◆ 日系人強制隔離と人種的偏見

 そしてもう一つの大きな要因は、米国人の人種偏見にあった。

既に我々はその萌芽を、国際連盟による人種平等案否決(一九一九)と排日移民法(一九二四)に見てきたが、大東亜戦争の勃発時に起った日系人強制隔離ほど、米国人の心に巣くふ人種的偏見を露わにした事件はなかった。

次の文章は、その事実を指摘して占領軍によって削除された事例である。(削除理由不明)

 

 …今回の戦争について見るも、太平洋沿岸諸州に在住していた十二万の同胞が一九四二年三月以後一斉強制退去令の下に五十年の生活と事業の基礎をすて、莫大な損害と名状し難い内心の苦痛を忍んで戦時中収容所生活を余儀なくせられたが如きは、明白に人種的偏見が其背景をなして居り、これを利用した一部米人の悪質な経済的利得を目的とする宣伝と策動の結果である事は自他共に認められて居る。

(中略)
 …太平洋沿岸諸州、即ちワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州に住居して居た同胞十一万八千がその七割が米国生れの日系市民であるにも拘らず、一世も二世も一人残さず、何等の罪状も示されず、何等法廷の保護も与えられず、一斉に強制退去を命ぜられ、米国西部の山嶺、砂漠地方に急設せられた十ケ所の…一種のコンセントレーション・キャンプ[強制収容所]におい込められた…たとへ立退きその事自体は戦時中国防上の必要から憲法違反に非ずとの判決があたにしても、これが人種的偏見に基づくものである事は、同じ立場にあた独逸人や伊太利人等には、この一斉強制退去は発動せられなかた事実に照らしても明白であるから、心ある米国人の中には、この事件を今度の戦争中米国が国内で犯した最大の非アメリカ的失策であると裁断して居る人もある次第である。



■ 日系人は危険…70年前の隔離要請決議取り消し 米ロス:2012/6/8共同
 米ロサンゼルスの行政委員会は6日、旧日本軍によるハワイの真珠湾攻撃から間もない1942年1月に、日系米国人が危険だとして隔離するよう連邦政府に求めた同委員会の決議を、全会一致で取り消した。

 この日系人強制隔離は、広島・長崎への原子爆弾投下と並んで、戦時中に米国の犯した「最大の非アメリカ的失策」であったが、「今度の戦争中」どころか「アメリカ史において市民的自由が侵害された最大の例」だったとしているのは、米国の歴史家ニューマンである。

 

 一九四二年二月に、ルーズヴェルト大統領は、西部沿岸の政治的要求と軍事上必要だという主張に屈して、陸軍が、これらの日系米人たち…を大量に立ちのかせ、…鉄条網を張りめぐらした収容所に入れることを許可したのである。

(中略)
 一九四四年に、最高裁判所は、憲法修正第五条によって保証された、適法手続を受けるアメリカ人の権利が、このように大規模に侵害されたことを、合意であると判定した。

(中略)

しかし、…この行為は、アメリカ史において市民的自由が侵害された最大の例であったように思われる。

 

 だがこの事件に対しては、一九八八年(昭和六十三)八月、レーガン大統領が米政府として公式に謝罪し、補償金の支払ひを決定する等、既に米国側もその非を全面的に認めていることを付記しておきたい。
 我々はハル・ノートや原爆投下に対しても、米国側の非は非として、粘り強く歴史の真実を主張する努力を、怠ってはならぬと思ふのである。