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ラテン系企画マンの知恵袋

ブラジル仕込みの企画マンから書評、講演、実体験等、
最新のビジネスシーンから情報更新していきます!
(なお、本ブログは個人の責任で書いており、所属企業とは無関係です)

あのミゲルくんを起用した「消臭力」CMの仕掛け人、エステーの宣伝部長、鹿毛さんの処女作です。

私は鹿毛さんの講演を2回聞いており、だいたい知っている内容だろうなぁと思いつつ読み始めたら、あっという間に引き込まれ、一気に通読してしまいました。そういえば、2回目の講演の時も同じ感想を持ったなぁと思いつつ。要するに内容的には重複しつつも、毎回新たな発見があり、そして常にエキサイティング。特に講演を聞いたことがある方なら、あの「鹿毛節」で実際に語りかけてくるような感覚を覚え、深~く共感できる1冊です。

ちなみに、鹿毛さんはプレゼンの達人でもあり、内容の面白さもさることながら、間の取り方、目線の配り方、トーンの強弱のつけ方等々、とにかく一瞬にして鹿毛ワールドに引き込まれてしまう。一度、とあるマーケティングセミナーで鹿毛さんのすぐ後に講演したことがあり、本当にやりにくかったのを想い出します(笑)。

本書の副題は「ヒットCMを生み出すエステー式究極の発想法」。ただし、これを額面どおり期待して読むとその答えは書いてありません。内容を要約すると、「現場で五感を研ぎ澄まし、お客様視点でとことんまで考え尽くし、常識を疑い、自分の信念に従い、まわりを巻き込み、全力で行動する」ことがヒットを生み出すアイデアに繋がるという話。

こう要約してしまうと、あたりまえのことですよね?

でも、それが現実。「ヒットの法則」は、本1冊読んだくらいで手に入る生易しいものではない。あたりまえの原則を、どれだけ徹底的にやれたのか?、どれだけ深く考え抜いたのか?、どれだけ場数を踏んだのか?その蓄積が大きな成果に繋がる。本書はそのひとつのお手本だと思います。

つまり、本書を通じて、鹿毛さんがどのような状況でどのように考え抜いたか?どのように行動したか?どう危機を乗り越えたか?を追体験する。自分が当事者になったと仮定して、自分ならどうするかを一緒に考える。そういう読み方をすることで、初めて読者の「知恵」の一部になる。

なので、「奇策こそ王道だ」「上から目線になるな」「コンセプト、インパクトは使用禁止」「オリエンシートは書かない」「広告会社に事前予告なく乗り込む」等々の断片だけ切り取って真似しても意味がありません。それらの思考・行動に繋がった背景をよく理解し、コンテクストの中で解釈することで始めて活きてくるのです。

現場で五感を研ぎ澄まし、お客様視点でとことんまで考え抜いた結果、「部屋一面消臭」「つけっぱなし安心設計」というキラーコピーが生まれ、ミゲルのアイデアを思いつき、ミゲルを見つけ出し、西川貴教とtwitterで出会う、等々。成功に導くキラーパーツに繋がっていく。そんな中、ミゲル収録の舞台に選んだリスボンが偶然にも過去に津波の大被害にあった街であったことが判明する等、まさに「導かれる」としか言いようのない幸運にも恵まれる。

本書の中で、良いCM作りは「想い」×「企画」×「制作」であるというところは、特に共感しました。広告会社にオリエン(発注)する前に、きっちり「想い」を固める。発注者である社長の「想い」を徹底的にヒアリングする。そのプロセスを経て「企画」の骨子、外してはいけないポイント、超えてはいけない一線を明確にする。そして、「制作」の部分はプロに任せきる。ただし、油断すると「想い」から乖離した「企画」「制作」になってしまう。従って、常に「想い」を関係者間で繰り返し徹底することが宣伝部長の重要な役割であるのだと。

本書にもありますが、一見すると、エステーの広告は自由でクリエイター冥利に尽きると勘違いしてしまう。でも、限られた予算で成果を出さなければいけないという制約条件の中から生まれた戦略であり、常に「ストライクゾーンぎりぎりに玉を投げ続けなければならない」という試練なのである。「奇策こそ王道」とはそういうことなのです。

「ストライクゾーンぎりぎりのボールを投げ続ける」ことを可能にしているのは、もちろん鹿毛さんご自身の不断の努力があるのは大前提なのですが、鹿毛さんの雇い主である「社長の懐の広さ」も欠かすことができない重要な要素。ある広告で身障者の方の心を傷つけてしまい、社長に謝罪した際に言われたひとこと。「わかった。おまえは反省するな。お前はギリギリのボールを投げ続けて、これまで成功し続けてきたんだ。反省したら、もうボールが投げられなくなる。いいな?」。こう言われたら、「一生、この人について行こう」と思いますよね?

