10月になり秋晴れの気持ちよい日が続きます。
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インフルエンザは冬の病気。 その常識が、静かに崩れ始めています。
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■ 108年前にも「季節外れ」のインフルエンザがあった
大正7年、1918年の春。 台湾巡業中の尾車部屋の真砂石ら3人の力士が、4月に謎の病気で急死します。
部屋では力士たちが枕を並べて寝込み、人々はこれを「相撲風邪」と呼びました。
これが日本を襲ったスペイン風邪の始まりです。
国内の死者は約39万人。あの新型コロナをはるかに上回り、記録に残る限り日本の疫病史上最悪の感染症です。
そして当時の医師たちを困惑させたことの一つが「季節」でした。
北半球ではインフルエンザは本来冬に流行するのに、スペイン風邪は夏や秋にも広範囲に広がったのです。
■ そして2026年、夏にインフルエンザがやって来た
今年、インフルエンザの全国流行入りが発表されたのは8月28日。
前年から流行が続いた2023年を除けば、1999年以降で2番目の早さです。
主役はA型のH1N1。スペイン風邪と同じ型です。
ただし誤解のなきように。
今のH1N1は弱毒化して「季節性インフルエンザ」の一員になっておりスペイン風邪とは別物です。
怖いのはウイルスの毒性ではなく「季節を選ばなくなった」という変化です。
そして流行を追いかけるように、東京では9月のすべての日で雨が降りました。
観測史上初めてのことです。
現場の医師からは、39℃から40℃の高熱が出て、普通の風邪よりつらそうなケースが目立つという声も上がっています。
当店でも、先月から風邪症状のご相談が明らかに増えています。
猛暑の夏、毎日の雨、早すぎる流行。 これは今年だけの偶然なのでしょうか。
■ 感染のニュースタンダード?
その答えはまだ誰にもわかりません。
ただ手がかりはあります。
2023年は前のシーズンの流行が夏になっても終わらず、そのまま次へつながりました。
昨年は9月下旬に流行入り。
そして今年は8月。
「冬の病気」の枠からはみ出す年が、明らかに増えています。
意外かもしれませんが、暑さや雨そのものはウイルスにとってむしろ不利な条件です。
インフルエンザは乾いた空気を好み、湿気に弱いからです。
では、何が流行を夏に引き寄せているのか。
考えられるのは、気象が「人の暮らし」を変えたことです。
一つ目は、冷房の密室。
猛暑の夏、私たちは窓を閉め切った部屋で乾いた冷気の中に長時間こもります。
室内だけが冬になっているのです。
二つ目は、季節が逆の国からの往来。
日本の夏は南半球の冬です。
南半球からの旅行者が増えたことも、理由の一つに挙げられています。
隣の台湾でも7月ごろからH1N1が大規模に流行しています。
三つ目は、免疫の空白。
コロナ禍の数年間、マスクや手洗いで呼吸器のウイルスに触れる機会が減り、そのぶん免疫が薄れた人が増えたと考えられています。
さらに今年の主役H1N1は昨シーズンには少数派でした。
去年流行った型への備えは、今年の型にはあまり役立たない可能性があります。
猛暑はこれからも続き、人の往来も、冷房に頼る暮らしも、元には戻りません。
だとすれば夏のインフルエンザは「今年の異常」ではなく、これから何度も繰り返される「ニュースタンダード」になっていく可能性が高いと考えます。
■ 壊れているのは「身体の季節」
ここからが東洋医学の視点です。
本来、人の身体は季節に合わせて切り替わります。
夏は汗をかいて熱を逃がし、秋になると毛穴を閉じ、身体の表面を守る力を固めて冬に備える。
この表面の守りを、漢方では「門番の力」と考えます(衛気:えき)。
そして門番にエネルギーを送っているのが胃腸です(脾胃:ひい)。
ところが今年の身体は、こんな順番で攻撃を受けました。
まず猛暑。
冷たい飲み物と冷房で胃腸が冷え、門番へのエネルギーが細る。
次に長雨。
湿気が胃腸をさらに重くし(湿困脾胃:しつこんひい)、日の光が足りず、身体を温める力も落ちる(陽気不足)。
そしてこれから来るのが乾燥。
雨が上がれば空気は一気に乾き、のどや鼻という門番の最前線が直撃されます(燥邪:そうじゃ)。
