2年前の春先某日。
珍しく某雑誌の仕事を引き受けた。
5回連載の予定で
ある作家にインタビューして
書いてまとめる仕事だったが
最後の回のインタビューが終わると
「ちょっとつき合って欲しい」
と誘われ
終了後にそのホテルのラウンジで
さしでお茶することになった。
ん?
俺なんか文句でも言われるのかと
軽く身構えたが(小心者)
しばらくどうでもいい雑談の後
作家は「自信がない」と口にした。
ん?
あなたすでに有名人だぞ
何十冊も本出してるし
ベストセラーもあるし
そんな人に自信がないって言われても
俺なんも言葉持ってないぞと
黙ってコーヒー飲んでいると
作家が色んな出版社や
編集者のことを語り始めた。
いわく
取引先や担当者によって
要望も思惑も全然違う
そこに応えられる気力がない
昔はかなりあったんだけど
年を取って疲れてしまったと。
言うことを全部聞いていると
頭が混乱するのだと。
混乱して混乱して
いますべてが嫌になっていると。
インタビューでは無敵の人のように
自信たっぷりに語っていたが
目の前にいる作家は
とても同じ人物とは思えなかった。
その雰囲気に押されて
わたしもつい色んな話をしたが
「なんで気を遣うんですか?」
という台詞は
いまもよく覚えている。
そう言われ
作家はハッとした表情だった。
だって作家なんだよ?
著者だよ?
本は作家のメッセージを伝えるために
存在するんだよ?
出版社や編集者の要望や意見は
アドバイスとして受け取って
あとは作家が自分の思いに素直に
書けばいいんじゃね?
作家ってそういうもんじゃね?
そんなことを
もう少し丁寧な言葉で伝えた。
ホテルを出てタクシーに乗り込む前
「せちさんと喋って良かった」
と異様に感謝された。
まあ
そこからやりとりはないんだが(笑
それから
ちょうど2年後の先月。
「なんで気を遣うんですか?」
と
今度はわたしが言われてしまった。
言ったのは
今日まで15年くらい交流がある
やり手の経営者。
彼はこれまで
次々と会社を興してきた。
メディアにも取り上げられた。
わたしも尊敬しているし
半年に一回くらい食事しながら
世の情勢について
ああでもないこうでもないと
雑談する仲間だが
その経営者に
2年前にわたしが作家に言った台詞を
まんま言われたのだ。
ある仕事でちょっと迷っていたのを
見抜かれたのだろう。
さすがだなあと感心した。
わたしはこの手の台詞を
人生で言われたことがないくらい
他人に気を遣わない性質だが
やっぱりどこかに
変な気遣い=迷いがあったんだろう。
「喋れて良かったですよ」
今度はわたしが
感謝を伝える番だった。
本音で言ってくれる相手って
大事だね。