの「DFラインを高く保つ」という戦法は、アジアのチームや、組織的サッカーをする西ヨーロッパ諸国相手には通用するが、フィジカルの強いアフリカチームや、足元のボールさばきのうまい南米チーム相手では、逆に弱点になるといえよう。

 

また、西欧と違って、スピードのある東ヨーロッパのチーム相手でも、通用しずらい...

 

以上のことは、すでにW杯の前に如実にあらわれていた。
・2013年6月のコンフェデ杯(ブラジル、メキシコ、イタリア)
・2013年7月の東アジア杯
・2013年10月の欧州遠征:セルビア戦,ベラルーシ戦
・2013年11月の欧州遠征:オランダ戦,ベルギー戦

 

東アジア杯と西欧チーム相手(オランダ,ベルギー戦)では、合計で、3勝2引き分け(無敗) =ザック戦法は通用した
 

コンフェデ杯と東欧チーム相手(セルビア,ベラルーシ戦)では、合計で、5敗(勝利どころか引き分けもゼロ) =通用しなかった

 

コンフェデ杯で唯一善戦したイタリア戦(2点先制した)は、西欧のチーム相手である。

 

このことからわかるように、戦う前からコートジボアール戦とコロンビア戦は、戦術的に、半(なか)ば、破たん」していたのである。

 

今回のW杯では、本田・長友・香川らの属する、ACミラン・インテル・マンUといったビッグ・ネームの七光り効果から、「今回の日本代表は、”史上最強”だ」などと大多数の日本人たちはお祭り騒ぎだったが、それは、サッカーの戦術や各外国チームの特徴をよく知らないがゆえの、「知らぬが仏」なだけであったのだ。

 

少しでもサッカーに詳しければ、戦う前から難しいことは、わかりきったことだったのだ。

 

そのことは、以上の私の説明から御理解いただけることだろう。

 

もちろん、ザックも問題点はわかっていた...

だからそれを何とかしようと考えていたが、しかしその解決策は、無理むりな策であった。

 

もう一度サンスポの記事を引用してみよう。
↓↓↓
http://www.sanspo.com/soccer/news/20140625/jpn14062513390039-n2.html

 

「11人が守備も攻撃もできるようにして...」
「速い攻撃をしようと考えていて...」
「チームにはもっと大胆に攻撃しろと伝えてきた...」

 

要するに、①全員攻撃&全員守備、②速さでカバー、③休む暇のない怒涛のような攻撃
を、ザックはしようとしたようだ...

 

でも、こんなことって無理むりなのでは?

 

90分間フルに、この①②③を続けられるわけがないのだ。

しかも、酷暑のブラジルで...

 

・・・

 

この4年間とってきた戦法を急にやめるわけにもいかず、
つまるところ、この「DFラインを高く保つ」という戦法を日本人選手の体力と運動神経がこなしきれないことによって負けたのである。

 

以上が敗戦の主たる原因であり...

「世界との差は大きかった」だの、「力の差」だの、「もっと進化しなければいけない」だの、あるいは、「健闘した日本チームには感動」だの、「自分たちのサッカーは出来ていた」だの、「攻撃の姿勢は感じた」だの、といった論調の報道ばかりであるが、みんな何もわかってないように思えるのである...

 

要するに、今回の日本代表チームは、自分たちのサッカー」(=DFラインを高く保つという戦術をしたから負けたのだ!

 

1,2戦めは、「自分たちのサッカー」がやり切れなかったから、1点差や同スコアで済んだ...

しかし、3戦めのコロンビア戦は、「自分たちのサッカー」が出来たから、大負けした...

 

こういうことなのである。

 

だから、コロンビア戦後のザックのインタビューは、「今日の試合は、負けたけれど、積極的にやり切れていたので、1,2戦めよりは満足です」なのである...  

 

このことがわかってる人が、果たしてどれくらいいるだろうかな?...