「葛根湯医者」という落語話があります。 

頭痛にも腹痛にも足の痛みにも、挙句の果てには付き添いの人にまで葛根湯を出すお医者さんの話です。 

笑い話ですが実は「葛根湯」は多くの効果があり漢方薬の中では一番有名な処方です。 

あらためて葛根湯はどんな薬なのでしょう。 

 

記載されている効能・効果は基本的には「感冒・鼻かぜ・頭痛、発熱、悪寒、肩こり」です。 

しかしこれとは別に製薬メーカー毎に様々な記載がされています。 

具体的には結膜炎、角膜炎、中耳炎、蓄膿症、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ腺炎、神経痛、湿疹、蕁麻疹、筋肉痛、手や肩の痛み、偏頭痛などです。 

これらの症状は一見脈絡がなく本当なのかと思われるでしょうが「上半身の炎症をとる」のが葛根湯です。 

結膜炎、角膜炎、中耳炎、乳腺炎も上半身の炎症です。 

風邪の有無に限らず肩こりや頭痛にも効果があります。 

条件が合えば尿失禁にも使用することがあります。 

同じ薬で違う病気を治すことを「異病同治(いびょうどうち)」と言いますが葛根湯は特にその能力が高い便利な漢方薬です。 

 

葛根湯が最も使われるのは風邪です。 

風邪は西洋医学ではウイルスに感染したとき体内で起きる反応をこう説明します。 

発熱を促す物質(プロスタグランジン)が分泌され【発熱】し体温を上げることでウイルス増殖を抑えつつ免疫システムを発動してウイルスと戦闘開始します。 

【のどの痛み】は戦争によって分泌される炎症物質(サイトカイン)によって引き起こされ、ここでもプロスタグランジンが痛みを発生します。 

のどに白血球などの免疫細胞が集結するため毛細血管が拡張することで熱を持ち赤く腫れます。 

鼻粘膜に付着したウイルスを排除しようとして分泌されたヒスタミンが【くしゃみ・鼻水】を発症させ、毛細血管を拡張することで鼻粘膜の腫れ=【鼻づまり】が起きます。 

気道粘膜に炎症が起きることと脳の咳中枢が刺激されることで【咳】が出ます。

また炎症により出る【痰】を排出する目的もあります。 

この時処方される解熱剤のロキソニンはプロスタグランジンを抑え、アセトアミノフェンは脳の体温調節中枢に作用すると考えられています。 

のどの痛みや腫れには抗炎症薬トラネキサム酸、鼻炎に抗ヒスタミン剤、咳には咳中枢を抑制するデキストロメトルファンなどで各症状を抑えます。 ※(参照:新型コロナウイルスと薬

 

これに対し東洋医学では、体内に流れる「気血水」が立ち往生したり違う場所に流れたりして症状が起きると説明します。 

最初に邪気(風邪や寒邪)が体表に侵入します。 

インフルエンザ、デルタ株、オミクロン株、今後出てくる変異株も全てみんな邪気です。 

寒邪が体表に入り込むと悪寒が生じ、皮膚を収縮させて汗腺が開かず汗が出ません。 

首や肩からは侵入されると筋肉が収縮してコリます。 

※侵入しやすいツボ→風門(風が侵入してくる門)、風池(窪んでいて風が溜まりやすい)、風府(風が集まりやすい所) 

邪気に対し抵抗力(気)を体表へ動員しますが邪気とにらみ合いになり体表の下で停滞し、それがだんだん鬱滞して発熱が起こります。 

鬱滞した熱により筋肉や骨に水や血が流れず渋滞するため身体や関節に痛みがでます。 

くしゃみ、鼻水、のどの痛みは「粘膜」においてやはり渋滞が起こるため。 

停滞して行き場を失った気が上昇すると肺で咳、頭で頭痛となります。 

この時葛根湯を温かいもので服用すると発汗して体表の邪気を追い出すことで全ての症状が消失します。 

これ西洋医学から見ると意味不明言語不明瞭ですが、これと似た作用機序の麻黄湯は実際インフルエンザにタミフルと同等以上の効果があるという報告もあります。 

体を冷やす解熱鎮痛剤と違い葛根湯の解熱は爽快感があります。 

 

なお葛根湯の副作用に「食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐」という記載があり胃腸に悪いのではないかと言われることがあります。 

これはある成分(麻黄)が原因ですが、胃腸を守り気を生成する成分(甘草・生姜・大棗)もちゃんと入っているので、よほど胃腸虚弱な方以外は大丈夫、むしろ胃腸にもよいとさえ言えます。 

これも葛根湯が広く愛される理由です。 

 

ところがある漢方メーカーさんが発表する漢方薬売上げランキングでは、今までずっと一位で不動のセンターだった葛根湯を抑え2021年・2022年とも肥満に効果がある「防風通聖散」がトップだったそうです。 

理由は自粛による「コロナ太り」が影響したのではないかということです。 

漢方薬はそもそも感染症を抑え込むために考案されたものです。

 (防風通聖散ものどが痛む風邪に使うことがあります。) 

報道にはなかなか出てきませんが、実際コロナ発生直後から漢方薬は使われていました。 

そして昨年末から第8波にかけて解熱剤とともに漢方薬も品切れが目立つようになり最近はそれがかなり多くの処方にまで及んでいます。 

※(参照:ツムラ漢方製剤エキス顆粒(医療用)の供給に関するお知らせとお詫び

※参照:(新型コロナウイルスと漢方薬

 

当店は葛根湯も含め繁用処方は十分備蓄しておりますが、もうしばらくは医療機関で品切れが続くかもしれません。 

ここ最近のコロナのご相談は今までで一番多いです。 

当店では自宅療養セットもご用意していますが、夜中に急に寒気がして発熱したとき、病院が見つからないときに漢方薬を2~5日分だけでも備蓄しておかれるとお役に立ちます。 

当店から漢方を送ると一日かかりますのでそれまでのつなぎになります。 

ただし備蓄する漢方は葛根湯とは限りません。 

邪の特徴と患者さんの体質を合わせて、その方に合う選択が必要なところが漢方薬のむずいところでもあります。 

体表に邪気があっても汗ばんでいたり、発熱・悪寒や関節痛がかなり強い時、邪気が体表から奥(裏)に侵入していった時は葛根湯ではなく別の漢方薬になります。 

反対に胃の気が強力な方なら薬を飲まなくてもうどんやたまご酒だけで発汗して治ります。 

それを見極めたうえで最適な漢方薬をご用意しておりますのでご相談ください。 

 

●続きはメルマガ2月号で 

・最近のコロナの傾向 

・あなたが備蓄すべき漢方薬は? 

・粉末が飲めないお子様には?