猛暑が続き夜も寝苦しいのではないでしょうか。 

 

1979年、あのニュース画像を覚えておられる方もおみえと思いますがアメリカのペンシルベニア州でスリーマイル島原子力発電所で事故が発生します。 

メルトダウンで放射能が漏れ出して半径8km以内の住民に避難勧告が出されるという大事故でした。 

緊急事態の下で冷却材漏洩、給水弁の開閉を正確に把握できなかったという単純なミスの重なりが原因とされています。 

その後の裁判では作業員の睡眠不足による疲労がこのミスにつながったという指摘がされています。 

同じく1986年のスペースシャトル「チャレンジャー号」爆発事故やチェルノブイリ原発事故、1989年エクソンバルディーズ号原油流出事故でも睡眠不足による疲労が指摘されています。 

 

睡眠不足は人のパフォーマンスに大きな影響を与えます。 

人間を含む哺乳類・爬虫類・魚類、昆虫、さらには脳を持たない生物まで睡眠をとることがわかっています。 

なぜ眠ることが必要なのでしょうか。 

脳のメンテナンス説、エネルギーを節約する説、体内時計説などの説明がありますが実は科学的にはまだ完全に解明されていません。 

眠りについてまだわからない事は多くあるのです。 

ただ言えることは現代はスマホ・PCなどが氾濫して良質な睡眠が得難い時代です。 

 

1924年に人の脳波が発見されます。 

脳波は脳が活動する際に発生する電気信号で、脳の神経細胞(ニューロン)が活動電位を発生させ他のニューロンへと伝達することにより発生しています。 

興奮時、覚醒時、リラックス時、眠気がある時、深い睡眠時の5種類の脳波があります。 

最近では脳波は医療分野だけでなくITやAIと組合せ幅広い分野で活用(ブレインテック)が進められFacebookやイーロン・マスクもブレインテックに投資をしています。 

1950年代には「レム睡眠」「ノンレム睡眠」が発見されます。 

レム睡眠は浅い眠りであり、ノンレム睡眠は深い眠りです。 

レム睡眠では脳が活発に働いており左右に眼球が動くのが特徴(Rapid Eye Movement REM)で記憶の整理・定着が行われ夢を見ます。 

ちなみにこの睡眠状態では脳は覚醒に近い状態ですが筋肉は動かないためいわゆる「金縛り」になることがあります。 

また呼吸が変動し不安定になるため押さえつけられるような圧迫感や息苦しさを感じることがあります。 

 

一方ノンレム睡眠では脳も身体も休んで夢もほとんど見ません。 

最も深く眠っている最初のノンレム睡眠で成長ホルモンが分泌され疲労をとり細胞の修復が行われます。 

ノンレム睡眠とレム睡眠は90~120分の周期で一晩に4~5回繰り返されます。 

これはノンレム睡眠で体温・脈拍・血圧が低下するためそれが行きすぎないようにレム睡眠が防ぐ目的もあります。 

 

この睡眠リズムが崩れると不眠となります。 

不眠が続く場合は睡眠薬も一つの選択肢となります。 

1900年代当初の睡眠薬は脳全体を抑制し効き目も副作用も強いものでした。 

過剰摂取による致死性や依存性、呼吸抑制、また離脱症状も強く現在ほとんど使用されていません。 

1960年代以降に登場した睡眠薬は安全性が高くなりますが、やはり翌日に眠気が残る、ふらついて転倒、記憶が飛ぶなどの副作用はあります。 

またもう一つの問題として浅い睡眠を増やすためリズムが狂い睡眠の質が低下してしまいます。 

このため熟睡感がなく疲れが取れず、スッキリしない寝不足感が残ります。 

また飲み始めた頃は効果を感じても使い続けるうちに効きが悪くなってくることがあります。 

薬を止めるときにかえって不眠がひどくなることもあります。 

 

こうした睡眠薬は「脳を抑制する薬」ですが、最近は睡眠と覚醒の周期に関係する物質(メラトニンやオレキシン)の働きを調整する「自然に眠気を催す睡眠薬」も開発されました。 

これらの薬は依存性は少ないですが、効果や副作用に個人差が大きいという特徴があります。 

不眠には四つのタイプ(入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害)があり、それに合わせてこれらの睡眠薬や抗うつ薬などを選択していきます。 

この四つのタイプは漢方薬でも治療の参考になります。 

さらにその背景にある体質や原因(心身の疲労、ストレス、イライラ、こもった熱、神経の高ぶりなど)を考慮して薬を選びます。 

漢方薬は一時的な不眠だけでなく慢性化していたり睡眠薬からの離脱にも有用で、睡眠の質の低下もなく快眠を得ることができます。 

 

なお注意すべきは不眠だから即睡眠薬とは一概に言えないことです。 

例えばアトピーで痒い、喘息で眠れないならその原因治療が優先されます。 

更年期、むずむず足症候群、睡眠時無呼吸なども同様です。 

ちなみに平成14年の改正道路交通法で免許の拒否・保留・取消・停止の対象として「重度の睡眠時無呼吸症候群」が初めて挙げられました。 

この疾患では熟睡ができないために交通事故が約7倍起こしやすいそうです。 

また糖尿病や高血圧など生活習慣病と不眠はお互いを悪化させますので並行して治療するのが大切です。 

服用薬(Ca拮抗薬、ベーター遮断薬、ステロイド)で不眠になることもあり得ます。 

逆に最近血圧が高くなってという方に不眠があれば、それを優先治療することで血圧が落ち着くこともあります。 

 

睡眠薬という名前に抵抗感を持つ人はサプリや市販薬を使用されることもあるでしょう。 

これらは医師サイドから見れば一時的な不眠を改善するために使用するものとなります。 

ただそれらの製品で効果があればそれはそれでよいと思います。

 

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