本来なら少しずつ進む季節の切り替えが、極端な天気の連続で寸断されている。
身体は切り替えるタイミングを失い、門番は準備の整わないまま次の季節に放り込まれます。
異常気象のニュースタンダードとは、ウイルスの季節がなくなることだけではありません。
私たちの「身体の季節」が壊れていくことでもあるのです。
病院の検査では異常なし。
でも、なんとなくだるい、食欲が戻らない、朝起きられない。
それは、門番が疲れ切っているサインかもしれません。
■ あなたの身体の中にも「気候」はある
今年の猛暑、毎日の雨、そして例年をはるかに超える数の台風。
外の気候は、もう私たちの手には負えません。
一方で漢方には「体内の気候」という考え方があります(内生五邪:ないせいごじゃ)。
胃腸が弱れば、身体の中にも長雨が降る。
温める力が落ちれば、身体の中は冷夏になる。
潤いが足りなければ、身体の中は日照りになる。
インフルエンザが入り込むのは、外の異常気象と、体内の異常気象が重なったときです。
外の天気は変えられません。
けれど、体内の気候は整えることができます。
■ 免疫とは常時戦闘態勢ではない
「免疫力を上げる」と聞くと、身体がいつも臨戦態勢でいるほうが強そうに思えます。
でも実際は逆です。
本当に強い門番は、入ってくるものを片っ端から疑って総攻撃したりしません。
一人ひとりの顔を見分け、通していい相手は通し、本当の敵にだけ、必要なだけの力で立ち向かう。
片付いたら、すっと持ち場に戻る。
いわば「個別監視体制」です。
熱がパッと出て、パッと引くのは、この体制がうまく働いている証拠。
漢方では、このメリハリのある守りを、身体の正しい力(正気:せいき)が充実した状態と考えます。
ワクチンは、この門番にお尋ね者の人相書きを前もって覚えさせておくようなものです。
顔を知っていれば、見つけた瞬間に動けます。
ただし、どれほど正確な人相書きを持っていても、見張り役が疲れ切っていれば見逃します。
人手が足りなければ、捕まえる力も出ません。
そして人相書きは一枚ずつ。
しかも、やって来るのが人相書きどおりの顔とは限りません。
手配書は流行の前に予想で描かれるもの。
予想と違う顔のお尋ね者がやって来ることもあれば、まったく別の悪党が門を叩くこともあります。
一方、最近よく見かける「免疫ケア」の食品やサプリは、門番に「しっかり見張れ」と号令をかけるようなものです。
居眠りしかけた門番なら、号令で目を覚ますこともあるでしょう。
けれど、食べる物も足りず、人手もいない門番に号令だけかけても、疲れた馬に鞭を当てるのと同じこと。一時は動いても長続きしません。
いつも身構えて静まらない門番には、号令はかえって逆効果かもしれません。
人相書きも号令も、使うのは門番です。
結局、頼りになるのは門番自身の目と体力。そしてそれを支えているのが、あなたの体内の気候です。
この体制が崩れると、門番は二つのタイプに分かれていきます。
敵が来ても気づかない、立ち上がれない「反応しない門番」。
そして逆に敵かどうかを見分ける余裕を失い、いつまでも戦いをやめられない「静まらない門番」です。
■ 「反応しない門番」――
体内の長雨と冷夏 体内の長雨(胃腸の弱り/脾虚:ひきょ)
門番の燃料工場である胃腸が弱り、処理しきれない水分がじめじめと溜まっているタイプです。
燃料が届かず、門番が手薄になります。
かかりやすい、治りが遅い、微熱がだらだら続く。食後に眠い、軟便、疲れやすい。
舌は色が淡く、ふちに歯の跡、白く薄い苔。
今年の猛暑と長雨で、最も増えているのがこのタイプです。
体内の冷夏(温める力の不足/陽虚:ようきょ)
胃腸の弱りがさらに進み、身体を温める火力そのものが落ちたタイプです。
ウイルスと戦うための熱を上げきれません。
高熱が出ないかわりに、寒気とだるさがいつまでも続く。
手足や腰の冷え、むくみ、朝が特につらい。
舌は大きくぼってりとして色が淡く、水っぽく濡れています。
「熱が出ないから軽い」のではなく、戦えていないサインです。
■ 「静まらない門番」――
体内の梅雨、日照り、停滞前線 体内の蒸し暑い梅雨(溜め込み/湿熱:しつねつ)
脂っこい物、甘い物、お酒の処理が追いつかず、湿気と熱がこもってくすぶっているタイプです。
門番の手が内側の掃除に取られ、外の敵への対応が遅れます。