最後に、本書のもうひとつの見どころ(読みどころ?)は、鹿毛さんの前職である雪印時代のエピソード。食中毒事件後に立ち上がった「雪印体質を変革する会」、および集大成である「謝罪広告」の話は、当事者にしか表現できないリアリティで描かれています。そして、その極限状態で学んだ「真のお客様視点」が、今の鹿毛さんの作品に活かされていることは、私が説明するまでもありません。

本書は「広告クリエイティブ」をメインテーマに描かれていますが、「熱い想いを持って仕事をしているマーケター」、いや、「熱い想いを持って仕事をしているすべてのビジネスパーソン」にとって深い共感と感動を与える1冊と思います。ご一読を強く推奨いたします。

愛されるアイデアのつくり方/鹿毛康司

¥1,470
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連休前ですが、エルネットの行動観察推進部長、越野氏の講演を聞いて参りました。

行動観察とは、「現場の事実からの気づきを根拠立てて解釈する」ことで、潜在的なニーズ、リスク、スキル等を抽出するマーケティング手法。従来の市場調査やマーケティング活動で前提とされている「生活者の思考プロセスは合理的である」「生活者は自らの思考プロセスと行動を言葉で説明することができる」等は、実は正しくない。「自分で気づいておらず、言葉にできない」潜在領域が人間の意識には存在するというという考え方に立脚したのが行動観察のアプローチとなる。

行動観察には「人間工学」「エスノグラフィー」「環境心理学」「社会心理学」「しぐさ分析」「表情分析」の6つの学問的アプローチがある。エスノグラフィーは元々、文化人類学の手法で、長期間に亘って観察対象の部族を研究したことに端を発する。それが、観察対象の家庭や職場に赴き、言葉や写真だけではわかりにくいその場の雰囲気、文化、習慣などを探るというマーケティング手法に応用された。また、特別な訓練を受けたしぐさ分析のプロは、以前あった嫌いなものをあてるテレビ番組などは、ほぼ完璧にあてることができる。

すべての手法がそうであるように行動観察も万能ではない。実際は、インタビューやビデオと併用することで、より効果が高まる。観察で得られた「事実」「ファインディングス」を元にインタビューを行うことで、「背景」や「気持ち」を補強する。

行動観察から「事実」を読み取るには訓練が必要となる。ビデオの枠に写らない背景情報等をどれだけキャッチし読み取れるか。また、観察対象者に溶け込んで行う手法という特性上、観察者には謙虚であることが求められる。以前、工事現場で行動観察を実施した際、観察者がタクシーを現場に横付けしたことで、ひんしゅくを買った。

行動観察の応用事例をいくつかご紹介頂いた。

■男子高校生と男子大学生の洗顔の仕方

高校生の方が熱心で洗顔時間は概ね大学生の2倍。ただし、10人中8人が間違った洗顔の仕方をしている。力を入れ過ぎたり、無駄に2種類の洗顔フォームを混ぜてみたり。正しく洗顔していた2人に共通するのはお姉さんがいること。姉から指導を受けたり、見て学んだりということが考えられる。洗顔フォームの広告の際は、単にイメージ訴求をするのではなく、正しい洗顔の仕方も訴求する必要がある。

■顧客サービス優良店とダメなお店の違い

同じマニュアルをベースにしていても、お店のカルチャーが明らかに違う。優秀なお店の店員は、どんなに忙しくてもしぐさが優雅で落ち着いている。ダメなお店は、例えば、お皿を下げる際、「お下げしてよろしいですか?」と言いながら、既にお皿に手をかけている等。

■銭湯で生ビールの売上を59%アップさせた事例

行動観察により、最もビールの注文に繋がる導線がサウナであることを把握し、サウナ内の行動観察を実施。サウナの中ですべての人が必ず行う行動が「時計をちらちら見ること」を発見。時計のそばに、おいしそうな生ビールのポスターを貼ったことで、サウナ後の生ビールの注文が激増。

