いざオールコールへ

真っ暗な店内に眩しいライトが散らかります。

爆音のBGMに乗せて、店の奴らが卓の前に全員集まってきました。

オールコール専用のダンスから始まります。

そして待ちに待ったシャンパンコール

(俺はいつも、シャンコをする側だったなあ)

と若干感動しつつも緊張していました。

エノテークを開栓。

 

いよっっっしゃーああああああいいい!!!!

 

店の奴等もいつもよりかなりハイテンション。

特に売れてない同期の奴等。

売れてない者同士。一緒にビラや掃除を頑張ってきました。

そんな仲間が一本のビラからオールコールを実現できたのです。

「カイジが利根川を破った時」みたいな心境だったと思います。

 

夢がある

 

マイちゃんのエノテークで皆幸せです。

そしてマイクでのコメントが回ってきました

僕「本当にありがとう!ありがとうしか言えないわ!(途中忘れた。多分スベってた)とにかく本当にありがとう!」

と”THEビギナーホスト”のようなマイクコメントを終えます。

続いてマイちゃん

マイ「今日はオールコールしたいなと思ってました。半分以上陽介さんのおかげだよ。陽介さん大好きまた着いてね!」とほぼ陽介さんへのメッセージ。(ここで謎の陽介コールが沸き起こる)よーすけ!よーすけ!

陽介さん:そんな事ないよ!(ここでは控えめな陽介さん。人のコールでは決して出しゃばらない)

マイ「あと、今月ケイトはやるから、皆んな見ててね!」

 

 

いよっっっっっっっっっっっしゃああああああいいい!!!

 
 

と店が1番盛り上がった瞬間です。

この雰囲気で”攻めのスタイル”のマイちゃんを見るとこっちまで興奮してきました。

終始ビギナーホストとしてコールを楽しみながら満足感に浸ってました。

 

コールは終わり陽介さん来客の為、離席。

コール後は、店が混んできたのでヘルプが間に合わず、マイちゃんと2人きり。

それにしてもめっちゃ楽しかった。

 

なんだか何も成し遂げてないのに、何だろうこの高揚感。

店のメンバーも盛り上げてくれて感謝でした。

そして何より”経験したことのない体験”に心臓がバクバクいってました。

マイちゃんと二人の時間は酔いに任せて、騒いだりふざけたり、途中かなりキツめの下ネタを言って引かせたりと、内容盛りだくさんであっという間に時間が過ぎました。

 

トイレへ行くと陽介さんがいました。

お礼を言う僕。

 

陽介さん「いやいや!マイちゃんが凄いんだよ!俺はいつも通りだし、なんとなく最初から”マイちゃんが大金使いに来てるってわかってたから”。 てか今日もしかしたらラッソンあるんやない?」と。

僕はこの時点でラッソンを歌った事がありませんでした。

 

もしや、、!!!

 

時刻は23:00過ぎ。L.Oまでは50分ある。

ワクワクとドキドキを交えて、卓に戻りました。

 

僕「マイちゃん、もしかしたらこのままいけばラッソンあるかも!」

マイ「そうだったら嬉しいね!」

僕「今日は、どこの卓もそんなに騒がしくないからマジであるかもな〜」

そんな事を話してると更にテンションが上がりお酒のピッチも上がっていきました。

何よりマイちゃんが楽しそう。

(最後まで気を抜かず頑張らないと

と、その時、突然店の照明がガンっと全消灯しました。

そして、オールコールの曲。

 

 

まさか。

 
 

マイちゃん「あーあw」

僕「‥(まじかよ)。ちょっとシャンコ行ってくるね」

 

公開処刑

No. 1の卓でオールコールが始まりました。

全員No. 1の所へ集まります。

 

シャンコ「なんと!なんと!なんと!No. 1 セツナさんのテーブルより!!

ドンペリエノテーク1発いーーただきましたー!!!!」

僕(エノテークか・・セツナさんがエノテークとは珍しいな・・)

 

No.1のセツナさんは基本的に「飾りボトル」が多いタイプだったのでシャンパン自体が珍しかったのです。

そんな事を考えていると、王子のコメントに。

 

ここから、いい意味でも悪い意味でも、ホスト人生序盤で貴重な体験をすることになります。

 

セツナ「ど素人が、初めてのオールコールで調子に乗ってたんで、姫にお願いしましたー!最高〜!」

僕「、、、?」

セツナエース「いや、そんな酷いこと言わないでw でも、私もムカついちゃったんで入れちゃいました〜

苦笑いするホスト達

 

 

あーこういう感じね。さっきのコールで彼らを怒らせちゃったわけね

 
 

