今年も残り少なくなりました。

 

ある日突然めまいがグルグル回り吐き気もする、さらに難聴・耳鳴りまで出る「メニエール病」。 

あのゴッホもメニエール病だったのではないかという説があります。 

1889年に発表されたゴッホの「星月夜」という作品では星空が渦巻いて流れるようなタッチで表現されており、それがメニエール病の発作中に見た景色ではないかというのです。 

この前年にゴッホは有名な耳切事件を起こしていますが、これもメニエール病の発作に耐え難かったからとも推測されています。 

そのゴッホがフランスを訪れる25年前の1861年-同じフランスの医師プロスペール・メニエールによりこの病気の原因が「内耳の異常」であることが発見されメニエール病と名付けました。 

それまではめまいは脳から来ると考えられていましたが、発見後は逆にめまいなら何でもメニエールと診断するようになります。 

その発見から150年も経った2015年に国際的なめまい平衡医学会である「バラニー学会」で、2017年には「日本めまい平衡医学会」でもメニエール病の診断基準がようやく制定されます。 

メニエール以外の疾患も多く発見され、MRIの普及で水ぶくれも確認できるようになったこともあり、現在では「リンパ液による内耳のむくみ」が見られるめまいだけをメニエール病と呼んでいます。 

現在ではメニエール病はめまい全体の中で約1~2割を占めるだけで意外に多くありません。 

 

日本めまい平衡医学会は以下16種類のめまいを挙げています。 

-----------------------------------------------------------------------------------------------------

(前庭性-末梢性)慢性中耳炎由来の内耳障害、メニエール病、遅発性内リンパ水腫、突発性難聴、外リンパ瘻、前庭神経炎、良性発作性頭位めまい症、薬物による前庭障害、内耳梅毒、ハント症候群、聴神経腫瘍 

(前庭性-中枢性)中枢性頭位めまい、椎骨脳底動脈循環不全

 (非前庭性)血圧異常、頸性、心因性 

----------------------------------------------------------------------------------------------------- 

まず`前庭性`(平衡感覚を司る器官の原因)と`非前庭性`(前庭性以外の原因→貧血、ホルモンバランス、精神疾患、自律神経も含む)に大きく分類されます。 

前庭性はさらに`末梢性`(内耳や前庭神経の障害)と`中枢性`(脳梗塞・脳出血・てんかんなども含む)に分類されます。 

中枢性は意識障害やろれつが回らない、激しい頭痛や痙攣などがあれば生命の危険が考えられるためすぐに専門医の診断が必要です。 

末梢性めまいは中枢性より圧倒的に多いのですが中枢性と違い生命の危険はありません。 

メニエール病も末梢性に分類されます。 

 

末梢性めまいの半数を占め一番多いのが1952年に報告された「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」です。 

悪性ではなく良性で頭の位置(頭位)で発作が起きるめまいです。 

上や下を向いたとき、寝返りなどで頭が動くとめまいが起き、じっとしていると30秒以内で止まる、何度も頭を動かしていると軽くなる等の症状があります。 

原因は「耳石」で、まず耳の奥(内耳)にある「三半規管」の根元あたりに「耳石器」という器官がありその中に「耳石」と呼ばれる小さな粒が数百~一万個ほどあります。 

その耳石の一部が剥がれ三半規管に侵入することで発症します。 

三半規管は三つの半規管がそれぞれ90度の角度で傾き、前後・左右・上下の三次元空間と回転を感知しています。 

上下の半規管に耳石が入ると上や下を向いたとき半規管を満たしている内リンパ液が動き神経(クプラ)がその動きを感じ取ってめまいが起きます。 

クプラに石が引っ付いて起こるケースもありその場合は治りにくくなります。 

発作時の眼球の特有の動き(眼振)を見ることでこの原因部位が確定できます。

(眼振は三半規管か脳に原因がある場合のみ出現します。) 

病院では耳石を正常な位置に戻すために特定の頭位を取る治療法(エプリー法など)が推奨されます。 

 

16種類以外の診断が付かないめまいも多く、その中の一つが2017年に定義された「持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)」です。 

ほぼ毎日、しかも一日中ふわふわしたりふらつくめまいが長期に続く深刻な症状で30~50代の壮年期に多く発症し、現時点では抗うつ薬が有効とされています。 

このようにめまいとは最近になってもまた新しい病名が出てきたり、すでにわかっているものでも真の原因について議論があります。 

またそれぞれの治療法も有効な場合と無効な場合があり完全制圧できていない病気です。 

 

例えばメニエール病の治療は重曹や安定剤の点滴、利尿薬、内耳の循環改善薬の他、ビタミンB12製剤、抗うつ薬、ステロイド注入、中耳加圧治療、抗ウイルス剤などがあります。 

また内耳に水ぶくれができるのは抗利尿ホルモン(バソプレッシン)が原因であることから、逆に水分を摂取することでこのホルモンを抑える「水分摂取療法」もあります。 

これらに加えてめまい外来の専門医でも漢方薬を処方します。 

例えば「半夏白朮天麻湯」は体に水が溜まったり偏在しているとき(水毒)に使いますので内耳のむくみであるメニエール病に効果的です。 

この漢方は胃腸機能をよくして水分を排泄し、ストレスにも対応する生薬も含んでいてよい処方です。 

それでも効果が出にくかったり再発することもあります。 

それは水毒だけではない原因があるからです。 

 

例えば半夏白朮天麻湯タイプはそもそも肩や首のこりが強いことが多い(肩背拘急)ですがそれが異常に強い場合には効果が追いつかない場合があります。 

さらにコリが血行不良(→例えば椎骨脳底動脈循環不全)を招いていることもあります。 

また水毒の期間が長いとそれが熱化して頑固になっていることもあります。 

さらには血圧異常、頸性、心因性(非前庭性)の他、糖尿病、骨粗鬆症、不整脈・心臓病、片頭痛、耳鳴、また更年期・加齢性・フレイルは長引いたり再発が起きる要因です。 

それぞれに対応する漢方薬を併用することで効果が出てきます。 

要するに水ぶくれや耳石だけではなく患者さんの体質・病状・背景を考慮することが大切で、そういう意味ではめまいは全身病だと言えます。 

 

めまいが効能に記載されている医療用(病院で処方される)漢方薬は半夏白朮天麻湯の他に苓桂朮甘湯、五苓散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、女神散、半夏厚朴湯、茯苓飲合半夏厚朴湯、柴朴湯があります。 

効能にめまいがない呉茱萸湯、加味逍遥散、釣藤散、柴胡加竜骨牡蛎湯、真武湯、黄連解毒湯、抑肝散、七物降下湯なども選択候補です。 

医療用にはない漢方薬局だけにある漢方薬でさらに対応できる範囲は広がります。

 

●続きはメルマガ1月号で

・めまいの漢方的分類
・ヘルペスウイルスとササヘルス
・めまいと光線