■健康ランドで自動販売機の飲料の売上を75%アップさせた事例

よくある光景として、お父さんと子供でお母さんが出てくるのを待っている。その際、子供がお父さんに飲み物をせがむ。お父さんは「ママが出てくるまで待って」となだめる。ところが、お父さんが喉が乾いて自分用に買ってしまうと、子供にも買わざるを得ない。以上の行動観察から、「お父さんにもっと買わせることができれば、売上を増やせる」との仮説を抽出。自販機の品揃えは、「子供が欲しがるもの」を中心に並べているので、それを「お父さん目線」で再構成。具体的には、銭湯の定番「コーヒー牛乳」を目立つ様にレイアウトしたことで、売上激増。

最後に、私の所感です。「人は自分の考えを言語化できる」という前提が成り立たないのは明らかである一方、現実には従来型の定量調査依存からなかなか脱却できないのは、「解釈の幅が狭く組織内コンセンサスが得られやすい」から。行動観察から得た知見・仮説の解釈に対し、組織内でコンセンサスを得ていく一連の仕組みの確立が今後の課題であると考えます。

著者のおひとりであるDr.井出留美さん(一人広報の達人、オフィス3.11代表)から献本頂きました。

自分では、まず買わない本(すみません)だなぁと思いつつパラパラページを読み始めたら、つい引き込まれて、最後までマジ読みしてしまいました。

「四快」とは「快眠・快食・快便・快動」を意味し、健康な子供に必要な4つの快として、それぞれのパートを各専門家が執筆するというスタイル。ちなみに、井出さんは、「快食」のパートをご担当されています。

4つのテーマそれぞれ興味深い(そして相互に関連している)のですが、特に「快眠」と「快便」のパートが面白かったです。

「快眠」パートは、全体の編者でもある神山潤医師による執筆。NPOに参画されたり、時間の許す限り睡眠に関する講演を行ったりととても精力的に活動されており、厚労省主催の睡眠に関する検討会で主催者のやる気のなさに会議の場で激昂してしまう程の熱血漢でもあります。

生体時計を尊重し、朝日をしっかり浴び、昼間は適度な運動で体を疲れさせ、夜は徐々に光量を落とし、メラトニンが生成される環境(睡眠導入環境)を作り出すという基本の重要性を改めて認識。逆に睡眠負債が蓄積すると、認知能力や集中力が落ち、イライラしやすくなり、更にはアルツハイマーにもなる確率が高いという衝撃の事実も!?ただし、必要睡眠時間に関しては個人差が大きいこと、睡眠の量ではなく質が重要であることもきちんと書かれています。

「快便」パートは「うんち王子」こと日本トイレ研究所代表の加藤篤氏による執筆。「うんちを進んでできる環境の整備」が如何に重要で、「うんちは恥ずかしいものではなく、健康のバロメーターとして身近なもの」という意識改革に一貫して取り組まれているのですが、その赤裸々な苦労話がこれまた面白いのです。

私自身は、本書を読んで、親としての心構えが大きく変わりました。そして、早寝早起きや快便の習慣づけをきちんとやってくれている妻に改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。ちいさなお子さんをお持ちの方(パパ、ママ問わず)お勧めの1冊です。


四快のすすめ―子どもの「快眠・快食・快便・快動」を取り戻す/著者不明
¥2,415
Amazon.co.jp

「自由主義の再検討」というタイトルから、社会主義・共産主義系の本かと一瞬誤解してしまうのですが、古代から現代までの思想史・政治史・経済史を体系的・客観的に網羅した良書です。私自身も完全に理解できていると自信を持って言える状況ではありませんが、常に手許において置き、繰り返し読みたい1冊です。

「これまでの要約」にある通り、本書は「資本主義、議会制民主主義、功利主義という順序における自由主義の正当化の問題に始まって、それに対する社会主義の挑戦が何であったかを問い、その失敗の原因がどこにあったかを問いながら、今日の自由主義と自由主義の理論を検討してきた」という内容で展開される。

今回、勉強になったのが、資本主義も、議会制民主主義も、ヨーロッパの長い歴史の中では必ずしも好意的ではなかったということ。営利活動に対しては、常に倫理的・宗教的に制約がかけられていたし、民主主義も衆愚政治と同一視され、存在しうる国制のうちきわめて低い位置しか与えられていなかった。「徳による支配をよしとする貴族的な階層社会が存在し、支配の原理は秩序そのものに内在する」というのがギリシャのポリスから脈々と受け継がれている考え方だ。