このNo. 1セツナは。僕より年下で結構調子に乗ってるタイプでした。

人間性はともかくめちゃくちゃ売り上げがあるので発言権があり、店の中心人物である事に間違いはありません。

 

営業スタイルは「完全本営」。お客さんは信者客が多く”右向け右”状態です

代表「セツナ!(手でバッテンのポーズ)」さすがに他客を煽るコメントは店的にNGです。

舌をペロッと出すセツナ(これで許されるくらい店が彼には甘かった)

 

シャンコのメインもこの発言にはどうする事も出来なくなり「さーーすがだーーーぜいぜいぜーーい!!」とアドリブで乗り切っていました。

人のシャンコ中は例え何があっても余計な事はしてはいけません。

主役は”姫と担当”です。

 

そんな中、マイクが2ターン目にいった時、陽介さんが僕の後ろに周り身体を押さえつけてきました。

僕「な、なんすか?」

陽介さん「おい、抑えろよ。マイちゃんのトコ後でまた着くから。とりあえずキレたりするなよ」と。

僕「はい・・(さっきの事か。いやこれくらいじゃ怒らないよ。相手No.1だしさ)」

マイク2ターン目。再びセツナにマイクが

セツナ「姫!ありがとうね♡ただエノテークくらいなら俺のエースなら普通だからな。分かってんのかお前?」

オラついてるのか感謝してるのか、なんのキャラなのか不明ですが、とにかくそれで姫は喜んでました。

更に続きます

セツナ「このまま終わったらこの店のレベル疑われるので、姫に聞きまーす!もう一本もらっていいすかー?」

シャンコ隊「おおおーーーーーー!!!!!」

(サッカーの試合とかでサポーターが手をブラブラさせるやつ)

僕「、、、」

セツナエース「煽られましたー!でも今日はムカつくからいいよー!」

シャンコ隊「いよっっしゃあああああ!!!!No. 1No. 1No. 1!!!」

 

 

っっっっうぜーーこの茶番。

 
 

最初からそのくらい行く気だった癖に、こちらのメンツを潰す為だけに敢えて

普段入れないエノテークを2本”いれて煽ってきやがった。

 

普通のオールコールではしゃぎやがって。的な感じか?

こんなに腹が立つ瞬間はない。赤っ恥をかかされた。今までの時間を鼻で笑われた気分だ。

そして何より、このときの僕はマイちゃんがこれを機に切れてしまうと感じていました。

 

「あんな店に行きたくない」って言い出す事が何より怖かったのです。

 

こんな中で公開処刑されて。

僕なんかより、はずかしめを受けているのはマイちゃんです。

 

陽介さんの力が強くなる。

陽介さん「ここで殴ったら、お前が悪いで終わる。ホストなら売上で見せるしかない。もう俺は止めたから、それでも殴りたいなら殴ってこい。」

耳元で僕にしか聞こえないVOLで話し続け、パッと手を離す陽介さん。

 

最後に

陽介さん「優先順位を考えろよ」そう言い残しシャンコ隊最前列まで移動してしまいました。

 

同期も皆も僕の事を心配そうに見つめてました。

無言で肩を叩かれたり、落ち着けのポーズを取られたり。

今思えば、陽介さんの”先回りエスパーフォロー”がなかったら、卓に突っ込んで奴を殴ってたのかもしれません。

この人展開が読めてたのかな。少し冷静になりました

 

僕は、陽介さんの真逆でシャンコ隊の1番後ろまで移動。

マイちゃんの様子が気になり仕方ない。

そして、恐る恐るマイちゃんの様子を伺います。少し離れた向こうの卓から

 

 

腕組んでこっちをガン見

 
 

(うわ、、これはどういう感じなんだ、、)

その後もシャンコではご機嫌なセツナのDQNコメントが止まりません

 

「歌舞伎町にセツナって名前は沢山いるけど、俺が1番イケメンな事は間違いない」

「この店で不動のNo. 1は俺だけ。お前らは全員お飾り」

「どーせ今月も俺がNo. 1だからせいぜい頑張れ」

 

止まらない中二病

 

人をこれだけ舐めてる奴も珍しいなと。

マイちゃんは相変わらず目線を外さずこちらをガン見。

周りのお客さん達も、マイちゃんをチラチラみます。

公開処刑された後の様子を見たいのですから

マイちゃんは微動だにせず、腕を組んだままです。

長いことホストやってて、腕を組んで卓をガン見する女性はマイちゃんが最初で最後となりました。

長かったDQNコールが終わり、慌てて卓に戻ります。

 

 

清々しい程、ケンカを売られる

 

