ようやく虫の声が聞こえるようになりました。

 

国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」は夜に肉眼でその光を観測することができます。 

すーっと移動する光は約90分に1度地球を一周しています。 

この速度は1日に約16回に日の出と日没があることになります。 

すると宇宙飛行士に睡眠障害、ホルモン分泌の乱れ、ストレスや不安感などの体調異変が起きてきます。 

これは地球の自転による一日のサイクルに体が慣れてしまっているからです。 

このためきぼうの飛行士は「薬物療法」と「光療法」で体を調整しています。 

薬物療法では眠くなるホルモン(メラトニン)を寝る前に服用することで夜を作ります。 

光療法では光を照射してメラトニン分泌を抑制して覚醒させることで昼を作ります。 

 

日の出で目が覚め日没とともに眠るという生活を人類は数百万年の間続けてきました。

 人間だけでなく地球上の動物、植物、そして細菌まで地球上の生物のほとんどにこの一日のリズムが根付いています。 

これを「サーカディアンリズム」と呼びます。 

そして脳から自律神経やホルモン(コルチコイド)を介して全細胞(精子・受精卵は除く)をコントロールする「体内時計」が存在しています。 

また細胞側にも体内時計を支える「時計遺伝子」が存在します。 

この体内時計は「光」によって常に調整されています。 

 

1879年にエジソンが白熱電球を発明してから夜が明るくなりました。 

その約百年後、1998年には環境省の「光害対策ガイドライン」が策定されます。 

光害(ひかりがい)とは照明の過剰な使用による明るさによって生態系に悪影響を及ぼすことです。 

例えばウミガメの赤ちゃんは生まれてすぐ海に反射する月の光を頼りに海へ向かうのですが、月明りと間違えて浜辺の街灯がある内陸に向かってしまい車にひかれてしまうことがあるそうです。 

同じ昆虫が方向感覚を失ったり、交配できない、成長や発達、繁殖に悪影響を及ぼすといった報告もあります。 

人も知らない間に大きな影響を受けています。 

集中力や判断力の低下や、うつ病や肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病のリスクを高め、さらに心筋梗塞、脳卒中、不妊症との関連も指摘されています。 

 

病気までではなくとも、学生が深夜コンビニにたむろして妙に頭が冴え睡眠リズムが崩れ遅刻や不登校の要因になるという指摘もあります。 

ではどの程度の光から影響が出るのでしょう。 

光の程度を著す単位は「ルクス」ですが、晴天の太陽の下では約10万ルクスに対してコンビニの店内は1000〜2000ルクスしかありません。 

しかし本来暗くあるべき夜ではこの程度でも影響が出ます。 

メラトニンの分泌は一般的に30ルクス以上の光で抑制され始め100ルクス以上ではより顕著に抑制されます。 

 

さらに1993年には青色LED(ブルーライト)が登場します。 

スマホの画面は約200〜500ルクスですが「ブルーライト」を含んでいます。 

実は宇宙飛行士の光療法にもこのブルーライトが使われます。 

何故ならブルーライトの波長が380~500ナノメートルでありメラトニンの抑制には480ナノメートル付近の光が最も効果的だからです。 

要するにブルーライトで脳(視交叉上核)が昼と判断しメラトニンの分泌が抑制され眠気がなくなるわけです。 

今やスマートフォンだけでなくテレビのバックライトやイルミネーションや信号機にもブルーライトは使われています。 

ブルーライトにも「視力低下」「老化促進」「うつ」などに関する研究があるそうです。 

 

交代制勤務者(シフトワーカー)や昼夜逆転した方は太陽光を浴びず人口光に晒されることになります。 

2019年にはWHOの機関である国際がん研究機構(IARC)から「夜間のシフトワークは発がん要因である」と公表しました。 

ちなみに光が影響しない全盲の人はがんリスクが低いという研究もあります。 

これは光が網膜に届かないとメラトニンが増え、その抗酸化作用ががんリスクを低減する可能性があるからです。(ただし明確な結論は出ていません。) 

「がん」は、DNAが何らかの原因で損傷することで生じますが、細胞のDNA合成は日中に盛んで夜間には落ち着くという「日内変動」がみられます。 

そしてがん細胞の日内変動は正常細胞のリズムとは異なっています。 

この日内変動は体温、血圧、ホルモン分泌や、腸・肝臓・腎臓などの臓器の活動にもあります。 

朝、臓器が活発になりはじめ日中には血圧が上がり夕方は体温が上がり夜には尿量が多くなり真夜中に成長ホルモンが分泌されるといったことが繰り返されています。 

日内変動は免疫システムにも存在します。 

小児期に虐待を受けると大人になってからうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、さらにがんや心疾患などのリスクが高まることは知られています。 

この原因について、免疫系(炎症性サイトカイン)の本来ある日内変動幅が少なくなることで「(慢性炎症) 」状態が続くためであるという研究があります。 

これは慢性炎症疾患や自己免疫疾患に影響を与えていると考えられるそうです。 

免疫機能の日内変動により感染防御能力は朝方~正午くらいまでが高く夜には低くなります。 

これは昼行性の人類は朝から日中に活動するため、この時間帯は病原体に接触するリスクも高いので免疫もこの時間帯に活発化すると考えられています。 

最近は免疫機能が落ちる夜コロナウイルスに感染すると、昼に感染するよりも重症化リスクが高くなる可能性が指摘されています。 

またコロナワクチンなどのワクチンも午前中に接種した方が、午後に接種した時よりも高い抗体力価が得られることが報告されています。 

このように体内時計による日内変動を分析・利用することで近年、薬(喘息、高血圧、抗血栓薬、高脂血症、抗ウイルス剤、抗がん剤)を服用するタイミングで効果や副作用がどう変化するかをみる「時間薬理学」が注目されています。 

 

これに対して東洋医学では二千年前から「人間は季節・気候の変化に順応すれば健康を保つことができる」と考えていました。(天人合一) 

時間薬理学ができるはるか昔に、西洋医学よりさらに細かく体内の気血は1日24時間を2時間ずつ12分割した時刻でそれぞれに対応する臓腑を順番に巡り流れているので、その特徴を生かして養生するとより効果的であるとされています。 

この点について今後、西洋医学的視点から証明されていくのかもしれません。 

 

一日を規則正しく生活することはとても健康にとって大切なことですね。 

特にお仕事でシフトワーカーの方については、夜勤明けの睡眠の質を上げることです。 

ぬるめのお湯での入浴、暴飲暴食を避け少しでも深い眠りにつきましょう。 

メラトニン系の睡眠薬を処方されている方もあると思いますが日中に眠気が残るなど問題がある場合は漢方薬の利用も効果的です。 

 

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・シフトワーカーや時差ボケの漢方

・昼夜逆転の漢方 

・コウケントーは朝?夜?