今年は遅い梅雨入りになりました。 

 

雨の降る道でミミズを目にされたことがありませんか。 

何故雨でミミズが地上に這い出てくるのか諸説ありますが未だに理由がわからないそうです。 

 

陶器で有名なイギリスのウェッジウッド社の創業者の娘が「種の起源」を著したあのダーウィンの母親だとは意外な結びつきです。 

ウェッジウッドの後継ぎジョサイア2世はある日甥のダーウィンに陶磁器の素となる土の話をします。 

「ミミズこそがよい土地を作るのだ」。 

ダーウィンと言えば「進化論」が有名ですが生涯最後の著書は1881年の「ミミズと土」でした。

 

数千万年~数億年もかけて風雨にさらされた岩が砂になり細菌・バクテリアや苔、そして虫・植物の死骸と水や空気が混ざり土ができます。 

この土にミミズは重要な役割を持ちます。 

ミミズが土や落ち葉を食べて出した糞は植物の栄養になります。 

ミミズのいない土は栄養がなく植物が育たず鳥も獣も近づきません。 

さらにミミズは土を固めて団子状にすることで隙間を作り雨を地面にしみ込ませることで洪水を防ぎます。 

もちろんミミズ以外の土壌動物も多く生息し、よい土には1g当たり1億個以上の微生物がいるといわれています。 

 

漢方では自然界のあらゆるものは「木・火・土・金・水」の5つに分類できるという理論があり中心には土(ど)が位置します。 

土(ど)は人体では胃腸(脾)を意味します。 

土はミミズ・細菌・微生物・植物を育む一方動植物の死骸を分解します。 

胃腸という消化器官の口、胃、腸まで菌が存在し、飲食物を消化分解した栄養素を体中に送ることで命を育み不要なものは排泄します。 

植物の育成に土が大きく関係しますが、病気も胃腸が影響することがあります。 

 

胃腸で最近再注目をされているのが腸内細菌です。 

例えば「膝痛に腸内細菌が関係している」という意外な研究があります。 

そもそも膝痛は膝関節内の炎症をきっかけとして始まるという認識が最近広がってきました。 

慢性的な炎症は膝痛を悪化させます。

 一方、腸内細菌のバランス悪化による腸粘膜の炎症は体の色々な場所で慢性的な炎症を起こすのです。 

同様に脳もうつ病、パーキンソン病、アルツハイマー病などと腸内細菌の関係が報告されています。 

これ以外に子宮筋腫や子宮内膜症、肥満・糖尿など多くの病気で腸内細菌が影響していることが判明してきてその重要性が改めて見直されています。 

このような研究は近年ヒトの全遺伝子を解明する「ヒトゲノム計画」より解析機器が進化したことで腸内細菌群のDNAが解析ができるようになったことも影響しています。 

このためある菌と特定の疾患の関係が次々に明らかになってきました。 

また個人の腸内細菌を調べるサービスも登場したり、腸の病気に腸内細菌を移植する「糞便移植」や、個人個人の腸内細菌に合わせた食事を取り入れているJリーグチームもあるそうです。 

不眠やストレス、花粉症、骨粗鬆症などの健康食品も花盛りです。 

花粉症に良いのは腸の免疫系に働くからで、ストレスや不眠はトリプトファンが関係してるようです。 

健康意識の高い方はすでに腸に良い食品を積極的に摂っておられるでしょう。 

ヨーグルト・乳酸菌飲料・納豆・漬物・(プロバイオティクス)、オリゴ糖や食物繊維(プレバイオティクス)もよいと思います。 

腸内細菌が作り出す酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸も注目されています。(ポストバイオティクス) 

 

多くの事がわかってきた反面、わからないこともあります。 

土ならミミズや他の細菌で消化分解された植物がその後放線菌・糸状菌など様々な微生物により次々と分解の連鎖が起きます。 

人の腸内も細菌から細菌へ次々に分解・変換したり、ある菌が別の菌のエサになったり別の菌の助けを借りて活動したりという共生関係があります。 

それはまるでブラックボックスのような複雑さのため、腸内細菌が産生するどの化合物がどの疾患に対応するのか特定が難しいのです。 

また腸内細菌叢は国や民族によっても違い、さらに赤ちゃんの時から帝王切開や母乳、その後の食事・環境・年齢による様々な影響で個人個人でさえ大きな違いがあるそうです。 

腸内細菌叢は悪玉菌をゼロにして善玉菌だらけにしても意味はありません。 

例えば悪玉として知られるウェルシュ菌もビタミンB12を合成してくれます。 

土なら酸性に偏った土壌は微生物も極端に少なく農業に適しません。 

ところが大豆を大量生産するためにブラジルの広大な酸性土を土壌改良したところアマゾンの水源に大きな影響が出てきたそうです。 

悪い土にも存在意義はあるということでしょう。 

 

現時点での結論は○○菌を食べたり飲んだりするというよりは多くの様々な種類の菌がバランスよく存在することが理想です。 

多様な細菌叢なら守備力も高まり、ポストバイオティクスも効率よく産生されます。 

具体的には菌のバランスを脅かす「原因」を避けることです。 

 

一つ目は「薬」です。 

農薬を土に使えば微生物がいなくなり植物の病害や生育不良を招きます。 

抗生物質も果物の木に散布されることもあります。 

人では抗生物質や胃酸を抑える薬で腸内細菌は大きく影響されます。 

抗生物質は果物だけでなく動物の成長促進剤としても使われますから薬だけでなく食事からも侵入してきます。 

 

二つ目は食事、色々なものを食べることも大切ですが現代は避けるべきものも多いのです。

添加物・保存剤・合成甘味料・(超)加工食品は腸内細菌叢にダメージを与えます。 

 

三つ目は「ストレス」です。 

腸粘膜に存在する抗体(IgA)は善玉菌を定着しています。 

ストレスを受けホルモン(コルチゾール)が増加するとこの抗体の分泌は低下してしまいます。 

ただしストレスだからとやみくもに抗うつ剤やデパスなどの西洋薬に頼るのではなく腸内細菌に影響が少ない漢方薬で対応されることがよいでしょう。 

 

ミミズには目がないので「目見えず」から「めめず」を経てミミズになったとか。 

しかし目も脳はないけど腸はあります。 

人間も受精卵から最初にできるのは腸だそうです。 

消化だけでなく大事な免疫を司る腸のコンディションは健康の大切なポイントです。 

 

●続きはメルマガ7月号で 

・ヨーグルトは必要か 

・漢方薬と腸内細菌の関係 

・コルチゾールと牡蠣 

・赤ちゃんからの腸活