僕「ゴメン、気分悪いよね」

マイ「うん。物凄く。」

僕「帰る?」

マイ「帰らない。」

陽介さん「マイマイ、俺からもゴメンよ。」

マイ「陽介さんもケイトも悪くないよ。私もエノテークくらいではしゃいでごめんね」

 

本当は泣きたくなるくらい恥ずかしかっただろうし、”金返せレベルの店の失態”と言ってもいい出来事です。

今思えば、あんなNo.1を怒れない店はクソ店です。

 

そんな中、自分の感情を抑えて”大人の対応”が出来る彼女は流石です。

そんなマイちゃんに陽介さんが深々と頭を下げます。

店を代表して、No.1の発言を謝罪します。

 

マイちゃんも陽介さんの立ち位置を分かった上で

「もう大丈夫だから」と笑顔で、水に流そうとしてくれようとしてくれてました。

確かにホストの世界では、客同士の「煽り合い」や「潰しあい」はよくあることなので

マイちゃんは”こういう場では、こうゆう事もあるか”と必死に終わらせようとしてるように感じました。

そこへなんとセツナがやってきました。(代表から謝って来いと言われたらしく渋々)

 

陽介さんが一瞬キレた目をしたのが印象的でした。

僕「なんすか?」(こちとら顔ブチギレ)

セツナ「あ、すいません姫!ちょっとパフォーマンスでやっただけなので!気にしないでください!」

マイ「面白いパフォーマンスだったよありがとう!」キレ隠しの笑顔

セツナ「良かったらこちらももう一本いれてください!」

陽介さん「おい、お前酔いすぎだろ」

(ホストは他キャストに失言があった場合、酔いすぎだと言って姫にフォローするパターンが多い)

こいつは謝りにきたのか、感情を逆なでにきたのか不明すぎます。

マイ「ゴメン、もうお金ないから無理なんだ!」

これ以上こいつに付き合うのはめんどいから終わらせようって感じに見えました。

セツナ「あーまじすか(笑) 

じゃあまたいつかオールコール頑張ってください

 

そう言い残し、ペコっと頭を下げて自分の卓に戻るセツナ。

唖然とする僕。

 

真顔で天井を見上げる陽介さん。

マイ「、、、」

そこへし、失礼しま〜す。

ラストオーダーのお時間ですが、他にご注文はよろしかったでしょうか、、?

天才的な間の悪さでLO回収しに来る内勤。

陽介さん「・・・・・。 お前さ。”よろしかったでしょうか?”って日本語おかしいから直せって言ったよな?」

と、タイミングの悪さに対して、遠回しに怒りをぶつける陽介さん。

内勤「あ、ひゃい!す、すいません!あ、あの、そ、それでラストオーダーなんですがぁ、、、」直立不動のハゲ内勤

ポンコツすぎて、見てられなかったので早くこの空気終わらせようとする僕

僕「もう、何もありま」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マイ「じゃあ皆さん、LOはビール2セットで”よろしかったでしょうか?”」

こちらの状況を察してボケてくれるマイちゃん。

僕・陽介さん「・・・あ、ありがとー!!」

何事もなかったようにまた飲み始めるマイちゃん。

ありがたい・・・

店内ではラッソンが始まります。もちろんセツナ。

愛のかたまりをドヤ顔で歌ってました。裏声がキモかった印象です。

なぜかマイちゃんはハイテンションで飲みまくってました。

 

ごきげんよう

お会計がきました。

マイちゃんのお会計は55万円。僕は初めてそれが凄い事だと現金を見て改めて思いました。

封筒に綺麗にいれられたお金を伝票に挟み僕に渡すマイちゃん。

 

僕「本当にありがとうございます」

マイ「今日は色んな意味で凄く楽しかった!帰る!」

マイちゃんは帰り際、本当にあっさり帰ります。

送り出しの準備を済ませ、マイちゃんと共に出口に向かいます。

image

出口付近にはセツナのエース卓がありました。

セツナのエースがマイちゃんを確認し、こちらを茶化すように何やらヒソヒソ話をし始めました。

こいつら最後までうぜーな。

若干イラっとしながらも、シカトして進もうとするとここでマイちゃんがセツナ卓の前で立ち止まりました。

え?何すんの?店中が彼女に注目します。

内勤も慌ててキャッシャーから出てきました。

喧嘩になる!!!!!!

マイちゃんは、セツナエースにすっと頭を下げました。

髪をかき上げながら顔をあげると、ニコニコしながら一言

「ごきげんよう」

と言い放ち颯爽と出口へ。

ポカン顔のセツナとエースの尻目に、満面の笑みでマイちゃんは僕の手を握り店を出ました。

店中がシーーンとしたことをハッキリ覚えてます。

続く