かかると重く、痰や鼻水が多く、胃腸症状を伴いやすい。
こじれやすいのもこのタイプです。
舌には黄色くべったりした苔。
ただし、湿熱に見えても本体は胃腸の弱りであることが少なくありません。
処理する力が落ちたから溜まったのです。
溜まった物を出すことだけを優先すると、土台がさらに崩れます。
どちらを先に手当てするか、この見極めが要です。
体内の日照り(潤い不足/陰虚:いんきょ)
潤いが足りず、内側から火照っているタイプです。
のどや鼻の粘膜、つまり門番の最前線が乾いてひび割れた状態。
ほてり、寝汗、空咳、のどの渇き。インフルエンザが治っても咳だけが何週間も残る、という形でこじれます。
舌は赤く、苔が少なく、細かいひびが入ることも。
赤いから元気なのではなく、足りていないから赤い。
これからの乾燥の季節に一気に表に出てくるタイプです。
体内の停滞前線(張りつめ/気滞:きたい)
ストレスや緊張で巡りが止まり、重苦しい空気が居座っているタイプです。
まさに門番が四六時中てんぱっている状態。
仕事が一段落した週末や、休暇の初日に決まって熱を出す。
肩こり、ため息、寝つきの悪さ、お腹の張り。
舌は両ふちが赤く、全体が少し硬く見え、特徴的な苔が出ます。
張りつめた糸が切れたとき、一気に崩れるタイプです。
■ 100年前の教訓:怖いのは「こじらせ」の連鎖
スペイン風邪の流行は一度では終わりませんでした。
第2波の患者数は第1波の10分の1弱でしたが、死亡率は約4.5倍に跳ね上がっています。
11人の子を持つ母だった与謝野晶子は、家族が次々に倒れる中で、こう詠みました。
冬はインフルエンザとなり/喘息となり/気管支炎となり/肺炎となりて/親と子と八人を責め苛む
一つの病気が、弱った身体の中で次々と形を変えていく。
漢方でいう「未病」が「病」に変わっていく連鎖そのものです。
医療が進んだ今も、この構図は変わりません。
どの体質も、病院の検査ではなかなか異常が出ません。
だからこそ見過ごされます。
反応しない門番は「治りかけては、またひく」をくり返し、冬じゅう疲れを引きずる。
静まらない門番は、一度かかると咳や痰、胃腸の不調が長く残る。
そしてこの状態のまま来年の猛暑を迎えれば、弱りはさらに一段深くなります。
かかるかどうかより、「治りきる力」が残っているかどうかが分かれ道です。
■ ニュースタンダードにはニューディフェンス
これからは「冬だから気をつける」ではなく、「季節の変わり目ごとに身体を点検する」時代です。
まずは、誰にでも共通する一般的な土台から。
一、冷房の部屋こそ換気を。1時間に1回、窓を開ける
二、帰宅したら、何より先に手洗い
三、胃腸を冷やさない。夏でも朝の一杯は白湯から
四、雨の季節は湿気を溜めない。冷たい物と甘い物を控え、少しでも身体を動かす
五、乾燥の季節はのどを守る。加湿と、潤す食材(梨、白きくらげ、れんこんなど)を
六、「ちょっとおかしい」で休む勇気を
・・・ただし、ここから先は人によって答えが変わります。
「のどを潤すために梨を」という養生も、体内に長雨が降っている人には、胃腸をさらに冷やします。
「温めるために生姜や辛い物を」という養生も、体内が日照りの人では、乾きを進めてのどを痛めます。
同じ「身体にいいこと」が、人によって薬にも毒にもなる。
門番が一人ひとりの顔を見分けるように、養生も一人ひとりの体内の気候を見分けて選ぶ。
それが、これからのニューディフェンスです。
■ 夏に弱り、雨で重くなった身体を、冬の前に立て直す
東洋医学が見るのは、「免疫が強いか弱いか」ではありません。
免疫の「個別監視体制」を何が邪魔しているのか、です。
体内に長雨が降っているのか。
冷夏で火力が落ちているのか。
梅雨のように内側がくすぶっているのか。
日照りで最前線が乾いているのか。
停滞前線で張りつめているのか。
多くの方は、このいくつかが重なっています。
舌の色と苔、体調、生活リズム、そしてこの夏からの時間の流れを結びつけて、何から手当てするべきか、その優先順位を組み立てます。
その体質に合わせた漢方・栄養のご提案も行っています。
あなたの身体の中では今、どんな天気が続いていますか。
流行が本格化する前の今こそ、立て直しの一番のタイミングです。
●メルマガ11月号は
・免疫ケアのサプリは?
・門番別対策
・病院で様子を見ましょうと言われたら