ところが、ルターの宗教改革を機にプロテスタティズムが台頭したことで、富の蓄積は救済であると正当化され、次第に「救済」の為の「営利」が自己目的化し、「営利の為の営利」となっていった。また、政治に関しても、ホッブズに始まる社会契約説の出現以降、特定の秩序に基づく徳による支配が崩れ、個人が生まれながらにして持っている「自然権」を追求することが是とされ、功利・欲望のあくなき追求に繋がった。

これら、資本主義・議会制民主主義の暴走を修正しようと試みたのが社会主義・共産主義であるが、ソ連邦崩壊に見るとおり実地での実験は失敗に終わった。また、理論体系としても、権力の悪にたいして楽観的過ぎたこと、また、歴史そのものがひとつの普遍的法則によって支配され、かつ人間がそれを完全に認識しうるという歴史観そのものにも問題があったと考えられる。

結局は、資本主義・議会制民主主義を前提としながら、それに法的、政治的規制を加えつつ、徐々に軌道修正していく考え方が現実的であるというのが本書の主張であり、そのひとつの解決策としてコミュタリアニズムに着目している。

「実践そのものの場、つまり関係の網の目をおのれの属する小集団に始まって、可能な限り拡大していくことが必要である」というコミュタリアニズムの考え方は、実は、webやソーシャルメディアの普及に伴い、共通の価値観をベースにした新たな無数の小集団が形成されつつある現状とも合致しているなぁなどと感じたりもした。

いずれにしても、壮大なテーマを、実に簡潔にわかりやすくまとめた本であり、一読を強烈にお奨め致します。

自由主義の再検討 (岩波新書)/藤原 保信

¥735
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日経ビジネスの記事で「組織行動セーフティマネージメント」なるものが紹介されていた。

「人間の意識を変えることは難しいという前提に立ち、行動を変えることで組織の安全性を高める」というアプローチである。

なぜなら、人間は、「ポジティブ」で「即時」で「確実」なものを選好する生き物であるからだ。

例えば、『なかなか禁煙できない人は、「たばこを吸うとすっきりし、気分転換になる」という、確実にすぐ起きるポジティブな結果に影響を受けている。「たばこを吸い続けるとガンになるかも知れない」と言われても、その事象をすぐに確実に起きるとは認識しないから、影響を受けにくいのだ。「ガンになるかも知れない」というネガティブな結果は、起きたとしても遠い先のことであり、しかも、必ず起きるとは限らない』

これを製造現場に置き換えると『生産ラインのオペレーターは、安全のために、決められた作業手順に従って行動せねばならないが、放っておくと手抜きをしてしまう。工場で働く作業員が安全基準を無視して手を抜いていたとする。この行動には、手を抜くことで「早く仕事を終わらせることができる」という結果が大きく影響している。作業員にとっては確実にすぐ得られる得られるポジティブな結果だ。手を抜く危険行為によって「自分や他人が怪我をする」かもしれないが、これは必ず確実に起きるわけではない。だから作業員の行動に影響を与えにくいのだ。』

であるから、組織行動セーフティマネージメントでは、

『やってはいけないことを注意したり、叱ったり、罰を科したりといったこれまでの安全活動とは違う。あくまで安全行動を取っている人を褒めて認めることによって、安全文化を作り上げていく活動だ。安全行動を習慣化する取り組みであり、疲れていたり、暑くてもうろうしていたりする状況にあっても、無意識に安全行動が取れるように訓練する「安全行動を取ろう」「危険な行動はやめよう」といった単なるスローガンを並べても事故を防止できない。最悪の事態を想定して安全対策を立て、安全行動を取るように訓練していくことが必要だ』

この考え方、大いに共感です。

生産現場においては(というか生産現場に限らず)、何か事故が起きると、再発防止作という名目でマニュアルが強化されるので、結果的に作業量が増え、プロセスが複雑になる為、それを無視したくなるという悪循環に陥る。こういう事例に遭遇する度に、これは「抜本的な解決には繋がらないだろうなぁ」と思いつつ、あくまで「説明責任」という目的のみからこのような対策が取られていると感じてしまう。

この「組織行動セーフティマネージメント」のアプローチは、実に人間の本質を捉えており、「無意識に安全行動が取れる」という状態が実現できれば、世界中の生産現場での生産性が飛躍的に上がると感じました。

大いなる期待を持って、今後の動向を見守りたいと思います。